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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第四章・過日の亡霊――亡き元王女により暴かれた過去

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【01】

 侯爵が殺害された日以上に、ざわついている機関本部。


「休暇を取り消しに戻ってまいりました。魔道列車の払い戻しは経費でお願いします」


 まっすぐ第三室へと向かい、オルタナにチケットを突き出すと、軽く取り上げて、秘書官へと放り投げた。


「魔道電車が出発する前でよかった。ついて来い。経費精算しておけ」

「本当で経費で落ちるとは」

「そのくらい、面倒になってるってことだ」


 第三室を出て向かうのは、恐らく会議室だろうな。


「なんで長官が逮捕されたんだ?」

「上級調査官に説明がある」

「あー。眠いー。徹夜したもんな」

「俺も徹夜したが、眠くはないぞ。そもそも、一日徹夜したくらいで、眠くなるような体質でもないだろう」

「わたしは、寝る一歩手前だったんだ。気持ちはもう、寝てたんだ。あー眠い」


 予想通りもっとも大きな会議室に入ると、ほとんどの上級調査官が揃っていた。


 説明する所――教卓にあたるところにクアルバーグ参事官がいて、両サイドに部下が五名ほど。

 わたしとオルタナは、空いている席に腰を下ろし……悲しいことに二つ並んで空いていたため並んで腰を下ろすハメになり、手書きで複製された書類が配られる。


「全員揃ったようなので、説明を始める」


 書類は全員に行き渡るほどは用意できなかったらしく、二人で一つの資料を。悲しいことにオルタナとわたしが一組にされ、書類はオルタナに奪われた。

 仕方ないのでしょぼしょぼとした瞳で、参事官を眺める。


「昨日、国王より諸君らの手元に配った文章を元に、エルトハルト長官を逮捕するよう指示があった。亡くなられた御息女とは違い、捜査の基礎すら学んでいない最高権力者が”逮捕だ! 極刑だ!”と騒いで、鬱陶しいことこの上ない」


 参事官が相変わらず辛辣。この人、国王のこと嫌いだもんなあ。


「お前たちが今、目を通している怪文章は、調査機関の者にとっては、長官を逮捕する理由には値しないが、国王にとっては逮捕するに値する証拠らしい」


 感情で逮捕させたのか……これが普通の家庭だったり、ちょっと親子の行き違いがあった程度なら、この怒りも分かるが、行きすぎた妹贔屓と、冷遇し続けて家族の縁を切られたあとにこの騒ぎとか、こっちが冷めるわ。


 後悔しているのでは? してるんじゃない。知らんが。


「逮捕はしたくなかったが、長官の身の安全のために拘禁した」


 お前に裁く権限はないからね? 国王。

 国王なのに裁く権利ないの? ないんだよ。というか、裁けなくなった。ユセリラルダ侯爵によって、数々の冤罪が暴かれ、その最終判断を下していたのが、彼女の父である国王だったから――五年前に貴族の冤罪を暴いた際に、責任を取って退位……ではなく、司法権を剥奪したのだ。


 汚辱にまみれた玉座に座らせておくというのも、なかなかきつい仕置きだとは思う。さらに権力をそぎ落としていくとか、良い性格してんな! 侯爵! 本当の性格は知らないけどさ。


「法を遵守し、冤罪を嫌ったユセリラルダ侯爵閣下の尊厳を冒す愚行である」


 言いたい放題。だが気持ちは分かる。

 とくに参事官は、この国の貴族で、ユセリラルダ侯爵と同級生で、彼女の才能と冷遇を側で見てきたからなあ。


「馬鹿王エスカバーナが己の愚かさに気付くのは、五日後の大法廷」


 五日後に判決下るの?

 いや、まあ、以前はそうだったとは聞いているけど……ええー。


「王に司法権はないのでは?」


 調査官の問いに、苦虫をかみつぶしたような表情で、クアルバーグ参事官が答えてくれた。


「小賢しいことに、先に民衆に周知した。ユセリラルダ侯爵閣下の知名度と、彼女を殺害した犯人にたいする憎悪から、民衆を扇動し、五日後に大法廷を開かなければ、長官の身が危ない」


 ほんと、小賢しいなあ。さすが国王って言えばいいのか? ……で、長官を告発した文章はどんなもんなん? 早く寄越せよーオルタナ。


「クアルバーグ参事官、ここは一つ、平行して犯人捜しも行いませんか?」


 わたしたちに配られた書類を、一人で読んでいたオルタナは書類に目を通しながら声を上げた。


「そんな時間はない。オルクス副参事官」

「切り札として、探すべきです。我を忘れているカラブリア王が、参事官の正論を受け入れるとは、到底思えません」

「オルクス副参事官の言う通りだが……」


 自分の国の王が分からず屋と他国の奴に言われるのは、尊敬していなくとも、言い淀んでしまうのは、貴族だから仕方ないんだろうね。


「分からず屋の国王が”長官は犯人ではない証拠”を提出しただけで、矛を収めるとは考え辛い。ましてや、侯爵家の息子程度の言葉ではね?」

「……我が国の王が分からず屋なのは認めよう。身分で見ることも認める…………勝算はあるのか?」


 オルタナが書類から顔を上げ、


「いざという時は、バビロン最大の戦闘クラン、ウィルトゥース一家が脱出させてさしあげますよ」


 証明できなかったら、力業する宣言。


「街中で武力を行使するということか」

「長官が処刑されたら、戦争もありえます。なにより無罪の長官を殺害したとなれば、カラブリアの国際的な地位はないものになります。クアルバーグ参事官が崇拝する、ユセリラルダ侯爵が築いたものを、無きものにしたくはないでしょう。カラブリア軍如きが、長官を殺せるかどうかは別として」


 長官を殺害するのは、骨が折れるからなあ。あの人、魔力が化け物だからな。


「案があってのことだろうが、具体的にどうするつもりだ? オルクス副参事官」

「クアルバーグ参事官は長官の罪を確固たるもににする……という名目で、調査をするふりを続けてください。ここで調査の手を緩めたら、真犯人が長官を殺害……いや、まあ無理でしょうが、とにかく殺害しようとするでしょうから。その間に真犯人を捜し出します」


 罪をなすりつける場合、デコイに語られると困るから殺害してから「遺書」を置く方式が多いが、長官は普通の人間じゃあ殺害できないからな……魔力が凄すぎて。


 …………なんで、長官を犯人にしたて上げようとした? 殺して遺書を置くほうが確実だ。それを遂行するにあたって、長官ほど不適切な人はいない。

 そしてオルタナが「いや、まあ無理でしょうが」なんて言う相手、長官しかいないよ。初めて聞いたぞ、こいつが「無理だろ」って言ったの。

 いかなる迷宮の魔物相手でも、無理って言わないこいつが!


 考えれば考える程「なんで長官を犯人にしようとした?」だな。


 有罪にできる証拠がある……のか? 昔のカラブリアなら、まだしも……昔のカラブリア貴族の思考?


「その意見はもっともだ。お前が真犯人捜査の指揮を執るのか? オルクス副参事官」

「総指揮を執りたいところですが、わたしは冒険者ギルドと王都にいるウィルトゥースや、他の者たちに声をかけて、長官を逃がす算段を立てて、実行できる準備に注力させてもらいます。調査の指揮はエリニュス主幹を推薦します」


 オルタナは読み終えた書類をわたしに放り投げ――


「エリニュス主幹を推薦する理由は?」

「ユセリラルダ侯爵殺害の現場に、犯人がどのようにして侵入したのかについて解明したからです」


 会議室がざわついた


「なぜ報告しない」

「エリニュス主幹が侵入方法に気付いたのは昨日で、報告を受けたのも昨日。わたしも確認してから、長官への報告書類を書き、完成したのは本日です。こちらが長官に向けた報告書です。クアルバーグ参事官に向けてでしたら、もっと簡単なもので済んだんですがね」


 持参した書類を渡し――侵入方法が判明したのは、監視カメラの映像が……と書かれているのを見て、額に手を当てる。

 長官が”これ”を証拠として採用してくれるかどうか? 悩む案件であることは分かったらしい。


「…………これは、本当なのか? わたしも、何度も見たぞ」

「本当です。あとで確認をお願いいたします」

「これに気付いたのが、エリニュス主幹だと」

「はい」


 オルタナの言葉に少し考えたクアルバーグ参事官。


「出来るのか? エリニュス主幹」


 そしてわたしを見た。


「今から三時間仮眠をいただけるのでしたら」

「三時間の仮眠?」

「今日から休暇でして。魔道列車で出かける予定で、移動中に寝ればいいだろ……と、オルクス副参事官が。そして徹夜して仕上げたのが、それです」

「犯人の目星はついているか?」

「長官に罪をなすりつけたことで、かなり絞り込むことができました。昨日見つけた情報と照らし合わせれば……”おそらく”という人物が一人。あとは裏を取るだけです」


 会議室の調査官たちの目が、一斉にわたしに向いた。


「今朝まで気付いていなかっただろう?」


 オルタナが心底驚いた……と。

 バベルの塔でなら、知っていることを伝えないこともあるが、カラブリア王国での調査ではそういうことはしたことなかったからな。


「怪文章が届いたことで、余計な部分がそぎ落とされた。まだ読んでないけど」

「これがか」

「はい。まあ外したら、死者蘇生で王都を混乱させて、長官を逃がすお手伝いしますよ、オルクス副参事官」

「死者蘇生も作戦に入れとけと? 面倒くせえな、そいつは」

「じゃあ、お前等ごと殺してやるわ」

「相変わらず」


 手に持っている告発文という名の怪文章を丸め、掌をぽんぽんと叩く。


「では三時間寝ろ。その間に……不本意だが、完全な白骨を用意する。何体必要だ」


 クアルバーグ参事官が間に入ってきて――長官にも分体の使用は禁止されてないからな。あ、でも白骨は要らないですよ? なくてもできますよ。言おうと思ったが、白骨を用意するようすでに命じているので……ありがたく頂いておこう。


 白骨でを使った愉快で丁寧な、冒険者生活を送っていたことをバラしたオルタナが悪い!


「三時間で用意できる分で。資料は全部用意しておいてください。じゃあ、三時間後に起こしてくださいね」


 会議室の机に乗って横になり目を瞑る。


 久しぶりに中二病全開で、右肩甲骨を疼かせるとするか!


 疼くの肩甲骨なの? 右目じゃないの? ああ、右肩甲骨なんだ。ばっきばっきに疼かせる!


 三時間睡眠を取ったあと、集めてもらった情報と、新たに情報を集めて精査を繰り返し、大法廷に間に合わせることができた。


 一発勝負で決まる裁判という名の公開処刑場で、冤罪を証明するという限りなく高度なミッション――わたし調査は好きだけど、裁判には特に興味ないんだよねえ。


 謎解きが好きで副業にしているだけなんで。でもまあ、公的機関で楽しく調査を続けるためには、ラッカンネール・エルトハルト長官の冤罪証明しなけりゃならないから、作法と法律に従って勝ち取るとしよう。

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