お茶会③
珍しく根気よく相手にしていたクラウスだけど、時間が経つにつれてイライラし始めたようで舌打ちが聞こえた。そのせいで、婚約者の令嬢が失礼だとまた怒りを顕にした。
終わりが見えない会話に、クラウスが暴れ出さないといいけど…と心配していると、異母兄が婚約者に落ち着くよう言ったから、やっと帰るのかと思えば違った。
「今日ここは使われる予定ではなかったはずですが何故ここに異母妹がいるんでしょうか?まさか、お茶会で何か粗相をしたとか?」
「話を逸らしてんじゃねぇよ。俺は今すぐ出て行けって言ってるだろ」
「必死になって私達を追い出そうとしている辺り粗相をしたのね。皇女の地位にいながらお茶会の一つもまともにできないなんて本当に出来損ないの皇女なのね」
「今の発言は王族侮辱罪に当たることを知ってて言ってるのか?」
「私は皇太子妃で皇女より身分が上なんだから何も問題はないわ」
異母兄とその婚約者は庭園から出て行くように言っても出て行かず、ついには話を逸らして私を侮辱する発言をしてきた。いよいよ我慢ならなかったのか、ラティアス嬢がメイドのアイシャに声をかけてパパの元へとこっそり向かって行った。
ただでさえ、お茶会で私が令嬢達に失礼な発言をされてキレていたのに、次は異母兄とその婚約者に私が侮辱されたなんて報告を受けたらパパがどうなるかなんて、想像するだけで三歳の頃のメイドと執事を惨殺した事件を思い出してしまった。
異母兄とその婚約者の首が飛ぶようなことにならないといいなと思いながら、これ以上の暴走はやめてくれと願った。
「あ゛〜、めんどくせぇ。これが最後だ。皇女専用のこの庭園から出て行け。出て行かないのなら強硬手段を取らせてもらう」
「強硬手段なんて取れるわけないじゃない。王族に怪我をさせてしまった場合、首が飛ぶのよ」
「もう飛んでいいからお前らの首を飛ばしたいと俺は思ってるよ」
「あ、ついに本音を言いましたね」
「思考がパパと同じだから、めんどうになるとすぐに殺す思考になるんだよね」
「皇子と彼女の発言からその思考になっても仕方がないと思いますよ」
とうとうめんどうになったクラウスは、パパのように殺す思考になったようで本音をぶちまけた。隣にいたアルベルトがついに言ったか…と言う顔をしながらクラウスの方に視線を向けて、まだ大丈夫だと判断したのかすぐに視線を私に戻した。
背が高いと、この鉄壁のような囲い込みでも関係なく見えるから少しいいなと思いながら、異母兄の婚約者が言っていた言葉を思い出した。
“皇女の地位にいながらお茶会の一つもまともにできないなんて本当に出来損ないの皇女なのね”
この言葉から、皇子派の貴族達は私を出来損ないの皇女と評価しているというのが知れて、悲しみや怒りだけでなく悔しさも覚えた。
皇子派の貴族にそう思われているのなら、貴族社会で私が出来損ないの皇女だと広まっているのは確実だ。
最近、皇女派の貴族の数が減っているはこれが理由だろう。お茶会での令嬢達の失礼な発言も自分達が開くお茶会と比べて嫉妬しただけでなく、もしかしたら出来損ないの皇女のくせにこんな素敵なお茶会を開けるなんて…という思いが少なからずあったのかもしれない。
名誉を挽回させる必要がある。だけど、私は魔法を使えないから他の方法で挽回させなければいけない。人脈と評判は、王族や貴族にとってとても大切なものだから尚更だ。
どうすれば名誉を挽回させられるんだろうかと必死に考えていると、あちこちに雷が落ちた。
クラウスがついにやったのかと慌てて下げていた視線を上げると「皇女専用の庭園を踏み荒らすとはどういう了見だ?」というパパの声がして、声の低さから今までにないくらい怒っているなと悟った。
「お前達は皇子達の護衛を取り押さえろ。そして、答えろディアン。これはどういう了見だ」
「そ、それは…」
「新しく作った五つの庭園は皇女専用で皇女とその周りの使用人以外の立ち入りは禁止と俺は間違いなく伝えたはずだ。それを知っていてこれはどういうことだ?挙句に皇女を侮辱?よくできたな。立ち入り禁止だと知ってて庭園に侵入したお前達の方が皇女より出来損ないの子どもじゃないか」
私達を囲っていた騎士達が異母兄達の護衛騎士を取り押さえるために退いたけど、メイドとソルフィール嬢とアルベルトに戻ってきたラティアス嬢とクラウス、そして、こちらに避難してきた死人みたいな補佐官が壁になっているために、変わらず異母兄達の様子は見えなかった。
それでも、パパが現れた途端、面白いくらい黙り込んでいるからパパを怖がっているのは確かだ。
パパが怒ることなんて最初からわかっていただろうに、何でこんなことをしたのか本当に理解ができない。
「クラウス、私を抱き上げて様子見せて」
「バカ言うな。お前は大人しくしてろ」
「皇女様、流石にそれはやめておいた方がいいです」
「じゃあ、三人はどんな様子なの?」
「魔王が怯えた村人を今にも殺しそうな様子です。恐ろしい…」
「そんなこと言って大丈夫なの?」
「陛下に聞こえていなければ言っていないのと同じです」
「俺らがあいつに言うかもとかは考えてねぇのかよ」
異母兄達は完全に黙り込んでしまった。それなのに、パパは異母兄の属性魔法の扱いと魔力量の話を出してダメ出ししたり、勉強においてもダメ出ししたりして罵倒していた。
そんな実の父親にダメ出しされた異母兄がどんな顔をしているのか気になって、小声でクラウスに様子を見せてほしいことをお願いすると、即答で却下されてしまった。
聞いていたアルベルトや補佐官にも止められたから仕方なくどんな様子か聞けば、補佐官がパパを魔王、異母兄達を村人に例えて教えてくれたせいで、魔王のパパと怯えた村人の異母兄達を想像してしまい笑いそうになった。




