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じゃあね



「すぅ……すぅ……」



宴が始まって1時間半。リーナはジャッキを片手に机で寝てしまった



「寝ちゃいましたね」

「幽霊の私らと違って、神はアルコールの影響とか受けるのね」



満腹にもならないし、アルコールで酔うこともない。お腹に入ってるはずなのに、それを一切感じることが出来ない

ある意味羨ましがられるような、永遠に食べ続けるから面倒なような……



「にしても神に見えないね。こう見ると」

「た、確かに……」



酔っ払って寝落ちしている姿は、ただの人にしか見えない



「リーナって美しいよね。何歳なんだろ?」

「何歳かは知りませんけど、面白いことは聞きましたよ」

「え?何かあるの?」

「実はリーナさんってもう何百年も前からこの街に住んでるそうです」

「な、何百年⁉︎」



途方もない期間に私は素直に驚いてしまった



「そ、そんなに長く……というかそれならおかしく思われない?見た目だって変わってないだろうし……」

「それがリーナさんには『認識阻害』っていう力が付いてるらしいです」

「に、認識阻害?」

「はい。なんでもリーナさんのことは、誰であってもどんなに時間が経っても24歳の赤髪の女性っていう認識になるそうです」

「何その力……すごっ」



誰であってもということは全員に力が働いてるということ。規模の大きな話だ。さすがは神様



「で、このお店自体も創業してから2年だと認識するらしくて、リーナさんがおかしいことに誰も気がつかないってことです」

「へぇ〜……ん?あれ?ここって私が生きてた時もあったっけ?」



あったような無かったような……生まれた時からあった気もするし、幽霊生活中に出来た気もする……



「あー……これって幽霊の私達にも効いてるんですね」

「ヤバい……これが認識阻害の力?」



このケーキ屋のことを考えると何も思い出せなくなる。記憶に靄がかかってるって表現が1番しっくりくるぐらいに



「まあそういうことなんで、考えても思い出せなくなってますし、この話は忘れましょうか」

「……そだね」



改めて神の凄さを実感した



「それにしてもこうやって話せるのはもう最後なのかぁ」



樹里が人間に戻れば、もう私のことは見えなくなるし声も聞こえなくなる



「え?何言ってるんですか?」

「へっ?私なんかおかしなこと言った?」

「私が死んだらまた会えるじゃないですか」

「途方もなく先の話だなぁそれ」



でも会うのが先になればなるほど、樹里は人生を全うしたことになるから良いのかな?



「……でも待ってるよ。また会った時は樹里の人生の話聞かせてね」

「そりゃあもういっぱい話してあげますよ!1年ぐらいかけて‼︎」

「長すぎです」



せめて1週間ぐらいに纏めて欲しい……



「……楽しみ?家族とまた暮らせるのは」

「はい!……と言いたいところですが、不安もありますね」

「不安?」

「娘とちゃんと向き合えるのかなって。長くお父さんと2人にしちゃって、今更私のことを受け入れてくれるのかとか。身体は完全に訛りきってるだろうから、元の体力とかに戻せるかなとか。今回はタナトス様のおかげで人間としてやり直すことが出来ますけど、また同じようになるのが怖いとか……挙げればキリがないですね」

「なぁーんだそんなこと?思ったよりショボいことでびっくりしたわ‼︎」

「わ、私は本気で不安なんですよ⁉︎」



不安なのは樹里の表情を見ればよく分かる



「あのねぇ……娘ちゃんは病室での一件でしか見たことないけど、お母さんのこと好きな様子が分かるし、身体の訛りなんて気合いでリハビリすればなんとかなる‼︎死ぬのが怖くない人なんているわけない‼︎人なんて思ったよりもあっさり死んじゃうんだから心配するだけ無駄‼︎そんなこと心配する暇あるなら、悔いのないように楽しく生きる‼︎

……それが大事だと思わない?」



私はこの事に死ぬ前に気が付きたかった



「……なんか説得力がありますね。私より人生経験が長いからかな?」

「バカ。生きた年数で言えば私の方が下なの。しかもその差はこれから広がるし」

「本当ですね。じゃあ実質私の方が年上か……暴言吐いていい?」

「なんでっ⁉︎なんでそうなった⁉︎」

「冗談です」

「……本当樹里ってやることなすこと唐突だよね」



私が言えたタチではないけど……



「……そんなこと不安に思うよりさ、戻った時に何したいか考えたら?」

「何をしたいか……」

「そうそう!いっぱいあるでしょ?」

「そうですね……ハイキングに行きたいです」

「おおっ!いいじゃんいいじゃん!」

「あとは、キャンプとか釣りとか!ボウリングなんかもいいですね!」



意外とアクティブな樹里。でもそれが普通に出来るぐらい身体を戻せたなら、それも良いと思う



「……どう?不安消えた?」

「和らぎました!」

「そう……なら良かった」



むしろ不安を覚えるのは私の方……あともう10ヶ月近くしかないけど、樹里がいなくなった私は孤独を覚えずにやっていけるのか?



樹里が居た期間よりいない期間の方が長かったけど、樹里が居ることに慣れてしまった……今よりも初芽の所とか、リーナにお世話になる頻度が増えそう



「……李華さん」

「ん?」

「改めて……今までお世話になりました」



浮いた身体を地面につけて、樹里は深々と礼をした



「ちょ、ちょっとやめてよ‼︎柄にもないことするものじゃないよ?」

「そうかもですけど、感謝を伝えられるのは今日が最後なので」

「う、うーん……なんかむず痒い……」



しかも泣きそう……啜り泣きとかじゃなくて、ガッツリ泣きそう……



「本当に……ありが……とう……ございました」



そんな私より先に、樹里が泣き出してしまった

そんなの見せられたら……



「わ、私も……ありがとね……樹里!」



泣くことを我慢出来るはずがなかった



♢ ♢ ♢



「いよいよだね」

「……はい」



ナトちゃんが定めた時間まであと2分。ちょうど樹里の旦那さんと娘さんがお見舞いに来ている



「目が覚めたら第一声はなんて言う?」

「そんなの考えてません。自然に出た言葉をそのまま口にするだけです」

「……そっか。たまに樹里の様子見に来たりするからね」

「いいですけど、旦那とか娘の前で喋ったり物を触って驚かしたりしないで下さいよ?」

「し、シナイヨ?ソンナコト」

「……実は私の生活に李華さんが何かしら妨害を加えるようなら、即成仏するようにお願いしてあるんで」

「へっ⁉︎ウソでしょ⁉︎」

「ウソです」

「ウソかい‼︎」



ベロを出してしてやったりの表情。クソ……やっぱ可愛いなコイツ



と、ここで突然樹里の身体が光り出した。樹里が身体の中に戻る合図だろう



「じゃあまた」

「……うん」

「あ、そうだ」

「ん?」

「誰もいないタイミングでなら、たまには話し相手になってあげますからね」



樹里はそれだけ言い残して、身体の中に戻っていった



「それじゃあ樹里。また来るから」

「ママ、バイバーイ‼︎」

「……ま……って」



か細く、掠れて耳をすませないと聞こえないぐらい小さな声を、樹里の旦那さんは聞き逃さなかった



「じゅ、樹里‼︎い、今こ、声がっ⁉︎」

「ま……だ……帰んない……で」

「うん……うん‼︎まだ居るよ。ここにいるから‼︎」

「……し……の」

「ああ……紫乃‼︎こっちおいで?お母さんやっと起きたよ!」

「ほんとー?」



旦那さんは樹里の顔がよく見えるように、娘を抱っこした



「あ、起きてるー」

「ご……めん……ね?ねぼ……すけで」

「ううん。起きたから良いよ‼︎」

「これ……からは……ねぼすけに……ならないよ……ようにす……るから……ね?」

「うん!」

「あ、そうだナースコール‼︎医者の人呼ばないとな」



……樹里はさっきまで私達が浮遊していた方を見てニコリと笑った



「……さすがに見えてないか」



樹里は私に笑顔を向けてくれたのだと思う。でも私は既に窓の外から様子を見ていた。樹里には由布子さんらと同様に姿は見えないようだ



「まっ。もう樹里に頼るわけにはいかないからねぇ」



見えなくて良かった。じゃないと私はまた樹里に甘えてしまうところだったから



「……じゃあね。樹里」



樹里が長く素敵な人生を送れること、心から願ってるよ

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