お祝い
「おめでとう樹里〜‼︎」
「おめでとー」
「あ、ありがとうございます」
人間に戻る樹里をお祝いするためにリーナさんのお店にやってきた。もちろん営業時間外の夜中に
「お昼の2時だっけ?戻るのは」
「はい。そのタイミングでタナトス様の所に向かうことになってます」
今は2時だからちょうど12時間後の話だ
「でも条件付きでも人間に戻れて良かったじゃん。普通はありえないからさ」
「はい……本当に何回も思います。恵まれてるなぁって」
「……でもその代わり、条件のやつちゃんとキツイから頑張ってね」
「うっ……はい……」
リーナさんにはもう既に条件のことは耳に入ってるらしい
「あ、あのリーナさん。その条件ってやつ私に教えてくれません?」
「え?ダメだよ?」
「やっぱりかぁ……」
「タナトスに口酸っぱく「言うんじゃないぞ!」って言われてるから」
ここまで秘密にされるって……本当に何させられるのか……
「まあそれはいいから。今日は樹里のために色んなケーキ用意したから‼︎あ、ちゃんと幽霊でも食べられるやつね?」
机いっぱいに大量のケーキが並んでいた
「う、嬉しいですけど、私こんなに食べられないですね」
「幽霊って満腹にならないから大丈夫よ」
「え?」
私もお供えをよく食べるが、満腹になったことはない。初芽がバカみたいな量をお供えした時も満腹にならなかったし……
「で、でもこんな甘いものばっかりはさすがに……」
「それは大丈夫。ちゃんと豊富に用意したから」
リーナは順番にケーキに指を刺していく
「これは定番のショートケーキ。で、これはチョコ。これはモンブランケーキ」
「確かに色々ありますけど全部甘いものじゃないですか……」
「まあ待ちなよ。これがチーズケーキで、これがラーメンケーキ」
「 ……ん?」
私の聞き間違いかな?
「それでこっちがカツ丼ケーキにステーキケーキ。あとーー」
「ちょちょちょちょっと待って下さい‼︎」
私が止める前に樹里が一旦ストップをかけた
「カツ丼ケーキってなんですか⁉︎あとステーキとラーメンも⁉︎」
「甘いものばっかりじゃ飽きるのは分かってたから、しょっぱい系のやつにしたの」
「その気遣いはありがたいですけど、なんで全部ケーキにしちゃったんですか⁉︎」
「ごめんなさい……私はケーキしか作れないから」
「む、無理にしょっぱいの作ろうとしなくても、普通のケーキを1ホール分ぐらいで十分嬉しいですから」
胃袋に上限が無いにしても、ケーキを2つも食べれば満足出来そう
「でも……もう準備しちゃったし」
「い、頂きますよ‼︎ただリビティーナ様にこれだけしてもらって申し訳ないなぁって思っただけで‼︎あと変わったラーメンに驚いただけで‼︎気持ちは十分嬉しいですから‼︎」
樹里は1番近くに置いてあった真っ白なケーキを切り分けた
「え、えっと、い、いただきまーす‼︎……ふぐっ⁉︎」
樹里の手が止まった。というより時間が止まったかと錯覚するぐらい微動だにしない
「じゅ、樹里?おーい?」
瞬きもしないし息も聞こえない。樹里の身体から音が消えた
「……死んだ?もしかして」
「幽霊なんで死ぬとかないですから‼︎」
「あ、生きてた」
このネタも私達の鉄板ネタになってたけど、もう使えなくなっちゃうな……
「でも本気で死ぬかと思いました……味が衝撃的すぎて」
「な、何なのこれ?」
「……李華さんも食べて下さい」
「へっ⁉︎」
樹里はさっきのケーキを私の口に放り込もうとしてきた。が、私は寸前でその手を止めた
「な、なんで拒むんですか?」
「そりゃあ食べたら仮死状態になるようなもの食べられるわけないじゃん‼︎」
「ち、違いますよ。あれは……そう!美味しすぎて固まっただけです」
「無理のある言い訳だな‼︎」
あの反応を見て自分も食べたい‼︎なんて思う人は生粋のドMだけだ
「……李華?私の作ったケーキ食べてくれないの?」
「えっ?り、リーナ?そ、そういうわけじゃなくてさ」
「私が昨日1日を費やして丹精込めて作ったケーキを食べてくれないの?」
「うっ……」
「……ねえ?食べてくれないの?」
色気のあるお姉さんの涙目上目遣いの破壊力やべ〜‼︎ナトちゃんが同じ神様とは思えないぐらいだ
「わ、わかりました……食べます!食べますから‼︎」
「よ、良かったわ。ちゃんと感想も聞かせてね?」
「……無事に生きて帰れたら」
もう死んでるんだけども
「ふぅ……よし樹里。あーんして」
「ええ……まあいいでしょう。はい、あーん」
「あ……ーん」
見た目だけは美味しそうなケーキを口に含んだ
「ぶふっ⁉︎」
「李華さん?」
「ぶっ!ぐっ⁉︎ふっ⁉︎」
このスーッと鼻の抜けるような味に、ネットリとした感覚……このケーキの正体が分かった
「……こ、これ、歯磨き粉で作りましたね?」
「ご明察!」
「やっぱり……」
元々口に含むものだからマズッ‼︎とはならないけど、ケーキと思い込んで食べたら、意外性から身体が拒否反応を起こす
「これ……お店で出してるんですか?」
「そんなわけないよ。ただ今回2人の被験た……2人のためにオリジナル溢れるケーキを作りたかったから」
被験体って言ったよ。この元神様
「はっきり言ってマズいですこれ」
「やっぱりか」
「やっぱりか⁉︎隠す気ないじゃないですか⁉︎」
意外性のある商品は売れるかもしれないけど、私個人としてはこれにお金を払って食べるのは嫌だな……
「まあ落ち着きなよ。それ以外は普通に美味しいから」
「普通って……カツ丼とかラーメン味のもあるんですよね?」
「そっちは店に並べてるやつだから大丈夫!」
「店で出してるんだ……そんなの売れないでしょうに……」
「人気ベスト5に入ってるよ?」
「嘘ぉ⁉︎」
もはやスイーツとして楽しむのか、ご飯として楽しむのかどっちがいいか分からないなぁ……
「そういえばこんなに豪華に用意してくれてるなら、ナトちゃんも呼べば良かったですね」
「無理無理。タナトスはここには来れないから」
「あ……下界に降りられないとか?」
現状神様だし、そういう規制があっても全然おかしくない
「いや、単純に忙しいから。あとあの釜のせいでこのお店に入るのトラウマになっちゃってるんだよね」
「え゛っ⁉︎あ、あの釜ですか?」
「そうそう。で、間違って入っちゃって失神して。記憶飛んだみたいなんだけど、何故かあの部屋に近づくと悪寒と頭痛と吐き気が止まらなくなるらしいわ」
「あー……まあそれだけの破壊力はあるし……。潜在意識に刷り込まれたんだろうね」
私達も死にかけたし、(もう死んでるんだけど)なんなら作った本人でさえ死にかけてた
「今日は来れないけど、また個人的に私からタナトスにはご褒美渡すから、2人は気にしなくていいよ」
「あ、ありがとうございます‼︎」
願わくば、歯磨き粉ケーキだけは持っていかないようにしてあげてほしい……
「あれ?……というか私達乾杯してないよね?」
「「……あ」」
確かにこういう会では乾杯から入るのが基本……だと聞く。私自身そういうのを経験する前に死んじゃったけど……
「改めてする?」
「そうですね」
「じゃあ全員コップを持って……乾杯‼︎」
「「乾杯〜‼︎」」
こうして樹里の幽霊生活最後の豪華な飲み会が始まった




