対価
「そこをなんとか‼︎」
「ダメなものはダメじゃ‼︎」
私はナトちゃんにすがるようにしがみつきながら、樹里の身体をどうにか出来ないか頼み込んでいた
「李華さん。諦めましょう」
「ほら本人もこういうとるんじゃ。だからすがるのをやめぇ‼︎」
「嫌だ‼︎」
これは樹里の問題で、樹里が生き返ったからといって私にメリットは生まれない。
だけど私が心折れずに湊の事を見張り続けられたのは間違いなく樹里のおかげだ
恩を返せるのだとしたら、それは今しかない
「そもそもお主には出来ることはないと伝えたじゃろ!」
「あったの!こうやって懇願しに来ること!」
「迷惑なやつじゃのぉ⁉︎」
ナトちゃんは私の首根っこを掴み投げ捨てた
「ぐへっ⁉︎」
「はぁ……全く。お主は本当に面倒臭いのぉ」
「だって……」
「だってもクソもないぞ。毎度毎度言っておるが、基本的に現役の神はお前達の世界に手を加えることは原則禁止なんじゃ。幽霊にしてるだけでもグレーゾーンじゃ」
「じゃあなんで樹里を幽霊にしたの?私には頼みがあるからって言ってたけど……」
そんなグレーゾーンを踏んででも幽霊にした意味を知りたい
「同様じゃ。樹里にも儂の頼みを聞いてもらうためじゃ」
「その頼みは私とは違うもの?」
「違うのう」
樹里も同様の理由なのは分かった。ならば……
「じゃあ樹里がさらにもう1つナトちゃんの頼みを聞いてあげるのはどう?」
頼みで釣ればなんとかなるかもしれない
「頼みで釣ればなんとかなる。なんて考えとるんじゃろ?」
「ギクッ……」
そういう風に勘繰ったのか、はたまた本当に思考を読み取られているのか。未だにどっちかわからない
「まあでも残念じゃが追加で頼みたいものは無いし、樹里の身体を治すという対価に見合った頼みを探すのも骨が折れる。そして身体を治すということは、次に樹里が死ぬまで待たないといけないということじゃろ?人間の寿命はせいぜい70〜110年とはいえ、そんなに待てんのう」
そうだった……治すということはここに来ることは出来なくなるということ。そのことを完全に頭から抜けていた
「……李華さん。もう大丈夫ですから」
樹里のその言葉に、私の中の糸が切れた
「ねえ樹里?なんでさっきからずーっと諦めモードなの?」
「えっ?」
「私今樹里のためにしてるんだよ。なのに当の本人は「やめときましょう」とか「諦めましょう」とか言ってるの?」
「そ、そうかもしれないですけど、別に頼んでないですし……」
ため息が出そうだ。とても大きなため息が
「私はあんなの見せられて何も出来ないわけがないよ。樹里は違うの?」
「それは……違いません」
「私はあの一瞬でしか2人のことを見てないよ。それでも分かるよ。2人には樹里が必要だってこと。生きてほしいって心から願ってること」
「……」
「ここで生きるための行動を取らなくて、何が母親だよ‼︎」
私が同じ状況なら……足掻きたい。どんな手を使ってでも生きたいと考えているはずだ
「……そうですよね。確かにそうです。李華さんごときに言われないと気づかないなんて……私どうかしてました」
「……分かってくれた?……ん?今ごときって言わなかった?」
この場面でまさか私に棘のある言葉を吐いてくるとは……
「……タナトス様。わがままを言わせてください。私はまだあの2人といたい。娘の成長を見届けたい。愛する旦那ともっと一緒にいたいのです」
「ダメじゃと言っておる」
「タダとは言いません。この前の話……受けさせてもらえればと」
「……ほぉ?」
今まで何を言っても「ダメ」と一つ覚えのような返答しか返ってこなかったが、少し感触が良さそうだ
「だがダメじゃな。対価が伴っとらん。その約束が果たされたとしても、まだ5割。あとさらに5割分の対価が欲しいところじゃ」
その話の内容がわからないからなんとも言えないけど、さらに同じレベルの対価を用意しないといけないのは……かなりの重荷ではありそう
「……タナトス様。その残りの5割の対価をそちらから提示してもらうことは出来ますか?」
「そうじゃな。……2倍じゃ。期間を2倍に加え、お主が生き返った後、毎日ワシにお菓子を献上することを約束せよ」
「分かりました!それで交渉が成立するならお安いものです‼︎」
「交渉成立じゃな」
もっとごねられると思っていたが、想像よりもあっさりと決まった
「じゃがすぐには無理じゃ。2日は待ってもらう」
「はい。全然待ちます」
「その間に樹里の身体が限界迎えたりしないかな?」
「放置した場合の樹里の身体の限界は5日後じゃ。その心配はせんでよい」
……あと5日。もしナトちゃんが私に言わずにいたら、樹里は間違いなく死んでいた
……もしかしてナトちゃんは最初から樹里を治すつもりだった?
その治す代償としてその約束が成立されるように……
真相はナトちゃんにしか分からない。でも樹里が身体を治してもらうという最高級の対価があるにも関わらず、渋っていたということはそれ相応の条件なのだろう
何も考えず、ただ湊の行く末を見届けたいが為に幽霊にしてもらって7年。私にナトちゃんとの約束を拒否することは出来ない
だから今になって少しだけ怖くなっている
「良かったね樹里」
「はい‼︎でも情けないです。もっと早くにこうしてれば良かった……。といっても話を持ちかけられたのは1ヶ月前ぐらいですけど」
「その話の内容聞いていい?」
「ダメです。タナトス様から李華さんには言うなと言われています。もしバラしたら強制的に幽霊生活を終わらせるって脅し付きで」
せっかく約束の傾向だけでも掴めそうだったのに……ん?
「幽霊生活どうせもう終わるんだし教えてくれない?」
どちらにせよ、2日後には幽霊生活を終える樹里。ならさっきの脅しもほぼ無効化してるようなもーー
「言ったら代償に身体を治す話は無しにするからの」
「てことで喋ることは出来ません。すいません李華さん」
「だ、大丈夫大丈夫……」
さすがにそんな甘いことは許されなかったか……
「……それよりもお主は大丈夫なのか?」
「え?な、なにが?」
「今何月じゃ?」
「に、2月です」
「湊に彼女が出来る気配は?」
「うぐっ……ま、まぁ30%ぐらいは」
「……」
「嘘です。多分10%もないです」
着実に仲は進んでいる。ただしそれでも湊にとっての私の存在が大きすぎる。自慢じゃないけどね
「1つ提案があるが……聞くかの?」
「て、提案?」
「なぁに悪い話じゃない。お主にとってはの」
悪い話じゃないと言われているのになんでだろう……
少しだけ嫌な予感がする




