張り込み
翌日。私はテレビ局前に来ていた
初芽にお願いして、蘭さんに立原の居そうな場所を聞き出してもらった
「本当に入るんですか?不法侵入ですよ」
「何を今さら。私達ラブホテルにまで入ったんだよ?」
「それはそうですけど……」
もし幽霊にも不法侵入罪が適応されるとしたら、私は無期懲役レベルだろう
「それよりこんな広い場所を探すんですか?」
「片っ端から探す以外に方法がないからねー」
「ここのテレビ局で撮影がある」。それ以外に情報がないので、まだ撮影時間じゃなくていない可能性も十分にある
「せっかく朝7時から来てるし、とりあえず一旦全部屋見て、いなかったら入り口付近で出待ちするしかないかな」
「はぁ……まあ部屋を透過出来る分早くは済みますね」
生きていたらドアを1つ1つ開けた上で、開けた先の部屋に居た人達に「あ、間違えました〜」と謝りながら回らないといけない
その点私達なら透過出来るからドアを開ける必要はないし、存在に気が付かれないから謝る必要もない
「じゃあここから入って私が右に行くから樹里は左で。あ、あとこのテレビ局地下もあるらしいからそこもお願い。全部見終わったらまたここに集合で」
「分かりました」
「それじゃあよろしくー」
私達はテレビ局の中に潜入した
♢ ♢ ♢
「広いなー。さすが大手テレビ局」
全国的に放送するテレビ局なだけあって、1つ1つの部屋の規模が大きい。中には使用用途が一般人には分からないような部屋まである
「ここは誰もいない……よし次!」
誰もいない真っ暗な部屋から次の部屋に移動した
「よっと……おお〜めっちゃ人いる。というか撮影中じゃん」
私でも見たことある芸能人たちが揃っている。というかこれは朝のテレビ番組の収録現場でこれは生放送中ということだ
「アイツは……いないな」
お目当ての人物はいなかった。ならここに用はないけど……
「ちょっとだけイタズラしよっかな!」
といっても何か能力を使うわけじゃなくて、ただ単純にカメラに映り込むだけだ
私はカメラの前で10秒間ピースしながら映った
とはいうものの、写真では私は映らないことは確認済み。こんなにカメラの画角を占有しても誰にも私のことに気が付かない
「次行こっと」
♢ ♢ ♢
「あ、やっと戻ってきたー」
「すいません。お待たせしました」
初芽と約束通りの場所で合流することが出来た
「本当に待ったよ。20分ぐらい」
「えっ……そんなに待ったんですか?」
「確実にね」
「……本当にちゃんと確認しながらやってました?」
「当たり前じゃん!」
ジーッとこちらを『怪しい……』とでも言いたそうな目で見てくる
「……まあいいです。現状中には居ない……まあすれ違った可能性もなくはないですが、居ないと確定して外で待ち伏せましょうか」
「出入りするとしたら車だよね」
「その可能性が1番高いかと。幸いここの駐車場に入る入り口は一箇所だけみたいですし、ここに張り込んで見逃さないようにしましょう」
「おーなんか探偵っぽい‼︎いいね‼︎頑張ろう‼︎」
♢ ♢ ♢
「まだ来ないの〜?」
「まだ2分しか経ってないですけど⁉︎」
張り込み始めてから3台の車が出入りしたがいずれもハズレ。もう飽きてきた
「探偵ってすごいね。こんな地味なことずーっとやってるんだよ?天才じゃん」
「探偵の凄さも分かりますし、李華さんが堪え性のない飽き性なのも分かりましたよ」
また一台車が入っていった
「これも違いましたね」
「というか人を待たせるとか人として終わってない?あの俳優は」
「そもそも私たちと待ち合わせしたわけじゃないし、人じゃないんでその意見に同意は出来ませんね」
「……確かに」
これで怒ってる私の方が理不尽か……
「というかサボらないでもらえます?」
「身体が重いんだよねぇ」
「……別に私は帰ってもいいんですよ」
「働くんでそれだけは勘弁してください……」
私にはこの苦行を1人黙々とするメンタルを持ち合わせていない
♢ ♢ ♢
「……まだ来ないの?」
「さっきと違ってもう8時間ぐらい待ってるんで私もその意見に同意ですね」
午後3時30分。ここに待ち伏せを始めてから8時間が経過。その間にも変わり変わりにテレビ局内を探し回ったが見当たることはなかった
「見逃してもう帰ってる説ない?」
「0じゃないことが怖いですよね」
徒歩での出入りもあるし、そっちは監視できてない。もし知らない内に来て知らない内に帰られてたら、本当に私たちの今の時間は無意味と化す
「……どうします?」
「どうしますって……決まってるでしょ。続行だよ続行」
あんな男に私の夢への邪魔をさせてたまるか
♢ ♢ ♢
「り、李華さん李華さん‼︎いました‼︎」
辺りがオレンジに染まり始めて、完全に疲れてへたり込んでた私に、樹里から朗報が入った
「なにぃ⁉︎ど、どこに居たの⁉︎」
「テレビ局の入り口前です‼︎それに、今ちょうど報道陣に囲まれてます‼︎」
「や、ヤバい‼︎」
見つけることが主目的じゃなくて、その報道陣の前で私はやらなければならないことがある
私は全身全霊全力ダッシュで男の元へと向かった
「い、居た!」
大勢の人とカメラ台数のおかげですぐにいる場所が分かった
「そうですね。相手から告白を受けました」
インタビュー内容も蘭さんに関する事だ。しかも平然とウソを付いている
普通ならこんなウソがバレれば大炎上モノだけどそうはならない
なぜならタレント好感度ランキングでも上位に入る大人気俳優と、最近少しずつ仕事の増えてきたモデル。世間がどちらの声を信じるかは明白だ
だから話を盛ってもバレない。否定されても恥ずかしがっていると言えば、それが本当だと信じて疑わない
だからイタチごっこをさせれば不利になるのは蘭さんの方。否定を続ければ世間の印象も悪くなっていくだろう
ならばどうやって解決するか?答えはシンプルだけど私だから出来ること
「私、あなたのことが好きなヴッ⁉︎」
「た、立原さん?どうかしました?」
「……今までの発言は全部ウソです。俺と蘭さんが付き合っているというのはまるっきりのデタラメです」
「「「「「え、えええええええ⁉︎」」」」」
本人に嘘話だと自供させればいい
何回もこの方法を使ってきたけど、今日ほど効力の大きい使い方をしたのは初めてだ
「さ、先程と言ってることが矛盾しておりますが⁉︎」
「さっきまでの発言がウソと言うことだ」
「で、ではなぜ急に撤回なさるんでしょうか?」
「急に彼女に申し訳なく思ったからです。わた……俺から言えるのはこれだけです」
ここで私は身体から追い出された
「っと……」
「……はっ?あ、あれ?なんか意識が……?」
由布子さんと変わらぬ反応を見せる男。やっぱり誰でも一瞬意識が飛んだことに気がつくらしい
「まっ。やることやったし、長く居座る理由もないね」
私はそのまま樹里の元へと戻った
♢ ♢ ♢
翌日。湊は仕事で不在の為、実家で初芽と2人でワイドショーを観ることになった
「……本当に上手くいってるんでしょうね?」
「任せてよ!これで初芽は私のことを見直す機会になるから‼︎」
「……不安なんだよなぁ」
番組の話題はいきなり蘭と立原の関係性についてから始まった
「……」
「……」
「……」
あ、あれ?なぜか昨日のインタビューの映像が流れない。一昨日に見た映像と全く同じ物が流されている
「……ねえ」
「ちょ、ちょっと待ってよ‼︎インタビューしてた人達の前で堂々と宣言したんだよ⁉︎」
「多分揉み消したんだよ。事務所の力でも使って」
「も、揉み消したぁ⁉︎」
でも考えられるのはそれぐらいしかない。イメージが大事なあの俳優にとって、私の行動は俳優生命に致命傷を与えかねない
「今ノリにノッてる俳優だし、お金積んででも揉み消す判断を事務所がとってもおかしくはないと思う」
「く、くっそ……」
昨日朝イチから張り込むという苦行に耐え凌いだ成果はゼロ。私の行動は無と化した
私のとっておきの作戦は失敗に終わった




