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スキャンダル



「蘭ちゃん。今日も良かったよー!次もよろしくね!」

「はい。お疲れ様です」



新年を迎えてから約1週間。今日は蘭さんのモデル仕事を見学しに来た



いつもの蘭さんも美しいけど、仕事をしている時の蘭さんはさらに大人の余裕だったり色気が追加されて、美しさに磨きがかかって見える

口調もいつもと違って標準的にしゃべっている



ご令嬢で美人。改めてすごい人が湊のことを好きになったんだなぁと思わされた



「蘭ちゃんお疲れー!」



さっきの人と同じぐらいに蘭さんに話しかけてきた人物。それは最近イケメン俳優としてテレビに引っ張りだこの人だった

あ、でも湊の方が2000倍はカッコいいから



「……お疲れ様です」



そんな時の人となっている彼に話しかけられた蘭さんは、どこか不機嫌そうな様子が伺えた



「今日も可愛かったよ」

「どうも」

「それでさ良かったらなんだけど、今からメシでもーー」

「用事がありますので」



あからさまに嫌がっている。男は明らかに好意を持って接している。そんな空気感を蘭さんは感じ取っているんだろう



「えー?仕事?」

「いえ。仕事ではないですが……」

「じゃあいいじゃん!仕事の付き合いって大事だよ?」

「それはそうかもしれませんが……」

「でしょ?こういう付き合いを大事にすることで次の仕事とかに繋がるんだよ!何なら食事来てくれたら今度のお仕事に蘭さんを俺から推薦してもいいよ?」



身体をピクッとさせて反応する蘭さん。正直な話をすると、蘭さんはモデルとしては有望ではあるものの、現状こなしている仕事量はそれほど多くない



蘭さんにとっては悪くはない話だ



「どうどう?行く気になった?」

「……いえ。やはりやめておきます」



甘い誘惑に乗せられず、蘭さんはキッパリと断った



「そっかー……残念だなー。あ、じゃあこのあとタクシー拾うんでしょ?その待ち時間だけでも一緒にいようよ」

「まあ……そのくらいなら」

「よし!じゃあ行こう!」



♢ ♢ ♢



「……が、この写真ってわけね」



湊の部屋で初芽と蘭が集まり、週刊誌を見ていた。そこには人気俳優である立原(たちはら)菜鳩(なはと)とモデルの環凪蘭が付き合っていると熱愛報道が出たのだ



写真はそのタクシーを待っていたタイミングの物。今から約1週間前ぐらいになる



「湊さん‼︎信じて下さい‼︎私はこの人とは本当に何もないのです!」



必死な様子で湊を説得する蘭さん。好きな人に誤解されているのだから仕方のない事だと思う



「うん。分かったよ」

「そう思われても仕方のない事だと思い……へっ?」

「誤解なんでしょ?」

「そ、そうです!」

「じゃあこの話は終了で」



湊は雑誌を畳んだ



「そ、そんなあっさり信じますの?」

「うん。信じない理由がないし。まあ俺ら付き合ってるわけじゃないけど、蘭さんが俺を好きでいてくれてるのは分かるし」



湊が照れくさそうに言ったその言葉に、蘭さんは涙ぐんでしまった



「う、み、湊さぁーん‼︎」

「はいそれはやらせませーん」



流れで抱きつきにいった蘭さんを初芽は服を引っ張って止めた



「チッ‼︎いい感じだったのに……」

「……あんた3ヶ月前とは比べ物にならないぐらい積極的になったわね」



ハロウィン後から蘭さんの悪態癖、そして遠慮というものもなくなった。何かキッカケがあったようには見えなかったけど……



「あれ?話してなかったかしら?」

「なにがよ」

「ハロウィンの翌週に滝に打たれてきたの」

「滝っ⁉︎」



思わぬカミングアウトに初芽の声が裏返った



「ちょ、ちょっと待って……ハロウィン後ってことは11月よね……あんな寒い時期に行ったの⁉︎」



今年は寒波も早く、11月頃にはもうダウンを着込む人もいたほどだ



「ぱっと思い立ちまして。いつまでもグズグズしてるわけにはいかないから気分転換にと思ったのですけど……何か煩悩のようなものが消えてスッキリしたんですわ!」

「そ、そっか……滝行でそんなに人って変わるんだ……」



効果はあると思うけど、蘭さんの場合効果が効きすぎな気もする



『ピンポーン』と家のチャイムが鳴った



「ちょっと出てくるよ」



湊は玄関の扉を開けた



「……由布子さん?」

「こ、こんにちは」



今日はいつも家に引き篭もる時のカチューシャで前髪アップにジャージ上下のスタイルだった



「ちょ、ちょっと急ぎで!な、中に入れてもらってもいいですか⁉︎」

「ど、どうぞ」



湊はすんなりと由布子さんを家にあげた



「ん?由布子さんじゃん」

「あ、お、お二人ともいらしてたんですね」

「なんか今日めっちゃラフな格好してんね」

「ちょっと急いでて……それより丁度良かったです!こ、これを見て下さい」



由布子さんはテレビを付けた



「立原さん‼︎週刊誌に掲載された内容は本当なんですか⁉︎」

「まあ……そうかもしれないですね」



と、濁しつつも肯定と捉えられるような発言を残した



「……あの男めぇ!ちゃんと否定しなさいよ‼︎」



蘭さんがイライラした様子でテレビを眺めている。男に対しての憎しみがこもった目線。これはどう頑張ってもこの俳優が蘭さんと結ばれることはないだろうな



「否定しなかったってことは、多分本当に蘭のこと狙いに来てるっぽいね」

「あんな顔だけの男なんてまっぴらごめんですわ。しかもその顔も湊さんに比べれば2段階は落ちますし」

「いやそんなわけーー」

「「「あります」」」

「お、おぉ……」



初芽と蘭さんだけでなく、珍しく由布子さんまで同調した



「とにかく……今後蘭にも取材が来るだろうし、その時にキッパリと否定した方がいいよ」

「そうですわね……本当に面倒なことしてくれましたわ」



♢ ♢ ♢



「立原さん!お相手の環凪さんは交際を完全否定していますがどういうことなんですか⁉︎」

「さあ?でも彼女は恥ずかしがり屋だからね。でもそういうことだから俺達のことを彼女にインタビューするのはやめてもらいたいかな」



♢ ♢ ♢



「私は恥ずかしがり屋じゃないですわ‼︎」



またもワイドショーで放送された。蘭さん時代が有名になるのはいいことだけど、仕事面が増えたわけじゃないのが痛い



「え、SNSでも本当は付き合っているって思ってる人が多いですね……」

「私の言葉よりもあの男の言葉が信じられている……ということですわ」



あちらは曖昧な返答。こっちは完全否定。なのにあっちの方が信ぴょう性があると世間では思われている。これが有名税というやつだろう



「……どうするの?」

「聞かれるたびに否定するだけですわ」

「でもインタビューするのをやめろって……」

「メディアがその程度の発言で辞めるわけありませんわ。お金になる話をみすみす逃すはずありませんから」



頭を悩ませる蘭さん



こういう時にこそ、私の能力を活かさないとね



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