あけましておめでとう
「「あけましておめでとうございます!」」
お正月早々、湊の家に初芽と蘭さんが押しかけてきた
「あけましておめでとう。というか家の集まりとか大丈夫なのか?毎年親戚が集まってたろ?」
当たり前のことだけど、湊は私の実家のイベント事情にも詳しい
「いやぁ……それが急遽明日になったんです」
「なんでだ?」
「父が夜釣りから帰ってこないからですね」
「あー……そういえば大晦日から元旦にかけて知り合いの船に乗って釣りして年越ししてるって言ってたっけ……」
釣り大好きの父は、連休の取れるタイミングで漁師の知り合いの方に船に乗せてもらっている
「「大漁に釣れすぎてまだ帰りたくないから明日にしよ‼︎」って3時間前に連絡が来ました」
「そ、そうなのか……そんな急に言い出したんだな」
「まあ明日は親戚全員で父を囲んで説教するって言ってたんで」
「そ、そうか……」
可哀想とも思わないこともないが、自業自得なのも間違いない
「ということで私達は暇になったのでお邪魔しにきました」
「別に来たのはいいけど何も用意してないぞ?」
「それも予想通り。湊さんはイベント事に興味がないのは知ってますから」
「代わりに、私達で少しお正月っぽいものを持ってきましたわ」
蘭さんは手に持っていた袋を湊に見せた
「餅にみかんに羽子板?駒と……チェスとかトランプは全然関係ないだろ」
「まあ暇潰しとしては十分でしょ?」
「あとなんだこれ?鯉?
「凧です!」
「鯉の柄の凧揚げしてたら5月と頭がこんがらがるな」
あまりに季節感が合わない柄だ
「あ、そういえば由布子さんは居ますかね?」
「いるぞ」
「……なんで由布子さんがいるかどうか知ってるんですか?お正月だから帰省してるかもしれませんよね?」
「だってウチにいるし」
「「……はい?」」
由布子さんは奥から申し訳なさそうに顔を出した
「あ、あけましてお、おめでとうございます……」
いつもよりも覇気のない声で新年の挨拶をした
「ゆ、由布子さんー?」
「抜けがけして1人良い思いをしてたのですか⁉︎」
「そ、そんなつもりはっ!」
「じゃあこの状況どう説明つけるのかなぁー?」
「そ、それは……」
壁際に2人がかりで壁ドンされ、逃げ場を失う由布子さん。目元には薄らと涙が浮かんでいる
「お、おい。その辺にしとけ。怖がってるぞ」
「いいえやめませんわ。この子の口から直接聞くまで」
「そういうことなので、代わりに玄関閉めてもらえませんか?……寒いので」
湊は指示通り玄関を閉めた
「ほら早く言いなさい!言わないなら……」
「い、言わないなら……?」
「あなたの胸のサイズ。湊さんに言うわ」
「や、やめて下さいっ‼︎」
温泉に入った時に由布子さんのサイズは聞いている。虚偽報告じゃなくて本物のサイズを湊に教えることができる
「なら……分かりますわよね?」
「うぅ……は、話します……」
「……最初からそういえば良いのです」
2人の壁ドンが解除された
「……じ、実は。母から新年の連絡が来たんです」
「おおいいじゃん。というか由布子さんの実家ってどこなの?」
「か、関西の方です」
「意外ですわね」
「でも今は家はもう売りに出されて、親は海外の方に住んでるんです」
私も初耳の情報だった
「だから気軽に会いに行くこともできなくて……その……電話してひ、久しぶりに話したら1人でいるのが寂しくなって……」
「……で、湊さんの所に来たと」
「……はい」
私から見れば可愛らしい理由でほのぼのするのだけど、この2人からすればそうはいかない
「ねえ初芽。どう思う?許せる?」
「決まってるじゃん。許されるわけがないよ」
「そうよねぇ?」
いかなる理由があろうと抜けがけした形になっているのは事実だ
「湊さんの家に来る前になんで私達のところに来なかったのかしら?」
「……へっ?」
「由布子さんならいつでも歓迎するのに!そもそも湊さんは口下手で全然喋らないんだからここに来ても寂しさは満たされないじゃん‼︎」
「さりげなく俺を貶すな」
2人は由布子さんに抱きついた
「寂しくなったら私の家に来なさい。美味しい料理でもてなしてあげるから」
「そうですわ。私と一緒にスポーツ観戦もしましょう」
「は、初芽さん……蘭さん……あ、ありがとうございます!」
仲が良くて微笑ましい……と思うのであればまだまだ2人のことを分かってない
これは友情による優しさじゃなくて、恋敵としての罠だ
現に2人は作戦通りと言わんばかりにニヤッと口角をあげた
同じ理由で湊の家に訪問する機会を減らし、抜けがけされることを防ぐ。家が隣という由布子さんの最大限の利点を少しでも削るための作戦なのだ
「で、でもやっぱりそちらに伺うには少し距離があるので……湊さんにお、お世話になります」
作戦失敗。由布子さんは2人の思惑には乗らなかった
「……どうする蘭?この子しばく?」
「しばくのはダメよ。しっぺぐらいにしなさい」
「ひっ‼︎」
「どっちもダメだから。それよりも餅でも食べてゆっくりしようぜ」
お正月早々から元気な3人を湊がなだめた
「……まあ湊さんが言うなら仕方ありませんね」
「ここは引きましょう……それより湊さん。のりはありますか?」
「味のりならあるけど」
「いいですわね!初芽から「餅はのりを巻いて醤油で食べるのが1番美味しいと聞いたので!」
「蘭ってば、餅はわらび餅しか食べたことないんだって」
「さすが金持ち……なら分かった。餅の美味しい食べ方を俺が伝授しよう」
「まあ‼︎」
「だからスーパー行ってくる。留守番頼んだ」
湊は掛けていたコートを羽織った
「ええっ⁉︎い、今から行くんですか⁉︎」
「そこまでしなくても私は全然大丈夫ですよ⁉︎」
「いや、どっちみち買いたい材料もあったし、ついでだよ」
湊は駆け足でスーパーに向かった
「……行っちゃいましたね」
「湊さん。ああみえてグルメだからなぁ……食べ方にこだわりがあるんだよ」
「い、今のうちに焼いておきますか?」
「いや待っとこ。いつ帰ってくるか分からないし」
「そ、それもそうですね」
♢ ♢ ♢
「買ってきたぞ」
「おかえりなさ……ずいぶんと買い込みましたね」
パンパンに膨らんだ袋が2つ。ついでにしてはあまりに多すぎる買い物だ
「な、何買ってきたんですか?」
「きな粉、あんこ、醤油。あとはバターとか変わり種でチョコとか」
「これまた大量に……」
「あとずんだを作るための枝豆も買ってきた」
「ずんだ⁉︎こだわりがすごい……」
凝り性というかなんというか……まあ湊の面白い一面ではある
「早速作るから、お皿とか準備してくれるか?」
「「「はーい‼︎」」」
今年のスタートはお餅パーティで始まった




