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樹里の事情



「さて、あと1年切ったの」



年を跨いで早々に私はナトちゃんに呼び出されていた



「そうだね……」

「ワシも時間がある時にちょくちょく見ておるが……このままじゃと絶望的じゃないのか?」

「そ、そんなことない!」



と口では言いつつも、私としても焦りは大きい



「付き合うだけなら今年でなんとでもなるじゃろうが……婚姻届の提出はほぼ絶望的。結婚式を見ることは出来ないじゃろう」

「……やっぱり?」

「そりゃあ準備期間が必要じゃし、客を呼ぶとなればその客にも時間を与えねばならん。現実的ではないの」

「……詳しいね?」

「まあの」



湊の花婿姿も、あの3人のウェディングドレスを着る姿のどちらも見たかった。でも本来なら見れるはずがなかったんだからと割り切るしかない



「でもだいぶ関係性は進められたと思うし、誰かと恋仲になるとは思う」

「まだ録音の件も解決しておらんのにか?」

「ぐっ……」



これもまた痛いところをつかれた



「……あ、そうじゃん!ナトちゃんナトちゃん!」

「ダメじゃ」

「まだ何も言ってないよ⁉︎」

「バカか。考えてることが見え見えじゃ。どうせ桑名とやらの奴がどこにいるか聞こうとしとるんじゃろ?」

「……エスパー?」

「話の流れからそう感じ取ったんじゃ」

「でも教えてくれたら問題はすぐ解決するんだよ?」

「……あのなぁ」



大きくため息を吐いたナトちゃん



「ワシがどれだけお前の手伝いをしてると思うておる?」

「多大に」

「そうじゃろ?そもそもお主は現世に干渉しすぎなんじゃ。本来許される行為ではないぞ」

「そ、そうですよね……」

「それと教えてくれたら解決すると言ったが、何が解決するのじゃ?前にも言ったかもしれぬが、その者自体の生命に関わるようなことをするのはーー」

「分かってる。私だけじゃなくてナトちゃんにも迷惑かけるもんね」

「……その通りじゃ。分かってるんならええ」



ここまで私のわがままを叶え続けてもらってるんだ。これ以上に迷惑かけることは出来ない



「桑名の件はワシはどうもせん。自分でなんとかするんじゃな」

「はーい」



今年中に湊に害をなそうがなさまいが、桑名の奴には1発キツめのお灸を据えて湊達に近づくことがないようにしないといけない



私がいなくなってから何か仕掛けてこないとも限らない。私が今年中にしないといけないことは、湊のお嫁さんを作ることと、あのクソ野郎の粛清の2つだ



「あーそうそう李華よ。このまま下界に降りるじゃろ?」

「まあそだね」

「樹里に伝えておいてくれるか?お主の幽霊としての期限も李華と同様に今年までじゃと」

「えっ?ええっ⁉︎」



思わず大きな声が出てしまった



「うっるさいのぉ……」

「な、なんで⁉︎樹里って私より何年も幽霊歴短いよね⁉︎」



おそらく1年と少ししか時間は経過していないはずだ



「こちらにも事情がある。まあ樹里ならごねることもないじゃろう」

「……ねえ」

「なんじゃ?」

「まだ私達が幽霊として下界に降りさせた理由を話してくれないの?」



幽霊歴8年になった今でも、その理由は聞けていない。私同様に幽霊になって誰かの行く末を見届けたいと言った人は今までに何人だっていたはずだ。だって悲しいことに人は1日に何十人と死んでいる。たまたま偶然その思想を持った人に出会ったことがない。なんてわけがない



それなのに許された私と樹里には何か理由があるのだろう



「これも前に言うたが、期間が終われば分かる。今言うつもりはないの」



案の定はぐらかされた。なら違う質問に変えよう



「じゃあ樹里がいつも抜け出して何してるか教えて」



本当は樹里の事情に首を突っ込むつもりはなかったけど、そうも言ってられなくなった

私が事情を知ったところで何が出来るか分からないけど……樹里には未練なく天国へと旅立ってほしい



「自分で聞け。一緒におる時間は長いんじゃからいつでも聞けるじゃろ」

「だって教えてくれそうにないんだもん……」

「そもそも聞いたことがあるのか?」

「そりゃあ……あれ?」



そういえばないかもしれない……あまり干渉しないようにしたほうが良いと思って口にすることさえなかった



「教えてくれるかな?」

「さあ?でも別に隠してる様子もないけどの」

「……聞いてくる」

「ちゃんとさっきのこと伝え忘れるでないぞ」

「分かってるよー」



♢ ♢ ♢



「そうですか。わかりました」



期限の話を樹里に伝えたところ、こんなにあっさりとした返答が返ってきた



「え?それだけ?」

「それだけもなにもこちらは文句言える立場にないですし、急に言わないだけタナトス様は優しいです」

「そ、それはそうだけど……」



あまりにあっさりとした返しに驚きが隠せなかった



「……足りるの?1年で」

「さあ?」

「さあって……」

「だって分かりませんから。()()()()()は」

「事情とかって……聞いていい?」



しばらく沈黙したあと、樹里はこう答えた



「……いいですよ。ただし、時がきたら」

「時?」

「はい。その時にお話ししますし、李華さんの能力を頼りにするかもしれません」

「私の?」

「はい。使うかは分かりませんけど」

「役立てるなら言って‼︎なんでもするから!」



今まで私が何かしてもらうことはあっても、樹里のために何かしてあげたことはなかった。

この機会を逃したら、私が樹里のために出来ることは無くなるだろう



「……なんでもですか」

「なんでも!」

「じゃあそこの塩に触れてください」

「分かった‼︎……あづぅぅぅぅ‼︎」



前の検証で塩に触れた部分はやたらと熱く感じることが分かっていた



「なんで触れさせた⁉︎」

「いやだってなんでもって言うから……」

「これに意味はあるの⁉︎」

「ないですね」

「ないんかい‼︎」



私の純情な感情が弄ばれた

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