年越し前
「あと1時間か……」
現在12月31日 午後22時59分。年越しまで1時間になった
「……で?なんで私の部屋にいんの?」
「だって暇なんだもん」
いつも湊の近くに彷徨う私だが、今日は本当に動きがない。本読んでコーヒーを飲む。これだけでもう4時間は経過してる
樹里もいつもの如くいないし……
「ったく……年越しまでにはどっか行ってよ」
「なんで?何か予定でもあるの?」
「バカ姉と一緒に年越すとか嫌なだけだし」
「……はいはい。ならそれまでは私とお話ししてよ」
「はぁ……仕方ないなぁ」
意外にも受け入れてもらえた。絶対に断られると思ってたのに
「で?話をしようってそっちが振ってきたんだから、話題はそっちが用意してくれてるんだよね?」
「あるよー。3つ持ってきた。まずはー……」
といっても2つはおまけ。本命の話は最後にしよう
「湊と関係性深められてると思う?」
「……殴っていい?」
「なんでよ⁉︎」
他の人なら「やってみれば?空振るだけだけど笑」ってなるんだけど、初芽の場合は本気で当たるからそんな煽るような言葉は言えない
「……少しは進んだよ。バカ姉が死んでからの6年より、今年1年の方が進んだ」
「そうね。私もそう思う」
ずっと平行のまま、波打つことさえなかった関係性が動き始めた
「由布子さんと蘭が湊さんに絡み出したおかげかも。あと……バカ姉のせいでもあるかな」
2人には『おかげ』で私には『せい』か……
「悔しいけど私1人じゃ湊さんの心はずーっと動かないままだった。何も変わらないまま時間だけが過ぎるところだった。だから……感謝はしてるかな」
「……そっか。ならよーー」
「初芽‼︎日本が先制点を決めましたわ‼︎」
私と初芽は唐突な蘭さんの乱入に身体をビクッとびくつかせた
「そ、そう……良かったね」
「このまま20点は決めますわね!」
「サッカーはそんなにボコスカ点が入るスポーツじゃないから。というか早く戻らないと試合再開してるんじゃない?」
「はっ!そうですわね!」
ドタドタと足音を立てながら蘭さんは去っていった
「最近サッカー観戦にハマってるらしいわ」
「ほっぺたに国旗って……あれテレビ観戦でもする人いるのね」
「いるんじゃない?熱狂的な人とかはしてそう」
知らないうちにそんなにハマってたんだ……
「……なんか話の腰が折られたし、次の話題出してよ」
「そ、そうね」
もう少し深掘りして聞きたかったけど、おまけだからまた時間があれば続きを聞いてみよう
「じゃあ2つ目!2人のことはどう思ってる?」
これはそれなりに大事な質問ではある
「どうって……邪魔者?」
「さっきは感謝してたのに⁉︎」
「いやメンタル面とかでは感謝してるけど、恋のライバルって観点からだとあの2人強いんだもん……」
……意外なことに弱気な言葉が返ってきた
「蘭はモデルだから可愛いしスレンダーで高身長。性格も最近は湊さんに強く当たる機会が少なくなってきたから強い。由布子さんは顔の良さもあるし、湊さんと共通の趣味もあって胸もバカデカい。でもそれ以上に湊さんが由布子さんの作品のファンってのがなぁ……」
アドバンテージの数だけでいえば初芽だって多い方だ。関わってきた時間。容姿も申し分なし。ただ初芽に1つ問題点を挙げるとすれば……
私の妹というところだと思う
「認めてるんだ。2人のこと」
「そうね。でもどうでもいいかな。どっちにしろ最後に結ばれるのは私だし」
「本当に?」
「うん」
と思ったら普通にいつも通りの偉そうな初芽に戻った。
……強がってるだけだね。これは
「もう3つ目入ろうか」
「あ、これだけでいいんだ」
「本心っぽいの聞けたからね。えっと3つ目は……」
これが1番大事。別に聞くことで湊に何か影響が出るわけじゃない
完全に自分が気になったから聞きたいだけ
「なんで私に冷たく当たるようになったの?」




