クリスマスデート 蘭の場合③
「わっ……す、すごい量の餃子ですね」
「美味しそー‼︎」
降りてきた2人は作った餃子を目の当たりにした。この量は多分4人でも多いぐらいだろう
「……蘭」
「なんですの?」
「良かったの?私達も一緒で」
「それ聞くの何度目ですの?私が良いと言ったら良いのです。環凪の名を持つ私に二言はありません。そもそもの話、もう18時を回ってるんですから、私の独占時間は終わってるの」
デートというよりかはお料理教室的な雰囲気が出ていたが、アレはアレで良かったと思う。間違いなく2人の距離感は迫った良いデートだった
「そう……なら私が湊さんの横座ろ‼︎」
既に椅子に座る湊の横を取ろうとする初芽。由布子さんはおそらく遠慮したからか、湊の対面側に座っている
だが蘭さんは初芽の手を掴み、腕を背中に持ってきて組みしだいた
「イダダダダ⁉︎」
「隣は私ですわ。これが飲めないのならお風呂場にて監禁しますわ」
「わ、分かった!分かったから手を離して!」
蘭さんは初芽の手を離した
「痛かったぁ……冗談で言ったのに……」
「ウソつかないでくださいまし。目がガチでしたわ」
「う、ウソじゃないし……」
「とにかく横は譲れませんわ」
「はいはい。じゃあ私は由布子さんの隣にすーわろ!」
初芽は宣言通り由布子さんの隣に座り、蘭さんは湊の横に座った
外側から円状に餃子を並べていく。2週分と真ん中に1つ置いて、フライパンがギチギチになった
「そういえばごま油をかけるんじゃなくて、サラダ油をかけるんですね⁉︎」
「あとからごま油は使うから、最初はサラダ油でオッケーなんだ」
「は、薄力粉溶かせました」
「ありがとう由布子さん。そのままフライパンの中に注いで」
「は、はい!」
フライパンからジューッと良い音が鳴った
「火を弱めて蓋をする。こっから5分ぐらいかな」
「餃子って結構焼くのに時間がかかりますわね」
「焼くだけじゃなくて蒸すのも同時にしてるからね」
「じゃあこの待ってる間に、全員今日湊さんと何してたか聞かせてもらおうかな!」
初芽が盛り上がりそうな提案を出した
「私は絶賛デート中ですし、特に話すようなことはないのですけど」
「餃子作ってる時とか買い物行った時に話してるでしょー?」
「本当に特に話すような内容がないですが……まあ強いて言うなら初芽のお姉さんのお話をちょっとしたぐらいですわ」
確かに蘭さんと湊の話は、他の2人が聞いても仕方ないような話題が多かった気がする
「何話したのー?」
「初芽と李華さんなら、100%李華さんの方が良い女だって湊さんが愚痴ってましたわ」
「そんなこと言ってないって‼︎」
「あら?聞き間違いでしたのね」
蘭さんはしてやったりの表情でくすくすと笑った
「み、みなみなとさんがそんなこと言うわ、わわけないってわ、分かってましたけどね⁉︎」
声が震えている。目も赤い。この冗談は初芽にクリーンヒットだった
「そ、そんな泣くとは……ごめんなさいまし初芽。お詫びに今日貰ったチーズケーキ、貴方の分だけ大きくしてさしあげますから」
「多分餃子でお腹いっぱいになるからそんなに要らない……」
初芽は涙を拭った
「まあまずは提案者から言ってよ!デートも1番最初だったんだし!」
「まあそうなるよね。……知ってると思うけど私が行ったのは動物園デート。そこで色んな動物を見てきたんだー」
「例えば何見てきたんですの?」
「イタチやニホンザル……あと熊とか」
「え⁉︎熊って冬眠するんじゃないの⁉︎」
「ふっ!熊は寒いから冬眠するわけじゃなくて、餌が取れなくなるから冬眠するの。だから毎日餌が出る動物園でわざわざ寝る必要ないんだよ!」
「へー……それは知りませんでした」
「バカめ!これぐらいのことも知らずによく生きてたね!恥を知れ!」
「えっ……ご、ごめんなさい……」
初芽はボロカスに由布子さんに暴言を吐いた
「初芽も知らなかったじゃん。無条件で寝るもんだと思ってたって言ってたし」
「えっ?じゃあさっき聞いたことをあたかも自分の知識であるかのようにひけらかしたってことですの?」
「み、湊さん⁉︎そこは言わないで欲しかったです……」
「由布子さんに謝りましょう」
「ご、ごめんなさいでした」
「い、いえ大丈夫ですから!」
「たまには由布子さんを煽ってみたかったんだよぉ……」
まあ基本は初芽と蘭さんの煽り合いぐらいで、そのヘイトが湊や由布子さんに回ることはなかった
ちょっとだけだけど、その気持ちは分からなくもない
「……とりあえず話題を戻すね。あとは動物園の中の店でパンケーキを食べたかな」
「あそこのパンケーキ食べたんですか⁉︎かなり量が多いってお昼のテレビで見ましたけど……」
「うん……はちゃめちゃに多かった。全然入ったけど」
「入ったのね……」
私なら胃もたれする量だったけど
「あとこれが重要!店員さんに私と湊さんがカップルと思われたこと‼︎」
ドヤッと言わんばかりの顔をする初芽
「そりゃあクリスマスに男女2人で出かけてたらカップルに思われるのは普通じゃない?」
「そ、そんなことない!絶対お似合いだから言われーー」
「わ、私も……高校生の方々から……お似合いのカッ……カップルって……言われましたよ?」
「なっ⁉︎」
膝から崩れ落ちる初芽。そんなに悔しがるか?と思うぐらい悔しがっている
「……私は言われてないわね」
ボソッと呟いた蘭の言葉で初芽は息を吹き返した
「言われてないとか論外すぎ!」
「でも蘭さんは俺とスーパーで外出たぐらいですし」
「そこで言われてないんだからやっぱり論外!」
「スーパーで店員からわざわざ話しかけてくる方が珍しいんだから、あなたとは状況が違うと思わない?」
初芽はまたも膝から崩れ落ちた。最近初芽はマウントを取ろうとして失敗して自傷してるケースが多い気がする
「……私からは以上で」
「つ、次はわ、私ですね。私はカフェでな、悩みを聞いてもらって……その後にゲームセンターに入りました」
「ゲームセンター⁉︎由布子さんにしては意外なところに入りましたわね!」
「確かに意外だわ……」
私も状況を知らなければ、そう思っていたはずだ
「ゆ、UFOキャッチャーとか音ゲーとか……色々2人で楽しみました。あと湊さんが……い、いえ!なんでもないです!」
多分高校生とのいざこざの件を話そうとしたのだろうが、由布子さんは顔を真っ赤にして、話をやめてしまった
「……湊さん。何したんですか?」
「え?別に何もしてないが?」
「でも由布子のこの反応……もしかしたらこの胸にぶら下がったスイカを揉みしだいた可能性がありますわね」
「そんなことしてないって‼︎」
「やっぱり湊さんも大きい方が好きなんですか⁉︎男はやっぱり大きい方が良いんですか⁉︎」
「それは人によるから!」
「触り心地はどうでした⁉︎重さは⁉︎柔らかかった⁉︎重かった⁉︎」
「だから触ってないから!これ以上しつこくしたら餃子抜きだ!」
すんっと引き下がる2人。よほど餃子が楽しみなようだ
「ご、ごめんなさい湊さん……」
「由布子さんは悪くないよ。2人が話聞かないのが悪いから」
「じゃあ初芽のせいね」
「は⁉︎は⁉︎は⁉︎私1回ぐらい蘭にビンタしても悪くないと思うんだ‼︎」
「暴力で解決することは何もない。常識ですわよね?」
「叩く権利を!この人を叩く権利を私にください!」
「お、落ち着けって……」
発狂する初芽を湊が宥めた
「あとは……鉄を見せてくれることをや、約束したぐらいです」
蘭さんと初芽は頭をかしげた
「良かった……私だけおかしな反応したのかと思った!」
「ちょっと私達には状況が読めないです」
「もしかすると、湊さんの身体のどこがが鉄で出来ていて、そこを見せるとか……じゃないですわよね?」
「違う違う。鉄パイプの破片を飾ってるから、それを見せるって話だよ」
「なんで鉄パイプの破片飾ってるんですか⁉︎」
普通の人なら抱く当然の疑問だ
「し、しかもシリアルナンバー1のやつで!すごい貴重なものなんです!」
「シリアルナンバー?鉄パイプの破片に?……頭が追いつきそうにありませんわ……」
蘭さんは深く考えることをやめた
「っと丁度頃合いだな」
湊は蓋を開けた。開けた瞬間中に籠った水蒸気が一斉に上に上がった
湊は大きな皿を出し、フライパンに被せ、そのままフライパンをひっくり返した
「美味しそうですわね‼︎」
「さっすが湊さん!焼き色完璧です!」
「お、美味しそうです……!」
出来上がった餃子に手を伸ばす4人
「「「「いただきまーす!」」」」
パリッと言う音が部屋に響き渡った
「じゅ、ジューシーで美味しいです……!」
「相変わらず美味しいです!」
2人は大絶賛した。だが1人感想を述べずに箸が止まっていた
「……蘭さん?美味しくなかったですか?」
「……よくもこんなものを食べさせましたわね」
蘭さんの発言で部屋にピリついた空気が走った
「こんな……こんな……こんな美味しいものを食べたら、また食べたくなってしまいますわ‼︎」
新たな餃子を手にして、さらに食べ進める蘭さん。ピリついた空気から一転、和やかな雰囲気となった
「まだまだあるからどんどん食べてくれ」
湊は再度フライパンに油を敷き、餃子を焼いた




