この7年間よりも……
能力をあげてから3ヶ月近くが経ったの。なんか進歩はあったか?」
今日はナトちゃんへの定期の差し入れ日。相変わらず血で作られたプリンを美味しそうに頬張っていた
「すごい進展あったよ!」
「嘘つかないでください。ほぼほぼ何もなかったじゃないですか」
私の強がり発言が、樹里の横やりによってバラされてしまった
「……そんなんで本当に大丈夫なんじゃろうな?」
「だ、大丈夫!少なくともこの7年より、今の3ヶ月の方が圧倒的に進歩してるから!」
これは強がりじゃなくて、本当の話。本気で今まで進歩がなさすぎたのだ
「それならいいがの。まあ能力のおかげが第一じゃろうが、それよりも候補者が何人か出てきたおかげでもあるの」
「確かに……最初なんて初芽と千夏さん以外候補者がいなかったもんね」
最初の頃はあの2人以外に、告白する女性は多かったけど、湊はサラッとかわしていた。親密に話す関係なのは、初芽と千夏さんだけだった
「あと9ヶ月以内には誰かと付き合ってもらいたい。結婚式が見たい……なんてそんな大それたことは望まないから、湊がプロポーズして婚約を結ぶところまではなんとか持っていきたい」
「それでも十分大それてますよ」
「え……」
「そうじゃな。人間で1年少しでプロポーズまで持っていく人はあんまりいないんじゃないかの?」
「そんな事ないと思うけど……」
私の感覚がズレてるのかな?
「まあ頑張るんじゃぞ。言っておくが、終了期間を伸ばしたりはしないからの?」
「分かってるよ」
「ならよい。それで?樹里の方はどうなんじゃ?」
話は私の進捗から、樹里の話へと移った
「ボチボチそれなり……ですかね」
なんとも曖昧すぎる答えだ
「そうか。樹里もそんなに時間がないんじゃから悔いのないようにな」
「はい」
「え?樹里も時間がないの?」
「そうじゃ。なんならお主よりほんの少しだけ早いぞ」
樹里も能力持ちとはいえ、それは幽霊の私に対して効果を持つ物。私より負担が小さいはずだが……それに樹里の幽霊化に期限がある事自体、初耳だった
「なんで樹里の方が短いの?」
「前も言ったが、お主にここまでするのには理由があるんじゃ。じゃが、樹里にはないからの」
「樹里の期間が減らないまま、能力を追加させてあげられないの?」
「出来ないことはないが、する理由がないからの」
「でも……」
私に何をさせたいのか皆目検討もつかないけど、私との扱いの差を見るに大層なことをさせられそうではある
「いいんですよ。どうせ私の目的には、李華さんの持つような能力があっても使い所がないので。それに私にはいつでも李華さんの自由を奪える能力がありますから問題ありません」
「私には大問題だけどね?死活問題だけどね?」
幾度となくその能力で邪魔をされている。正直嫌な存在ではあるけど、私が幽霊としての生活が暇なものではなくなったのは樹里のおかげだ
「……樹里に問題ないならいいか」
「そうです。それよりあれだけ能力を使わせてもらっておいて、ほぼほぼ進展がない李華さんには呆れます」
「違うんだって……私の能力の使い方の問題じゃなくて、湊側に問題があるんだって……」
ずっとずぅーっと湊のことを見てるけど、候補者の誰かを好きな様子はない。誰かを見るときの目だけは違うなぁとか、顔じゃなくて胸に目がいってるなぁとか。そんなことは全くない
「私は湊のアレが枯れてるんじゃないかって最近本気で心配になってきてるのよね」
「そこに関しては多分心配ないのでは?1人でシてることありますよね?」
「うわっ……樹里ったら変態さん……元妻の私でさえなるべく見ないようにしてるのに。あんまり近づきすぎると頭痛くなるし」
「た、たまたま見えちゃっただけです‼︎そんな意図的に見ようとなんてそんなこと……」
「あーはいはい。そういうことにしておいてあげる」
「だから違うんですってー‼︎」
樹里がむっつりスケベさんなことがわかった
「とにかく2人ともそんなに時間があるわけじゃないことを覚えておけ。2年なんてあっという間じゃぞ」
「……うん。それは私もよーく理解してるよ」
私が生きた22年間は長く、充実した時間だったと思う
でも、私が幽霊になってからの7年間は本当にあっという間に過ぎていった
まるで電光石火の如く……これは言い過ぎではない
「ならさっさと下界に降りて、自分なりに出来ることをしてくるんじゃな!」
「えー?このお土産をナトちゃんに渡す時間のせいでロスになってるんだよ?」
「別にやめてもいいぞ?代わりに幽霊生活もそこで終わりを告げるがの」
「全力で続けさせて頂きます」
「うむ。ほらっ!さっさと帰るんじゃ!儂は仕事が山積みなんじゃ!」
「はいはい。じゃあまた来るからね。樹里ー?行くよー?」
私に変態扱いされてショックで蹲る樹里を引きずりながら、私は下界に戻った




