オファー
「ドラマ……?私がですか?」
「そうなんです‼︎ぜひ蘭さんにと!受けてみませんか?」
唐突に私に飛んできたドラマの話。しかもオーディションからではなく、私がOKを出せばキャストとして決定するらしい
「なんで私が……私演技の練習なんてしたことないですよ?」
「それが、相手の原作者がそのキャラのイメージにピッタリだからとご指名があったんですよ」
「私に……?」
私はモデル仕事以外に仕事を受けたことがない。テレビ出演の経験もないですし、性格面ではなく、単純に見た目でってことなんでしょうか?
「ちなみにどんな役なんでしょう?」
「主人公の義妹役ですね!ただ本当に最後の最後に出てくるキャラなので、出番は5分といったところだと思います!」
5分かぁ……長いような短いような……でもそれぐらいのちょい役なら、新しい道を開拓する第一歩としてはいいかもしれない
「あ、でも今回のクール分ではちょい役なだけで、原作では大きな役割を持つキャラになります。なのでもし続編とかが決まれば出番はグンッと増えますね」
急に役に重みが……
「そ、それはいつから放送されるんですか?」
「もう放送してますよ?」
「えっ⁉︎」
「ドラマの放映中に進行してドラマを作るのは結構普通なんですよ。まあ撮影は1週間後とかなので、役が決まるのがこんなに遅いのは中々ないですけど……」
「ちなみにそのドラマは人気なんですか?」
「今やってる冬クールの中なら2番目に視聴率取れてる作品です」
ということは全然続編の可能性もありえるかな……
「マネージャー的にはどう思いますか?」
「どうって……受けた方がいいかどうかってことですか?」
「はい」
「うーん……でも本当に蘭さん次第だと思いますよ。これから仕事の幅を広げたいと思うなら受けた方が良いですし、モデルの仕事で成功を収めたいなら受けない方が良いでしょう」
そうだ……これは私の事なんだから、他の人に決めてもらうのは良くない
「でも受けた時のリスクももちろんあります。演技が下手くそだったら、この先そういった話は来ないでしょうし、視聴者からの印象を悪くしてモデル活動にも影響が出る可能性だってあります」
決してプラスになるだけじゃないということが、私が即決出来ない理由だ
「返答は明後日までだそうなので、早めにお願いしますね」
「分かりました」
あ、大事なことを聞き忘れていた
「あの、そのドラマの題名ってなんですか?」
♢ ♢ ♢
「……で?どういうつもりなの?」
「ど、どういうつもり……ってなんですか?」
私は由布子の家に突撃していた。本当はどこか喫茶店とかが良かったのだけど、この前の件もあって家で会うことにした
「ドラマよドラマ‼︎何で私にオファーしたの⁉︎」
私がオファーを受けたのは、由布子が原作を書いたドラマだった
「だ、だってあ、あのキャラは蘭さんをイメージして書いたキャラなので……」
「ほぉ……?てことは由布子は私の事負けヒロインだって思ってるってこと?」
私のキャラは主人公の友達に恋をし、最終的にフラれてしまうし、ツンデレ要素がある少し可哀想な女の子というキャラなのだ
「そ、そんなことは思ってませんよ⁉︎」
「でも立ち位置的にはそうなんでしょ⁉︎」
「それは……はい……」
創作物とはいえ、私がモチーフになったキャラが負けるのは悔しい
「……まあ仕事を貰えて嬉しい気持ちはあるけど、正直私演技の経験なくてあんまり自信がないですわ」
「こ、候補としてあげただけなので、ぜ、絶対受けてほしいってわけじゃないですよ⁉︎」
「わかってるわ」
「で、でもそうですね……イメージは以前の湊さんの前での蘭さんなので、そ、それを再現してもらえれば、演技の練習も必要ないかもしれません」
「なるほど……」
普段の私通りということなら、確かに演技の必要はなく自然体でやればいいってことよね
……いや、無理ですわね
私のあのキャラは私が意図してしたものじゃなくて、湊さんの前になると、なぜか出てしまうもので私の意思でアレをしてたわけじゃない
しかも相手は私の知らない男性……湊さんが相手ならまだ出来る可能性はあったかもしれなかったけど……
……断ろう。私のせいで作品の質を落とすのも気が引けてしまいます
「……やっぱりこの話はなかったことにーー」
「あ、そ、そういえばこの作品、み、湊さんも見てくれてますよ?」
「ぜひ出演させて頂きますわ」
「ほ、本当ですか‼︎じゃ、じゃあ私の方から編集担当さんを通じてお話しておきます‼︎」
「あ……えと……ええ……」
湊さんが見てると知った瞬間、私の脳を介さずに口が勝手にOKを出してしまいましたわ……
♢ ♢ ♢
「つ、疲れましたわ……」
1週間後、私はまた由布子の部屋にお邪魔し、そしてベッドの上に倒れ込んでいた
「お、お疲れ様でした……」
「思いの外セリフも登場回数も多くて参りましたわ……」
私の予想していた量の3倍近く出番があった
「……でも楽しかったですわ」
「か、監督さんもえ、演技良かったって言ってました」
「それが本音であればいいですわね」
正直あんまり手応えはない。可もなく不可もなくって感じで収まるような内容だったはず
「……俳優も悪くありませんわね」
私は新たな楽しみを見つけた。やりたいことを見つけた
「由布子さん」
「は、はい?」
「次、新しい作品を作り出して、それがメディア化されることになったら……その時は私を主人公にしてくれるかしら?」
「は、はい!ちょうど次に構想を練ってた作品の主人公のモデルはら、蘭さんなんです!」
「えっ⁉︎ま、また私ですの⁉︎」
「はい!お金持ちの家に生まれて、主人公相手に毒舌を吐いて後で後悔する貧乳令嬢っていうーー」
「……貧乳?」
「あっ‼︎あー……えーっと……ひ、貧相の間違いです‼︎」
「どっちにしても私の胸のことバカにしてるわね‼︎……由布・子さーん?じっくり話を聞かせてもらいますからね?」
「ご、ごめんなさーい‼︎」
由布子の中での私のイメージ像を変えないとダメね……