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こんなタイミングで



「あ、また来たんだ。別に毎日来なくてもいいよ?」

「来るだろ」

「家から遠いよここ」

「遠くない」

「車で30分の位置を遠くないは無理あると思うなー」



病気が見つかった私は病院で入院することになった

病気の箇所がたまに痛むぐらいで、身体は動くのにベッドから動けない日々。外に出ることが出来ない日々は、アクティブな私にはどうしても退屈だった



だから毎日湊がお見舞いに来て話し相手になってくれるのは嬉しい。……反面、湊に迷惑をかけているからやめて欲しい



でもそれを普通に言っても湊はやめてくれない。冷たくあしらっても、それを聞き流してしまう



私はもう十分に、湊の人生の足枷になっている



「りんご剥こうか?」

「……剥けないでしょ?」

「剥けない」

「じゃあなんで聞いた⁉︎」

「りんごはないけど桃缶買ってきた」

「じゃあ最初から桃いるか聞いたらいいじゃんか……」

「確かに」



普段は普通……?なんだけど、たまにアホになるというか……というか湊に包丁を持たせるのは危なすぎる。多分一生料理なんて出来ないだろうなぁ



「……フォークは?」

「え?いるの?」

「いるよ‼︎液体に手を突っ込んで取れってか⁉︎ベタベタになるからね⁉︎」

「いや中身全部飲むのかと」

「糖尿病なるわ‼︎」

「……冗談だ。ちゃんと持ってきてる。箸だけど」

「ま、まあ無いよりは全然いいや」



私は箸を受け取った



「お、甘くて美味しい。久々に食べたけど、やっぱりフルーツの缶詰めって美味しいわ」

「良かったじゃん」

「んー。良かった」



……ヤバい。缶詰めを持つ手がプルプルと震えてきた。力が入りづらく、骨が浮き出るほど細くなった腕では、こんな物でさえ少し重いと感じてしまっていた



「……俺が食べさせてあげる」

「え?い、いいよそんなことしなくて」

「李華は箸の使い方が下手だから」



なんて失礼なことを言うんだろうか。でもこれは私の為を想っての発言であることはちゃんと理解出来た

湊のそんな優しさが、余計に今の私を苦しめる



「貸して。ほら。あーん」

「うぐっ……あ、あーん……」



パクリと一口。味は変わらないはずなのに甘みを強く感じた



「……美味しい」

「全部食べるか?」

「ううん。もういらないかな」



たった2切れの桃を食べただけで、1日ぶりの食事をした私の胃は満足している。ステーキとか脂っこい物を一口でも食べれば、私は多分吐き出すのだろう



……自慢じゃないけど私は可愛かった。高校では告白されたことだって何回もある。でも今は……髪も抜けて身体は皮と骨だけで出来てると言っていいぐらいに細く、声も風邪のひき始めのような掠れ声。喋る元気だけはあるのが唯一の救いかな



……こんな姿を湊に見られたくなかった。私の印象を綺麗な時のままで置いておきたかった



「ねえ」

「ん?」

「今すぐ出てってって言ったら出てってくれる?」

「無理だな」

「……なんでよ」

「泣くって分かってるのに隣に居ない奴があるか」

「……あっそ」



本当になんでもお見通しなんだよね。まるで心の中を覗かれてるのかってくらい



私は声をあげるわけでもなく、ただ涙を流した



♢ ♢ ♢



「う……あ、あれ?」



私は身体をむくりと起こした。場所はリーナのお店。目の前にはリーナが倒れている



「そ、そうだ……私、あの釜のやつ食べて気絶したんだ……」



こんな気絶したタイミングで思い出したい思い出ではなかったなぁ……



「リーナ起きて!リーナってば!」

「……はっ‼︎な、なんかすごい目覚め悪いわ」

「良くはないでしょうね」

「というか出てこないでって言ったよね⁉︎」

「あんなの食べたんだから、創作主にも同じ目に遭ってもらわないと気が済まなかったの‼︎」

「だからお詫びは払うって言ってる‼︎」



そんな子供みたいな言い争いが3分程続いた



「……で、食べきれそう?」

「この惨状を何回も繰り返せば食べ切れるけど……それが1週間で出来るかと言われたら微妙かも」

「味もヤバい?」

「それが……味は思ったよりは大丈夫」

「あ、そうなんだ」



といっても美味しいわけはない。激苦のビールに強い酸味がある味……という説明が1番適切だと思う



「それよりもやっぱり口に入った時の臭いと鼻から抜けた時の臭いがヤバい」

「つまりは臭いなわけだ」



こういうのって慣れとかで耐性がつきそうに感じるが、私は一向にその気配がない。



もし誰かがあの部屋に入って気絶して、誰も助けてくれなかった場合、気絶して目覚めてまた気絶してを繰り返す無限ループに陥るだろう



「……根気よくやるしかないかな」

「頑張れー」

「めちゃくちゃ他人事みたいに言うじゃん……」

「あ、次は巻き込まないでよ。最近釜のせいで鼻の調子悪いし」

「はいはい。善処します」



……また気絶するんだろうなぁ。と思いながら私は釜に向けて飛んだ



(量は……10数回ぐらいかな?)



ここに来たのが0時半で、最初に釜の中身を口に付けたのが1時。で、今3時回ってるから大体2時間気絶してたことになる



毎回2時間気絶するってなると、夜中の間に食べ進められるのは3回か4回。それをあと1週間以内だから間に合いそうではあるけど……



あとはそこまで私の身体と気力が持つかどうか……



私はまたスプーンで掬い、口に運んだ



「ぐぶっ……」



意識が遠のいていく。もはや麻酔薬じゃんこれ……



♢ ♢ ♢



「あ、起きた」

「……回収どうも」



釜のある部屋で倒れたはずだったが、今はその部屋の外にいる



「よく臭いのに拾えましたね」

「鼻の穴完全に塞いでたからなんとかね。それでもすっごい臭かったけど」



時計を見ると5時15分。やっぱり2時間近く気絶してる。それなら気力さえ持てばなんとかなりそうかな



意外と楽観視出来そうで良かった。……いやこんな物食べさせられて良かったもクソもないんだけど……

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