282話 終わりの始まり
アルモートの端……辺境の中の辺境にある、小さな村の宿に若い女性の姿があった。
アッシュブロンドの髪は、肩よりやや上の辺りで切りそろえられている。
瞳は宝石のように綺麗で、肌は陶器のように白い。
美術品が人の魂を宿した、と言われても信じる人はいそうだ。
なんの飾り気のない質素な服を着ているのだけど、逆にそのせいで、彼女の美を際立たせていた。
本人としては、目立つわけにはいかないという判断の元、質素な服を着ているのだけど……
余計に目立ってしまっていることに気がついていない。
「さて……これから、どうしますか」
女性……イヴは紅茶を飲みつつ、小さな声でつぶやいた。
竜に恨みを持つもの。
反竜組織リベリオンの幹部。
それが彼女の正体だ。
しばらく前に、大規模な計画を打ち立てて実行したものの……
結果は、惨敗。
思う成果を得ることができず、さらに、幹部の一人であるアベルを失うことになった。
「あれだけの準備をしたのに、なぜ、失敗したのでしょうか……?」
イヴは冷静に敗因を考えて……
そして、一人の人物を思い浮かべる。
「アルト・エステニア」
15歳の男性。
竜騎士学院に通う学生。
人一倍の努力により、それなりの力を身につけたものの、それもまだ常識の範囲内。
ただ、その成長速度は規格外。
半年ほど前は、冴えない落ちこぼれと聞いていたが……
今では、正規の竜騎士を凌ぐほどの実力だ。
このペースで成長したら、将来はどうなるか?
おそらく、国で一番の力を持つことになるだろう。
それだけではなくて、ありとあらゆる記録を塗り替えて、歴史に名を刻む偉業を達するかもしれない。
そしてなによりも……
竜の王女の寵愛を受けているところが厄介だ。
基本的に、竜は必要以上に人間に肩入れをすることはない。
同盟を結んでいるアルモートに対しても同じことだ。
侵略などを受ければ力を貸すが、それ以外の平常時で力を貸すようなことはない。
ないのだけど……
竜の王女は、アルトに力を貸しまくっていた。
訓練をして力をつけさせて、なにかあれば自らが動いて力づくで解決する。
そうする理由は……惚れたから。
色恋沙汰で竜が動くなんて、聞いたことがない。
前代未聞だ。
その報告を聞いた時、イヴは、思わず部下にふざけているの? と怒りそうになったくらいだ。
「そして、そんな彼と彼女が、今や私達最大の敵となっている……ということですか」
計画のことごとくを潰されて。
仲間を失い。
リベリオンは確実に弱体化していた。
全盛期の半分以下だ。
まだ組織としての体裁を成しており、活動に大きな支障は出ていないものの……
このまま敗北を重ねれば……終わりだ。
「それは許されません。私達に敗北は、絶対に許されないのです」
竜を排除するという目的も大事だ。
しかし、それ以上に、ここで敗れるようなことがあれば散っていった仲間たちに顔向けができない。
一矢報いる……なんて小さなことは言わない。
竜を排除する。
当初の目的を必ず達成して、そして、仲間たちに誇ろう。
彼らの墓に笑いかけよう。
やってやったぞ……と。
「そのために、そろそろ動かないといけませんね」
イヴは今後の計画を頭の中で考える。
成功率が高く、合理的で……
そして、確実に竜を排除できる計画を組み立てていく。
「逃げて、隠れる時間は終わり。ここからは、反撃とさせてもらいましょう」
イヴは唇の端を小さく吊り上げた。
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