283話 帰郷
その日……
ククルの姿は、アルモートではなくてフィリアにあった。
一時的な帰国。
家に帰るわけではなくて。
旅行というわけでもない。
「突然の戻ってこいという命令……団長は、どうしたのでありましょうか?」
王城の客間。
そこで待つククルは、小首を傾げた。
もうアルモートに滞在する必要はない。
フィリアへ戻り、別の任務についてもらう。
……そんな命令なら、まだ納得できた。
アルモートを離れるのは寂しいが、それでも、ククルは聖騎士。
真に仕えるフィリアのため、その身、その力を国のために捧げなければならない。
ただ、今回は違う。
重要な連絡アリ。
ただちに帰還しろ。
……という、なんとも簡素で、それでいて意味深な命令だった。
「てっきり、フィリアで事件が起きたのかと慌てたものですが……見た限り、国は平和そのものであります。いったい、重要な連絡とはなんなのでしょう?」
ククルは考える。
考えて、考えて、考えて……
それでも答えは出ない。
重要な連絡とやらに、まったく心当たりがない。
それでも考え続けて、待つことしばらく。
「待たせましたね」
「っ!?」
客間に入ってきた人物を見て、ククルは心底驚いた。
反射的にソファーから降りて、ビシリと敬礼する。
「だ、団長殿!?」
金色の鎧に身を包む女性。
始まりの聖騎士と呼ばれる人で……
聖国フィリア、最強の人物だ。
その名前を、アリーゼ・クロノベルトという。
「ま、まさか、団長殿がやってくるなんて、あわわっ……お、お久しぶりであります!」
ククルはガチガチに緊張していた。
それも仕方ない。
ククルは聖騎士ではあるものの、末席。
序列は最下位。
対するアリーゼは、聖騎士を束ねる立場で……
それだけではなくて、王の右腕と呼ばれていて、しかも友人とも言われている。
まともに話をしたことはなくて、顔を合わせる機会もほとんどない。
顔を合わせたのは聖騎士に就任した時の挨拶と、その他、数回だろうか?
ククルにとって雲の上の存在だ。
目の前に神さまが現れたのに等しい。
「そんなに緊張しないでください」
「す、すすす、すみませぬっ!?」
緊張のしすぎで口調も怪しくなるククルだった。
そんな彼女を見て、アリーゼは小さく笑う。
フル装備。
兜も身につけているため、口元しか見えないが……
優しい雰囲気をまとっていて、ククルに対して祖母のように接しているのがわかる。
ただ、ククルは緊張のあまりそれが理解できず、ガチガチになっていたが。
「お久しぶりですね。元気にしていましたか? アルモートでの任務に問題はありませんか?」
「は、はひ! じ、自分は元気にしていまして、任務は、も、問題ありませぬ!」
「そうですか、それはなによりです」
ククルは緊張しつつ、あれ? と不思議に思う。
重要な連絡があるというわりに、アリーゼは落ち着いたものだ。
よくよく見れば穏やかな雰囲気をまとっている。
実は、それほど大した連絡ではないのだろうか?
そんなことを考えるククルだけど……
それが、間違いであることをすぐに思い知る。
「本当はゆっくりとお話をしたいところですが……残念ながら、あまり時間がありません。さっそくですが、本題に入らせてもらいます」
「は、はい。自分は、なんのために呼び戻されたのでありましょうか?」
「聖騎士ククル・ミストレッジ」
「はい」
「……竜の王女、ユスティーナ・エルトセルクを殺しなさい」
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