263話 一時、撤退
ユスティーナとレイラさんが追いかけられているところを見つけて、急いで割り込んだ。
槍は持っていないので、モップを代わりの得物とする。
モップの中心点を持ち、クルクルと回転させつつ、執事やメイドさんたちを薙ぎ払う。
ただのモップなので大きな怪我はしないと思うが……
それでも、ある程度の痛みはあるだろう。
そこは申しわけないと思うが、こちらも捕まるわけにはいかない。
追いかけてくる相手を牽制しつつ、あるいは撃退する。
「くっ、手強い……!」
「応援は!?」
「一度引くぞ!」
執事やメイドさんたちは、苦い表情をしつつも、そのまま退いてくれた。
「ふぅ」
助かった。
対処することはできるのだけど、どうしても怪我をさせてしまうから、そこが申しわけない。
完全に退いたわけじゃないだろうけど、今後の行動を考える時間はできたはず。
「ユスティーナ、レイラさん、大丈夫か?」
「は、はい。ありが……」
「アルトーっ!!!」
「うわっ」
なにやら両手に抱えていた岩のようなものを床に置くと、ユスティーナが笑顔で飛びついてきた。
突然のことなのでふらついてしまうが、なんとか我慢。
しっかりと彼女を受け止める。
「ありがとう、アルト!」
「大丈夫か? 怪我はしていないか?」
「うん、大丈夫だよ。アルトが助けてくれたからね。あんな危ないところで来てくれるなんて……えへへー、やっぱり、アルトはボクの王子様だね」
「そ、そうか」
「どうしたの、アルト?」
「いや、なんでもない」
ユスティーナに対する好意を意識した状態なので……
そんなことを言われてしまうと、なんていうかもう、たまらない気持ちになってしまう。
このまま抱きしめ返して、頭をなでて、もう一度抱きしめたくなってしまう。
とはいえ、まだそのような関係ではないし……
そもそもの話、そんなことをしている場合じゃない。
「ユスティーナ、その岩のようなものは……?」
「あ、これ? 竜の卵だよ」
「竜の!?」
予想外すぎることを告げられて、思わず大きな声を出してしまう。
「どうして、そんなものがこんなところに……違法だよな?」
「バッチリ違法だよ。で……」
「その証拠なら、私がしっかりと抑えておきました」
レイラさんがいくらかの書類を見せてくれた。
確認してみると、竜の卵に関する取り引きが記載されていた。
それと、その他、不正らしきお金や物の流れも記されている。
「竜の卵というのは驚いたが……ひとまず、証拠に関しては問題なさそうだな」
「うん。これだけあれば、あの領主を牢に入れることができると思うよ」
「なら、あとはこの街の騎士団か憲兵隊に……」
「……そうはさせるか」
地の底から響くような、強烈な怒りに満ちた声が聞こえてきた。
振り返ると、領主の姿が。
その後ろに、執事とメイドさんたちが見える。
一度は退けることができたのだけど……
領主と合流して、すぐに追いついてきたか。
「貴様、ふざけた真似をしてくれたな……!!!」
「領主さま、すごく怒っていらっしゃいますね……いったい、なにをされたんですか?」
「アルトの女装がバレたのかな?」
「いや、それはまだなのだけど……」
「あっ。よくよく見てみれば、顔がおもいきり腫れているね」
「ということは……」
二人の視線がこちらを向く。
気まずくなり、顔を逸らしてしまう。
仕方ないだろう。
領主は、俺を抱こうとして迫ってきて……
耐えきれずに蹴りを叩き込んでしまっても、不可抗力だと思う。
「この私を完全に怒らせたな……地獄で後悔するがいい!」
そんな怒声を響かせると、領主は指をパチンと鳴らした。
それを合図として、屋敷全体がゴゴゴッと鳴動し始めた。
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