264話 このボクの顔を見忘れた?
「これは……!?」
地震?
いや……屋敷が揺れている?
「こ、これは!?」
「なにか知っているのか、ユスティーナ?」
「定番中の定番、追い詰められた悪人が使う……自爆装置!」
「物語の読みすぎだ!」
そもそも、まだ領主を追い詰めていない。
どちらかというと、激怒させただけだ。
「……なにか大きなものが近づいてきている?」
注意して観察してみると、屋敷が揺れているわけではなかった。
例えば、巨人が近づいているかのような……
見当はつかないが、なにか巨大なものがこちらへ向かってきているようだ。
「アルト、これって……」
「少しやばいかもしれないな。レイラさん、俺達の後ろへ」
「は、はいっ」
レイラさんは、慌てて俺たちの後ろに回り込んだ。
その上で、ユスティーナも背中にかばう。
力は彼女の方が上なのだけど……
それでも、できることならば俺が守りたい。
つまらない男の意地というやつだ。
「私のかわいいかわいいペットを見せてやる! こい、ステファニー!!!」
「グルォオオオオオッ!!!」
かわいらしい名前とは正反対に、とんでもく凶暴そうな魔物が現れた。
体長は、屋敷の廊下の幅いっぱい……5メートルほどだろうか?
身近で見ると、小さな山が動いているかのようだ。
四足歩行で角が生えている。
全体的なフォルムは牛に似ているが、牛と違い、全身に筋肉の鎧をまとっている。
もしもヤツの突撃を受けたら、空まで飛んでいってしまいそう。
ベヒーモス。
一度暴れだしたら、竜でなければ止めることができないと言われている凶暴な魔物だ。
どうして、そんな魔物がこんなところに……?
「はははっ、見たか! コレが私の切り札だ!」
ベヒーモスは領主に襲いかかるわけではなくて、むしろ、従順な姿勢を示していた。
彼の後ろでピタリと待機して、命令をじっと待っている。
「魔物が人に従うなんて……まさか、飼いならしたのか?」
「ほう、頭の回転は早いみたいだな。そう、その通りだ。ステファニーは、小さな頃から私が育ててきた。いわば、私は親代わり。今では、このようになんでも言うことを聞いてくれる、いい子に育ってくれたのだよ」
「魔物の飼育は違反じゃなかったの?」
「ふんっ、そのような愚法、知ったことか」
竜の卵の違法な取り引きに、魔物の飼育。
ダブルでアウトだ。
「国の上層部が知れば、タダでは済まないぞ」
「バレなければいいのだよ! はははっ! そもそも、国の上層部がこんなところに来るわけがないからな!」
「……それはどうかな?」
ユスティーナが不敵に笑い、一歩、前に出た。
キリッとした顔で、領主を睨みつける。
竜の卵を抱えているせいで、いまいち威厳というものが足りていないのだけど……
それを気にすることはなく、ユスティーナは力強く言う。
「キミの悪事、隅から隅まで全部、ボクが見たからね! もう終わりだよっ」
「はっ、小娘風情になにができる」
「キミは、グレイハウンドの領主だよね? 一度、会ったことがあると思うんだけど……」
「なんだと?」
「ボクの顔、見忘れたかな?」
ユスティーナがニヤリと笑う。
そんな彼女の様子で、領主は訝しげな顔をして……
次いで、顔をサァーっと青くする。
「ま、ままま、まさか……お前、い、いや、あなたさまは……!?」
「ボクのこと、思い出した?」
「そんな、どうして、このようなところに……ありえない!? ありえないぞ!?」
「なら、ここにいるボクは幻になるのかな?」
ユスティーナはノリノリだ。
ちょうど良い機会だからと、以前、読んだ物語のマネをしているのだろう。
……なら、俺も協力するか。
「あー……控えろ。この子を誰だと心得る?」
「そう、ボクこそは、アルモートと同盟を結ぶ竜の一族の王女、神竜バハムートだよ!!!」
「はっ、はははぁーーー!!!」
ユスティーナの威光にひれ伏す領主。
そんな彼を見て、彼女はとても機嫌がよさそうだった。
……なんだ、これ?
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




