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11.封印へ

「さて、確認にゃ」

 

 俺達が残されたあと、先に口を開いたのはシエルリーゼであった。依然フィリーに向ける視線には懐疑心が多分に含まれているが、一応協力しようというつもりはあるらしい。

 今はもう夜だが、炎はまるで夕焼けのように辺りを燃やしている。そんな状況でも、シエルリーゼは落ち着き払った状態で俺達に話す。


「北側で族長が目立つ行動をしたら、ある程度敵の注意は惹きつけられるにゃ。とはいえ他の要石かなめいしが復活したことを悟られたら、どうせこっちに押し寄せてくるにゃ、数で押されると厳しいにゃ」

「まあ、そうですね……」

「だから結界の復活は族長が合図を出したらにゃ。いいにゃね?」

「はい」

 

 気怠げにフィリーに対して作戦の確認を行っていたしエルリーゼだったが、そこまで話すと俺達に興味なさげにそっぽを向いてしまう。

 協力はしようとしているが、やはり関係性は代わっていないようだ。シエルリーゼはフィリーを信頼せず、フィリー自身もシエルリーゼに対して萎縮してしまっている。

 これで昔は友人だった、と言われてもなかなか合点がいかない。ひとまず、この非常に俺が居づらい環境を少しでも変えたいと、俺もそこに口を挟む。


「フィリーはあそこで結界を守ってたんだよな」

「はい。けど、もう半分は破られています」


 俺とフィリーが契約にかかった時間はおよそ一時間といったところだ。

 その短時間でフィリーが守っていた結界の半数を除く、他の全ての結界が破られているということになる。単純計算であと一時間ほどでなんとかしなくてはならない。


「ていうかなんで全部の結界を破ろうとしてるんだ?」


 すでに樹の周囲まで敵は到達している。これ以上結界を破る意味は果たしてあるのだろうかと思い、フィリーに尋ねる。


「結界を全て破らないと、樹を守る結界が消えないので……」

「なるほど……」


 中央にあるこの巨大な樹――世界樹自体の結界は特別らしい。やはり敵の目的は世界樹の破壊なのだろう。

 とはいえ、フィリーの言っているように、フィリーの結界も半分破られているとなると、もうあまり長くは持ちそうにない。


「ま、行くかにゃ」

「はい」


 歩き初めたシエルリーゼの後ろをフィリーが続く。

 そして一歩目を踏み出したところでシエルリーゼは振り向き、肩越しにフィリーに向かって口を開く。


「前提として、てめーが失敗したらエルフは終わりにゃ、逃げんじゃねーにゃよ」

「うう……」

「流石に今の話聞いたら大丈夫だろ」


 フィリーにとってはプレッシャーだろうが、流石にここで逃げるような子ではない気がすると、短い付き合ながらに思った俺は、ついつい口を出す。


「にゃ。って、今の誰にゃ?」

「え? あ、こちらです」


 フィリーが俺をシエルリーゼの前に掲げる。そういえば俺はちゃんと会話をしたことがなかったなと、この時気づく。


「いきなり話に入ってきやがったにゃ。本当にフィリンシアの"運命フォルタ"だったんにゃ?」

「そうらしい。よろしく、でいいのか?」


 挨拶のつもりだったのだが、シエルリーゼは眉間にシワを寄せて顔を近づけてくる。


「にゃー……。どうなってんにゃ? これ」


 そしてペタペタと、俺の身体を触ってきた。初めに触れられかけた時に放たれた閃光も、今度は発生しない。フィリーと契約したからだろうか?


「お、触れるにゃ」

「な、なんだなんだ?」

「身体は土だし精霊って感じでもねーにゃ……。てめー何者にゃ?」

 

 そう尋ねられ、俺はフィリーに名前さえ伝えていないことを思い出す。ちょうどいい、この際だ。


「俺は――」

「あ」


 そう声を出したのはフィリーだった。

 俺とシエルリーゼは同時にフィリーの視線の先を追う。そこにあったのは、太陽よりも眩しいんじゃないかとさえ思える、真っ赤な閃光であった。

 すでに日は落ちきり、二つの月が空に出ている。そんな夜空を閃光が真昼のように辺りを照らす。


「合図です」

「あれがか」


 非常に目立つが、族長は陽動の役割も引き受けてくれている。おそらく、俺達と同様に的にも出撃することを知らせているのだろう。


「にゃ、じゃあ行くとするかにゃ。てめーもさっさと捕まれにゃ」

「え、あ、はい」


 フィリーがシエルリーゼの肩に触れると同時、辺りの景色が変わった。


「うぉ、すげーな!」

「にゃー……こんなの全然ふつーにゃ」


 そう会話している間にも三度、周囲の景色が変わる。何度か突然現れた俺達に面食らったような顔をしていた敵の人間もいたが、それを無視してシエルリーゼは空間を跳躍し続ける。


「フィリー、これも魔法なのか?」

「はい。シエルは『自身の視界に入っている場所へ瞬間移動する』という魔法が得意ですので」


 そう言っている間にも周囲の景色は何度も変わり、炎に包まれた森を抜ける。戦場から抜けたのか辺りには再び静寂が訪れていた。森を包んでいた炎も、ここまでは届いていないらしい。


「もうすぐ要石にゃ。見張りが何人かいるにゃ、奇襲するにゃ!」

「はい!」

「行くにゃ!! やってこいにゃぁあああああ!」


 そう叫ぶや否や、シエルリーゼはフィリーを投げ飛ばす。眼の前には五人程度の鎧を纏った人間。

 闇に紛れながら、その男たちにフィリーが急襲する。


「な!? 貴様達、どこから!?」

「やあぁあああっ!」


 投げ飛ばされた勢いのまま、フィリーは男を蹴り飛ばす。

 何人かは武器を構えようとしたが、突然現れた俺たちにどうすることもできない。

 結果フィリーが二人、シエルリーゼが三人を一瞬にして制圧してしまった。


「結界の復活はてめーがやれにゃ、わたしは辺りの警戒をしといてやるにゃ」

「大丈夫ですか?」


 フィリーが心配するが、シエルリーゼはそれを鼻で笑って言う。


「はっ、てめーと一緒にすんじゃねーにゃ。北側に本体が向かってるはずにゃ、準備が出来たら族長が合図を出すはずにゃ、それを見たらそっこーで結界を復活させるにゃ」


 フィリーはただ頷き、シエルリーゼから視線を外す。その視線の先にあるのは砕かれた球体であっただろう石。大きさはバスケットボールくらいだろうか。


「シエルリーゼ、私は……」

「ふんっ」


 結界の要石に向かって手をかざし始めたフィリーに対し、話は終わりだと言わんばかりにシエルリーゼは鼻を鳴らすのであった。


――――

――――

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