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あの時が聞こえる  作者: end&
本編
42/42

エピローグ

 学校を出ると、雪はもう止んでいて、陽の光が雲間からこぼれて降り積もったばかりの雪の上に降り注ぐ。

 雪の小さな結晶はその光を反射してキラキラと輝く。


 輝いて、溶けていく。


 中学校から家へと続く帰り道。

 左手にはまだ雪の残る田んぼ。田園風景なんてここらへんじゃ珍しくもなんともない。

 でも、ここから見る風景が好きだった。

 今も、雲の間からこぼれる太陽の光が、スポットライトみたいで綺麗。


 天使のはしご――薄明光線っていうのを優穂が教えてくれた。


 雪が溶けて、暖かくなって、つくしが生えて来たら田んぼの土がおこされ、水が張られ、田植えが始まる。やがて梅雨が来て、それが過ぎ去る頃には、稲は大きくなって隙間なくザワザワと風に揺れる。それはもう夏の風。

 台風がくる頃には、すでに受粉は終わっていて、花は散り、米が実る。

 にわか雨が降り、重すぎる稲穂は頭を垂れ、田んぼにいくつかの穴ができる。幼い頃、それをミステリーサークルと呼んではしゃいだ。

 お盆が過ぎればもう秋。昼夜の気温差が広がっていく。気温差が広ければ広いほど、その年の紅葉は美しくなるそうだ。稲も黄緑色から狐色になって、稲が目立つようになる。

 稲を刈り取れば、家のストーブに火が灯る。灯油の臭いが家中に充満する。

 再び、田んぼの土が見える頃にはマフラーを用意する。

 新米がスーパーに並びだせば、冬の到来。

 また雪が降って、田んぼを覆い隠す。

 すべてを包むように、町の音すべてを吸収しながら降る。

 白鳥たちの鳴き声が響き、町が雪に埋もれていく。


 その繰り返し。


 季節は終わらない。

 いつも同じ順番で手をつないでくるくる回ってる。


「ねえ、優穂」

「なに?」


 ここを二人で並んで歩くのは最後になるだろう。

 同じ高校に進めることにはなったけれど、もう中学校には通わない。


「終わったから、始まりだね」


 優穂は言葉の意味がわからず、少し眉をひそめる。


「なにそれ?」

「終わったら、新しい何かが始まるんだよ」


 頭に浮かんだことをちゃんと整理して言わなかったから、優穂はますます困った表情になる。


「あのね、今日は終業式だったけど、私にとっては始業式なの」

「でも、四月までは中学生だよ」

「そうだけど、私にとっては始業式なの。もう中学校は終わったの」


 また、雪が少しぱらつき始める。


「うん、中学校は、終わったね」


 私を安心させるように彼女は言う。


「うん、終わった。だからね、次を始めるの」


 まだまだ外は怖いけど、こんなにも綺麗だから。

 その気になれば、どこへだって行ける。

 誰にも見つからない場所まで行ける。


 だけど、私は一人では生きていけないから。誰かと一緒にいたほうが楽しいから。だから逃げられなかった。守られているのは居心地が良かったから。だけど――


「もう逃げないよ。ちゃんと高校に通う」

「あまり、無理しなくていいんだよ?」

「無理じゃないよ」

「だったら無茶」

「……無茶してるように見える?」

「いいや、前よりは全然いいよ」

「それならたぶん大丈夫だよ」


 このままで終わりたくない。

 逃げることも、遠回りすることも、隠れることもなんでもできてしまう。

 だから、逃げるだけで終わらせたくない。


 ずっと続けたい。


 続けられたらいいと思う。

 好きな曲を何度もリピートして終わらせずに弾くのも楽しいけど、新しい曲も練習したい。もっと好きな曲を増やすために、新しい楽譜を開きたい、手に取りたい。

 嫌なことはもう終わったんだよ。いつかは終わる。良いこともずっと続くとは限らない。

 それこそ、本人次第。

 だから、終わったら新しい次を始めるの。

 不幸で終わらせないために、最後の最後まで。


 私のために。


ありがとうございました!

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