現代:再会、そして初めまして
二人の警官に連れて行かれる里音さんと目が合う。
声をかけたかった。
二人で話した時間が、たった数時間程度だったとしても、他人とは思えなかった。
だが、その一歩が踏み出せない。
ふと、彼女がこちらに気が付き、少し驚いたような表情を浮かべ、やがて苦笑を浮かべる。
――かっこ悪いところ、見せちゃったね。
そんな感じの笑み。
なぜだろう。
これで事件は解決した。それと同時に、犯人に抱いていた怒りの感情が氷解していく。
確かに、斎藤寿々菜に対する行為は犯罪だ。
だけど私は被害者ではないし、ましてや被害者とは何の面識もない。
十七年前、私の目の前で理世さんを階段から突き落とした。その瞬間を見ているのにも関わらず、怒れなかった。怒りが込み上げてこなかった。
始めは自分に対する罪悪感が勝っていた。
それも、時と共に少しずつほぐれて、薄まっていった。
純粋に恨めないのは、過去の彼女との関係があるから?
そうじゃない。
理世さんのピアノが素直なのに対して、里音さんのピアノは少し不安定で、暗闇を手さぐりで進むような危うさがあった。
決して下手ではない。伝わって来たのは不安と焦り。決してつかめない蜃気楼を追いかけて走り続けているような、そんな気がした。
根っからの悪人だとは思えない。
才能に目を奪われ、道を踏み外してしまっただけ。
藤田里音がしたことは許されることではない。だけど、誰だって道を踏み外す可能性はある。
才能と一緒。
望む望まざる関係なく、誰でも犯罪者になる可能性は十分にあるのだ。
「一件落着、なのかな」
カーディガンのポケットに手を入れたまま、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた理世さんが呟く。
高校生時代とほとんど変わらない。変わった点と言ったら、髪型がアシメショートに変わったくらいだろうか。
それと、ピアノを辞めて今は――
「高校の、あの時に一度会ってるけど、出会いのやり直しだね」
二度目の初対面。
あの時はピアノに惚れて追いかけた。
だけど今は歌声に惚れて追いかけた。
そしてやっと出会えた。
「優穂から、あなたのことは聞いてる。旧姓飯塚、今は成田君花さん」
「初めまして、深澤理世さん。それともUMAと呼べばいいですか?」
決して人前に姿を現さなかった人。
でも、たぶん彼女のピアノを聞いたことのある人は気づいたはず。
やっと見つけた。やっと会えた。
「本当に、未確認生物みたいですね」
自然と笑みがこぼれた。




