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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
98/98

98 女心は複雑です

「それにしても響真くん。さっきのアレはいったいなんだい」

 片付けも終わりリビングでシエルの淹れてくれたお茶をすすっていると緋華が疑問に思っていたであろう話題を振ってきた。

「さっきのっていうと、エクスドライブモードのことですかね? あれはちょっと説明が難しいんですが、簡単に言っちゃうとブラックチェイサーの体を服みたいに纏っているって感じです」

 重要部分まで語ると日が暮れる気がする。いやまぁ緋華と丸一日談議するのも魅力的ではあるけど、興味のない者だっているからさ。特にアリアとか。仕組みというか過程より結果を重視するタイプの彼女には強さの証明が成された物に関してはそれ以上追及しない方針らしい。

「そっかそっか。まったくわからんぞ! つまりはあれか? 耐衝撃に耐熱やらエネルギーループ機構まで備わっていると」

 わかっているじゃないか。当たり前だよね、ブラックチェイサーは緋華が創ったものなんだし。

「いえ、エネルギーループ機構だけは残念ながら再現できませんでした。熱融合炉がどうしても服の範囲内に収まらなくて……代わりにフラグメントコアを使ったサーマルリングシステムを構築してあるので武装に関しては問題ないんですけれどね。あ、フラグメントコアっていうのは砕けたコアの集まりです。通常のプライマルコアに存在している流体エネルギーを生み出す所だけ重点的に利用してですね――」

 これくらい語れば大丈夫だろ。あと細かい点にエクスドライブモードではノワルイグニスが紐付けされているため、起動時に勝手に現出されるってことかな。エクスギアを使う専用のモードだから一番下にくるインナーを着装する仕様みたいだ。これ、上にもアウターとかを着れるのかな? ま、そんなのは必要になるまで保留でいっか。絶対防御があるだけで安心感が違うぜ。今すぐ戦場に駆け出したい気分になるよ。


「響真くん……力の使い方だけは誤るなよ」

 俺の考えを見透かしたような台詞を緋華は口にした。

「強くなるなとは言わない。君が満足するまで、行き着く所まで走り抜けろ」

 だが、彼女はそれを知った上で言うのだ。止まるんじゃない、と。不完全燃焼のまま終わることだけは許さないとばかりに。

「わかりました。あなたを失望させたりはしません」

「うむ。では、とりあえずあっちに加勢してくるといい……私はちょっと近づけないから。頑張ってな」

 緋華が指し示した先。そこには睨み合うシエルとステラの姿があった。


「うぐぐ。事情はわかりました。つまり、キョーマには今後一切手を出さないということですね?」

「手を出さない、か。いんや、それは保証できねぇよ。少年の中に在る物はともかく、こいつ自身に興味が湧いてきたところだからな」

 近付いたらガシッとステラに捕縛されてしまった。ちょっと息苦しいけど、やわっこい感触を堪能しておこう。

「がーんッ! キョーマが……私のキョーマが取られちゃったです!?」

「お前のじゃねぇだろ。アリアから聞いた話じゃそこに居る赤いのとも結婚する予定なんだってな。私は別にお前らの仲を引き裂こうとか思っちゃいねぇんだ。ただ、ちょっとばかし貸してくれって話でさ」

「貸すとか貸さないとか、キョーマは物じゃないです!」

「あ、怒る所そこなんだ。たぶんだけど、ステラは俺の技術力に関して言ってるんじゃないかな」

 ルクスリアを創った時点でステラの俺に対する好感度が最大値に固定されてしまったのである。それはまぁ嫌じゃないっていうか、むしろ嬉しいことなんだけれど……ちょっと限度があるよねって話で。

 ちなみにあの時生まれた虹色のコアはステラが保管するということになった。俺にも所有権があるらしいが初めての経験なので後学のために色々研究したいとのこと。以前から簡易術式装置を使用した場合に限り青ではないカラーもあったがいずれも単色であり、二色どころか七色――知覚できないだけでもっと多い色に輝いているのは不思議でしかないってさ。青以外があるってのにまず驚きだよ俺からしたら。賢者の石って、たぶんこのイレギュラーで生まれた石がそうなんだろうなぁ。ステラ曰く青じゃない石は機巧人形には適さないとかなんとか。

「なるほど。技術者としてキョーマを借り受けたいと……それなら本人の意向次第では」

「え、違うけど」

「はい?」

「少年が私のことをアリだって言ってくれたのが、なんつーかすげぇ嬉しくてさ。そりゃギリアムの野郎とかにも求婚はされたよ? でも、あれはないだろ。顔はたしかにいいと思うが趣味は合わねぇし、なにより意気地がない。駄王のいいなりになってたのが、どうにもなぁ。おかげで私は殺されそうになって、そこに颯爽と現れた少年に命を救われて――キュンときた」

「…………えっと」

 困り顔のシエルなんて久しぶりに見たな。どう説明したらいいものか。

「もう少し早く着いていればステラに痛い思いをさせることもなかった」

「向こうで何があったんです?」

「あれだ、反逆罪だとか言われて公開処刑されるところを命拾いしたってやつ。ぶっとい槍で心臓を抉られ、体の熱が冷めていき、死の恐怖に怯える中、温かい手を差しのべられたらどう思うよ」

「それは、最高にいい場面です」

「だよな! しかも私に槍を刺した首謀者をその場では殺さずに、復讐を遂げたいなら手伝うとか口にするんだぜ? 選択肢をあえて残すところとか、カッコよすぎだろ」

 別に深く考えて行動していたつもりはない。単純に、俺の意思だけで決めていい事柄ではないと思ったから生かしておいただけのことだ。元タングステン王は個人的に嫌いな人間なので躊躇(ためら)う理由もない。アリアと笑いながら話していた内容の通りに処理してもいいかもね。

「むぅ。先生とは運命的な場面で再会するっていうイベントをこなしておいて、私ときたら……」

 ゲームじゃないんだから女の子に出会う先々でトラブルが起こらないでほしい。残念ながら現実にコンティニューはないんだぞ。でも、セーブとロードを駆使した行き当たりばったりな選択でクリアできる人生なんてのもごめんだな。

 あと、シエルは忘れちゃったのかな。君がこの家に初めて来た時にもイベントは発生しているんだぞ。白き閃光なんていう規格外な奴に俺が首ちょんぱされるっていうな。奴にはノワルイグニスがあっても勝てるか怪しい、困ったことに。できれば再会したくはないよ。


「ステラとは結婚しないから、安心してくれシエル」

 落ち込む彼女にかけるべき言葉が思いつかなかったので、向こうで決めていたことを伝えよう。

「え、はい。って、なんでですか!?」

「なんでもなにもねぇだろうがよ。お前は私が何歳だと思っているんだ……」

「歳の差なんて関係ないです! そこに、二人の間に愛さえあれば!」

「お前は私と少年の仲を否定してるのか応援したいのかわからんな。あれか、女心は複雑ってやつか」

「ですです。私はもとより緋華さんも加わるので二人も三人も変わらないと思うのです。キョーマなら等しく相手してくれるはずですからねぇ」

「はっはっは。だとよ、少年。これから大変だとは思うがシエルのことを頼んだぜ」

「頼まれなくても幸せにするさ。シエルとは一生添い遂げたいからね」

「あうぅ。よろしくお願いしますね、キョーマ。で、先生と結婚しない理由について詳しく」

 やっぱり気になるよね、そこんところ。うやむやにはできない、よなぁ。


「簡単な話だぞ。私がお前の、シエル・ブリジットの保護者という代理人になるためだ」

「…………んぅ?」

 ふはっ。シエルが今までに見たことのないような顔、しかめっ面で首を傾げてらっしゃる。

「ステラ、ここは俺から説明するよ。シエルはこの国に来てから役所に行ったことはあるかい?」

「ないです。何処にあるのかも知りません!」

「だよね。つまり、君は――不法入国者だ」

 国境を越えるだけなら検問もないし簡単なのだ。しかしながら、許可を取らずに滞在することはできない。入国した当日中に近くの役所に行って臨時の市民証を発行してもらう必要がある。

 アリアなんかは機巧人形の契約法に則り、俺の所有物として登録されているので問題はないのだが……シエルに関してはもはや言い逃れのできない程に無許可で長期滞在しちゃっているのである。なーんか忘れているなーとは思ってたんだよ? でもさ、ステラと一緒に色々な国を渡っていたなら知ってるはずだよね。常識的に考え――うん。続き続き。

「ま、まさか……私、捕まっちゃうんです? キョーマのお嫁さんになれないんですか!?」

「いや、大丈夫。ステラを一時的に君の保護者として登録してもらえば、全て解決する問題だからね」

「私も失念していたぞ。普段国を渡る時はフリーパスを使っているからなぁ」

 フリーパスとはステラ・ブリジットにのみ与えられた国家間の自由移動が可能になる許可証である。ま、世界に多大な貢献をしている彼女だからこそ使える物ってやつだ。なお、紛失した場合における再発行は不可能になっている。

「シエルには助手として活動するためのパスを持たせていたんだが、少年に聞いた限りじゃ失くしたそうだな?」

「うぐっ。たしかに、ここに来るちょっと前に荷物は全て消え去りました……」

「入国して市民証を発行した後だったら問題なかったんだけれどね。ついでに言うなら他の国にいったん移って国籍を取得しようにも現在の情勢を考えるに無理があるんだ。元々君が住んでいたっていう国が滅んでいるのも要因の一つになっている。シエルという人間は、書類上では存在してないってわけ」

 このまま婚姻届を出そうものなら素性不明の者に対する調査が始まり、先ほど俺が言ったように不法入国者として逮捕、拘留されてしまうのだ。本来なら出身国に強制送還だけど、国がなけりゃ無理だよね。

 とはいえだ。一応他にも方法はある――お金で解決するっていうのがね。さらには俺がイクスブラッドという政府関連組織に所属していた人間だってのも利用すれば簡単だよ? でもさ、シエルは複雑な心境になると思うんだ。金と権力で掴んだ幸せは真実なのかって。先の事まで考えたら正攻法で行くのがお互いのためだろ。

「悩む必要はあるまい。私が孤児(みなしご)を拾って育てていたのに変わりはないんだ。今回はそれを正式な書類として提出するだけの話で、子供が結婚するなら私は義理の母親としてお前の旦那とは結婚できなくなるってもんだしな」

「ですが、私さえしっかりしていれば、こんなことには」

「気にするなっての。お前と違って私は結婚なんてものに憧れも何も抱いちゃいねぇからよ」

「まぁ、シエルの位置付けをハッキリさせるって事だ。俺たちの関係性が変わるわけじゃない。ステラの言うように気にせず甘えたらいいんじゃないかな。頼れるモノは何でも使えってやつだよ」

 ちょっと違うか? これで納得してくれるといいんだが。

「……わかりました。では、お願いします――ステラ、お母さん」

「うげ! 母親扱いはやめてくれーーーッ!?」

 ちょっと嬉しそうな顔で逃げ惑うステラの叫び声が我が家に響き渡っていた。


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