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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
88/98

88 敵陣に乗り込んでみた!

「……逃げちゃおうかな」

 心は挫けていない。しかしながら、体力には限りがある。

 このまま戦い続ければいずれ取り返しのつかない失敗をして終わるだろう。


 敵の持つ武器は巨大な斧だけではない。


 刺突用の槍やロングソードもさることながら、当然の如く銃器も使用してくる。対人用じゃなくて口径の大きい物なのが救いだな。弾速が遅いためにナイフで相殺することが出来るし、なんなら避けることだって――あっ、今かすった! やっぱり避けるのナシ! 危ないわ……。


「でも、俺が逃げたらタングステンは滅ぶんだよなぁ」

 圧倒的なまでの戦力差に愕然としたよ。争いの原因はなんなのだろうか。気になる。


 そもそもな話、タングステン側の兵士は勝てる見込みがあって戦っている雰囲気だったのがおかしいのだ。お前らよく見てみろ。頭を使ってよく考えてみろ。数人がかりで機巧兵一体を、ボロボロになってまで、命をかけてまで倒したところで無駄なのだから。

 彼らが王の命令だけで必死になっていたわけでないことは明白だ。きっとなんらかの理由があって、そのために邁進していたに違いない。で、あるならば。


 その理由を俺は知りたい。戦争が起きてしまった経緯を。人が、命を懸けるわけを。


「――――ってことで。気になったから、来ちゃった!」

「たわけが。貴様、何が目的だ!?」

 現在、俺の足元で騒いでいるのが敵国の大将らしいです。戦地のすぐ近くにテントなんて張ってあったもんで、まさかとは思ったが……まさかとは思ったが! 大事なことなので二回言った。

 戦況を見極めつつ的確な指示を出すには最適な方法ではある。でもさ、機巧兵たちにカメラとか搭載する余裕はなかったのかと。映像をリアルタイムで取得する技術くらいあるだろ? え、ないの。うっそだぁ。

 機巧兵という戦いにおいて理に適った物を創るくせして頭の回らない連中だな。そんなんだから突然現れた俺に蹂躙されて捕まるんだぞ? 本拠地を攻められた場合を想定しなくてどうする。基本だぞ、き・ほ・ん! はっ、もしやこれすらも常識が当てはまらないというのか!? 俺はいったい何を信じたら……。

「俺の目的? それは君を殺せば達成されるんじゃないかな。ああ、先に自己紹介しておくね。俺の名前は奏響真。ちょっとわけあってタングステン国に協力している身だ。こっからじゃ見えてなかったかもしれないから教えておくけど、機巧兵はすでに一万以上壊させてもらったよ。現在も俺の仲間であるアリアって奴が――」

「一万だと! くはは、何を申すかと思えばそのような妄言、我が信じるとでも」

「王よ、誠にございます。私は見ていました……その者が我が国の技術の粋を集めた機巧兵を薙ぎ倒していく様を。一瞬にして千の軍勢を炎に包み、燃やし尽くした所業を!」

 あれ? 近くに人はいないと思ったんだけどな。イクスフレイムで大軍を分断したのも、タングステン兵に当たらないように機巧兵の密集している所を狙ったっていう理由からだ。端から焼き払うにも兵士たちが邪魔だったのだ。彼ら巻き込んではギリアムに合わせる顔がないからね。なにより数体残したところでアリアが綺麗に一掃してくれるしな。今回は俺一人ではない。頼れる相棒がついているのだ。

「ふっ、お前も冗談を言うようになったか」

 家臣の報告に対して王は、しょうがない奴だぜ、みたいな顔をして頷いていた。えぇ、この状況で嘘なんてつくわけがないだろ普通に……おっと、この流れはもうやめておくか。

「なんで、あなたはいつも――わかりました。では、こうしましょう」

「は? え、ちょっと」

 王に信じてもらえなかったのがよほど悔しかったのか、家臣は着ていた鎧を脱ぎ捨て、俺の前に跪いた。

 ちなみに王様はロープで縛って転がしてある。首には脅しも兼ねて騎士剣をあてがっているけど。

「奏、響真。王の代わりとはまいりませんが、私の首をはねなさい。現実をわからせるには、これが一番早い。王は、彼はまだ若く……どうか、私の命だけでご容赦を」

 うぅむ。俺としては首がどうとかより、早いとこ機巧兵を止めて欲しいんだけれどなぁ。

 外はもう暗いし家に帰ってごはん食べて寝たいのが本音である。日帰り計画は無謀だったか。


「そっか。じゃあ、さようなら」

 俺は騎士剣を上にかざし、両手で掴む。刃のところどころ欠けた剣であろうとも人体の急所を断ち切るには十分な能力を残している。


「さらば、我が親愛なる息子よ」

「やめ、やめろ! 母様を――――」


 ザンッ!!

 鈍い音を立て、騎士剣は振り下ろされた。これだけ近ければ狙いが外れることもない。


「な……っ」

 家臣、王の母であるところの女は地に突き刺さる刃に目を見開く。

 あまりにも、滑稽だ。自分がやられた後に息子も同じことをされるとは思い至らなかったのか。


「あんたを殺したら、こいつはどうなる。怒りに狂い、さらに人々を苦しめるだろう。そんなこと俺が許すと思うか? ふざけるのも大概にしろ。これじゃあんたの死は無駄に、意味がなかったってことで終わってしまうんだ。子供を想う心は立派だけど、残された者の気持ちを考えろよ。俺が言えた義理じゃないけれどさ」

 無理して突っ走って、散々家族に心配をかけて。他国の戦争に関わるのだって皆反対だったはずだ。先生を助けるのが目的だったのに、こうして知らない人たちを救おうとしている。有無を言わさず焼き払えば簡単に解決するというのに。俺はどこまでいっても甘いのかもな。非情にはなりきれない、人であるが故に。


 ただ、痛いものは痛い。


「き、貴様。機械人形(きかいにんぎょう)だったのか!」

 いつの間に抜け出したのか、王様は俺が地に突き刺したままにしておいた騎士剣を引き抜いて斬りかかってくる。原因は彼を縛るロープを緩くしすぎたせいだよね、わかってる。

 咄嗟のことだったので思わず左腕で受けてしまったが、金属骨格まで断つにはいささか切れ味が足りていない。うん、グリグリ動かさないでね? 肉が抉れちゃうからぁ!!


「かっはッ、うぎぃ」

 動揺した王様はがら空きになっていた胴を俺に蹴り飛ばされ、テントの外へと転がっていく。歩いて後を追うと、月も出ていない漆黒の空が広がっていた。

「おー痛い痛い。ったく、殺す気かっての」

 そうです、その通りなんです。何を言っているんだ俺は。剣で斬りかかってくるんだ、殺意があって当たり前……だよね? あってる、よね。不安だ。


「こっちじゃマシンドールのことを機械人形だとか言うみたいだけど、俺はれっきとした人間だよ。こうして血も出るし、痛みだって――あれ? それは機巧人形も一緒か。うーん、見かけだけで証明するのって案外難しいものなんだな。生体反応の大半は機能として組み込まれているし、プログラムされた感情表現だって日々進化を遂げている。ま、あの子たちもちゃんと人ってことか。人間ではないが人ではある……ふふふ、なんという哲学的な言葉だろうか」

 機巧人形は人間という種族には永遠になれはしない。しかし、人であるという条件は満たしている。およそ心と呼べる物を持ち、考え、己の意志によって実行する。若干の制限はかかっているけど、致し方ないことでもある。でもさ、ここまでいったら人間との違いなんて体を構成している物質が生ものか金属なのかってだけなんだよ。明確な差があるわけじゃない。だったら、同じ人でいいじゃないか。

 そうだ。俺の住んでいる国では少なくともこういう見解なのだ。機巧人形たちにも人間同様の権利が与えられ、いくつか条件はあるけど、結婚して所帯を持つことだって許されている。ちなみに条件の一つが人工知能の習熟度なのだが――詳細については俺も知らない。外部に漏れてしまうと項目に合わせてチューニングするという事態が起きるため機密として扱われているらしい。


「ただまぁ、アレは機械人形だとは思う。中に通っているのはオイルだし、感情みたいなのも窺えないしな。人形ですらないか……頭は付いているし二足歩行ではあるけど、人だなんて間違っても言えない容姿だからね。やっぱり機巧兵、マシンソルジャーで妥当かな。君は何をもって俺のことを機械人形だなんて表現したんだい、王様?」

 土に塗れ、涙で顔がグチャグチャの王は射殺さんばかりの視線を響真に向ける。あまりに無様、しかし対抗する術を持たない自分にはこうして睨むことしかできない。

 王は口内に入り込んだ泥を吐き出しながら、言葉を紡ぐ。

「人であって人でない物は皆そう呼ばれる。あやつら、タングステンが間諜として我らの国によこしたのも機械人形であった。三体ほどだったか? 全て解体し、逆に情報を得てやったのが記憶に新しいな。これほど人間に近しい存在を創れる技術力があるのだ。我らとて本気になるほかあるまいて。だからこそ、此度の戦では技術の粋を集めて創らせた機巧兵どもを大量に投入したのだ! 劣ってなどいまい? 戦いとは強さこそ正義。人間などという弱き者を模倣するより、洗練された機械の軍隊を用意した方がよほど効率的であろう」

「だよなー。普通に考えたらそうなるよね。ただ、人間が弱いなんて――誰が決めたんだ?」

「非力な者に何ができるというのだ! あの無能なタングステン王に、何が……」

 ん? なんで相手国の王がここで出てくるんだ。へいお母さん、理由を聞かせてくれないか。


 俺はそばに控えていた王様の母であり家臣でもある女性に事情を訊くことにした。


「我が国は元々一つの、ええ、こちら側も含めてタングステンという国だったのです」

「じゃあ、ギリアムはもしかして」

「? あの子を知っているのですか。……はい、私の子です。そこにいるウォルフの兄にあたり、本来であればタングステンを背負うべき人間でした。彼の幼少期に内乱が起こり、私はこちらの国に連れ去られ――ウォルフを身篭ったのです」

 つまりはあれか。ギリアムとウォルフは父親が違うってことだよね? うわー、重い話になりそうだ。

「そういや、こっちの国はなんていう名前になっているんだ」

 肝心なことを知らないで戦いに参加していたんだなぁと今さらながら思い至る。ま、まぁ忙しかったし、ね? しょうがないよ、うん。

「ウォルフラムが、国の名称です。先代の王……内乱軍の長は私との間に出来た子に国の名前を付けて愛したのです。そして、彼に国を継がせ――現在に至ります」

 お、おう。まさしく王様に相応しい名前だことで。

 だが、ウォルフはまだ幼い。もしかすると俺よりも年下かもしれない容姿をしている。彼に国を任せるのは時期尚早なのでは。

「貴方の考えも間違いではありません。ウォルフはまだ若く、このウォルフラムを背負うには経験が浅すぎました」

 俺の視線に気付きつつ、女性はなおも話を続ける。

「一度は沈静化しかけた内乱の燻りを彼は再燃させてしまったのです。先代の王より、全ての元凶はタングステン側にあると聞かされて育ったのもあるでしょう。王位を引き継ぐなり、機巧兵なる物を創り出したのです」

「待て。この国は元々一つだって話だったよな? だとしたら、」

 あれだけの軍隊を、鉱石資源を掘り出せるほどの土地がウォルフラムにはあったことになる。

 それはつまり。

「はい。ウォルフラム国は食糧難に陥っています。機巧兵を創り出すための金属を採掘するのは可能でしたが、植物が育つには過酷な環境だったのです。また、逆もしかり。現在のタングステン国は食べ物には困っていないにしても、製鉄産業が風前の灯だと聞きます。だからこそ、攻め入るべきは今だと考えたのでしょう。向こうには機巧兵のような物を創り出す技術も資源もありはしないのですから」

 結局のところ、内乱を起こしてしまったのが原因らしい。

 タングステンは本来、食料も金属資源も豊富な一つの国であったのだ。争いによって二分されなければ世界に名を連ねる列強国になっていたに違いない。


 これは、どうするのが最善なのだろうか。


「あんたはこの戦争をどう思っている。母としてではなく、一国民としての意見を聞きたい」

 そりゃウォルフラムが勝ってタングステンを吸収するのが手っ取り早いのは理解している。技術的に勝っている方が上なら誰も文句はないと思うし。でも。ウォルフが国を統治することに俺は反対だ。彼はどこか危ういモノを抱えている気がする。なんとなくだけどね。


 俺の質問に女性は空を見上げ、こう答えた。


「我が国が滅べばいい」


 心からの声だった。

 きっと彼女自身わかっていたのだ。元々同じ国なのに、争う必要はないのだと。


「これから大変かもよ?」

「承知の上です。内乱によって家族と引き離されてしまった者も多数いるのです……彼らが命を差し出せと言うのなら、私が犠牲になりましょう。もっと早く逃げ出せばよかった。そうすれば」

 兵士が必死になっていたのはウォルフラム側に愛しい者がいるからなのかもな。死んでしまっては逢えなくなる。戦いに明け暮れていると、中々その事実に気付けなくなるのだ。何のために命を懸けるかは、よく考えた方がいい。


 彼女の願いは、聞き届けよう。

 戦争を終わらせるため、俺はちょっとだけ手を貸すにすぎない。


「まずは――ウォルフ君に人間の強さを見せ付けなきゃね」


 空に、青い星が瞬いていた。


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