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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
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86 守りたいもの

 突然なんだ!? というか、後ろにこんなに人がいたの気付かなかった!


 あ、そういや騎士って男ばかりかと思ってたけど女の人もいるんだね。すんすん……ちょっと汗くさいけど、これはこれで。


「ねぇ、きょーま。きょーま、きょーまってば」

「ごめんなさい、すみません、申し訳ありませんでした」

 急に目を細めて頬を抓るのやめてくれりゅ、あいたたたーーー!?


「なに、やっているんだか。アリア、元気にしていたようだな」


 俺がアリアに泣かされていると、ステラさんが目を覚ます。まぁ、傷自体は完治しているわけで。意識もあったのだから当然か。血が不足しているのは変わらずなので青白い顔をしているけれどね。増血剤打っとく? たくさんあるよ、えいっ。


「ふぎゃ! 痛い……私は注射の類が嫌いなんだよ。勘弁してくれ」

「いやいや、麻酔、まだ効いてますよね?」

「…………ほら、私って麻酔の効き難い体質だから?」

 おっと、そういや胴体にしか麻酔してねぇや。腕に刺したらそりゃ痛いわな。てへっ、ステラさんのせいにしちゃった。


「ママ、生きていてくれてよかった」

 ガシッとステラにアリアは抱きつく。感動の再会ってやつだ。若干ステラさんが苦しそうにしているけど、我慢してください。代わってくれてもいいんですよ?

「うんうん、心配をかけたようですまない…………ん? ママってのはなんだ。私はたしかにお前を創ったけど、マスターと呼べっていつも――」

「マスターは、きょーま。私のご主人様は、あの人だよ」

 指差すなよ。あと、この状況はなんなのだろうか。

 皆、どうして俺たちを見守るように佇んでいるのやら。


「聞きたいことは山ほどあるが、先に礼を言わせてもらう。ありがとう、助かった」

 ステラさんは立ち上がり、俺の手を取り握ってくる。イグニスは既にポケットの中へと収納済みだ。

「いえ、俺は」

 続きを口にしようとした時、アリアに服を引かれて振り向く。

「なんだよアリア、俺だってステラさんに話したいことがあるんだぞ」

「違う。そうじゃなくて、後ろ」

 後ろ? って、ああ。さっきから騎士たちが片膝をついているが、その理由を訊けってことか。

「あんたら、なにしてんの? 王様ならあっちに転がっているけど」

 むしろ何故誰も起こしに行かないのかね。あれでも国のトップなんじゃないのかよ。


「もはやアレは王ではありませぬ。我が主君よ」


 薄いシャツとズボンのみになっているギリアムが俺の顔を見上げながら言った。

 ごめん、鎧はあとで直すから冗談はなしにしてくれないか。


「あの神秘の青き炎……貴殿は噂に聞く魔法使いとお見受けしました。過去に滅んだと思われていましたが、よもや我が前に現れるとは。光栄にございます」

「え。魔法、使い? 誰が」

「貴方様のことです。青き炎は死者をも蘇らすと昔から言い伝えがありますゆえ。間近で見ましたから疑いようがありません。愚かなる王、そこに伏している我が父には皆愛想が尽きていました……政治能力には長けていたおかげで国民からは支持を得ていましたが、その実、裏では我ら騎士たる軍がどれだけ血を流してきたことか。今回の件もブリジット殿を機巧人形の製作に協力してもらうために連れて来たはずが、自国のみに力を貸せと迫り、拒否されたためにあのようなことを! 許してくれとは言いませぬ。父は当然ながら、息子である私にも責任の一端はあります。どうか、我が命で怒りを静めてはくれませぬか」

 うん。なんか話がわけわからん方向に進んでいるな!

「えっと、俺は怒ってないよ? そりゃ王様がした行為は許されざる事だし、ステラさんがどうしてもって言うなら責任は取らせるけどさ」

「おい、私に話を振るな。なんだよ、決断は人任せってか?」

「いやいや、あんたが被害者だろうが。たしかにステラさんは俺の恩人で、大切な人の家族で――うん。俺に判断をさせない方がいい。国が滅ぶぞ」

 ステラ・ブリジットを俺の大切な者カテゴリに入れるとしよう。するとどうだ。怒りで目の前が真っ赤に染まってしまうじゃないか。あんなことをされて、黙っていろとでも言うのか。

「ふむ、お前一人に国を滅ぼす程の力があるとも思えんが……まぁそれもいいのではないか。どのみち時間の問題だからな」

「どういうことですか、ステラさん」

「なに、簡単なことだ。現在敵対している隣国との戦争が始まっているからだ。アリアがいて、この場に現れたってことはだいたいの事情を知っているのだろう? この騎士どもを見ろ。私にも詳しい原理は不明だが、お前が使った科学を魔法などと口にする連中だ。察してやれ」

 なるほど。ステラさんにはちゃんとイグニスによる治療が科学の範疇だとは思えるわけだ。それもそうか。俺の住む国には光を当てるだけで傷が一瞬にして治る機械を備えた施設もあるくらいだし、そっちのがよっぽど魔法っぽいよなぁ。厳密には機械仕掛けの心臓からヒントを得た大型の人体模倣装置らしいけれどね。患者の負担を考えたらPET製の物に置き換えた方が簡単だし確実だが、機械を毛嫌いする層も一定数いるのだ。結果的に機械に頼っていても体に異物が残るかの違いはあるしさ。


「ギリアムさん……でしたっけ。あんたに一つ質問がある」

 ステラさんの話を聞いて俯いていた青年に声をかける。彼もまた理解しているのだ。自国の未来が明るいものではないと。

「ギリアムでかまいませぬ。偉大なる王よ」

「だったら俺のことも響真でいい。畏まる必要もない。聞きたいことは、あれだ」

 自分には帰るべき場所がある。ここで人々を導くのは、俺の仕事ではない。


「守りたいものはあるか」


 正直なところ関わるのは間違いなのだ。

 この国が滅んだところで俺は痛くも痒くもないし、寝て起きた頃には忘れているだろうさ。下手したらいつかは自国の敵になるかもしれない、遠く離れていたとしてもだ。


「私は……国民を、友たちを、家族を守りたいです。こうなってしまった以上、ブリジット殿を妻に迎えることはかないませぬが、せめて見ていてほしい。無様な父の代わりに、」

「うん、だったらあんたが今から王様だ! はい決まり、言い訳は聞きませーん」

「えっ、は? あの」

「国を思っているなら、俺より適任だろうが。あと、力を貸せって言うのなら手伝いくらいはしてやるよ。ステラさんを連れ帰るのが目的だったけど、ついでだついで! いいよな、アリア」

「ん? いいけど。きょーまが、土下座して頼むなら」

「マジか……しかたない」

 まず両膝をついてっと。

「ちょ、なにをしているのですか響真様!? あなたがそこまでする意味がわかりません! これは私たちタングステン側の問題で」

「よしよし。きょーま、その情けない姿に免じて、お願いを聞き入れてあげる」

「ありがとう、アリア。さて、ギリアム? 俺は頭を地につけた……もう、王になる資格はないよ」

 なんかの物語に書いてあったのだ。王とは頭を垂れるものではないってさ。

「貴方はどこまで――――ええい、子供にここまでされて覚悟を決めないわけにはいきませんね! 皆の者、聞くがいい!!」

 ギリアムは未だ膝をついたままであった騎士たちに告げる。

 うーむ、その姿じゃ格好つかないよな。

「落ちているやつを拾って……っと。バリアブル!」

「こ、これは」

 前のやつ、色はいいけどデザインが古くさかったからね。なので形を変えちゃいました。うん、似合う似合う。これぞまさしく鎧騎士って感じだ。にしても、ルナタイトって……今はいいか。続きをどうぞ。


 頷き、あらためて向き直る。ギリアムは声を高らかに、宣言をした。


「父に代わり、息子である私が今よりタングステンを治める王となるッ!! 異論のあるやつは前に出ろ、話を聞く!」

 騎士剣を引き抜き、掲げる。これも無骨すぎたので金細工をあしらっておきました。元々がルナタイトを切り出して刃を付けただけの代物だったので、もしかするとこの国は金属加工の技術自体が低いのかもしれないな。素材がいいだけに勿体ない。


「隊長が王様になるってんなら俺は文句ねぇぜ。お前はどうよ」

「問題ない。ギリアムさんは強いから、僕は従うまでだ」

「ふはは! 誰も文句はないさね。そこの坊やがいくら凄かろうとも、私たちを率いてきたのは他でもない、ギリアム・メイザースなんだかんね。あんたが王になるってんなら、ついていくに決まってる」

 騎士たちはギリアムが王になることに対して賛成のようだ。しかし、坊やって……いやまあ、お姉さんから見たらそうなのかもだけど。


 ここで俺は元タングステン王を、アリアに顎を砕かれ失神していた老人を起こすことにした。壊れた骨を一気に治すという痛みの伴う方法でね。

 泡を吹いて寝たフリなんかしないでくださいよ。ほらほら、起きろよ。お前の最後の仕事だぜ。


「ぎ、ギリアムよ」

 騎士たちが一斉に前王へと視線を突き刺す。剣でないだけありがたいと思えってやつだ。

「我は間違ってなど――ぎぃ、がッ、ぐえぇ!?」

「違うだろ? まずはごめんなさいだ。はい、復唱!」

「ご、ごべんなざいっ! ずみまぜんでじた!!」

 寝言を口にするかと思われた前王であったが、ステラさんが殴る蹴るの……うん、あとは任せよう。改心するまで地獄は続く。

「乙女の! 体を! よくもぶち抜いてくれたもんだなぁ!!」

「ぎゃッ!? ぐみゅぅうう!!」

 せっかく治したのに、あまり意味はなかったみたいだ。どんどん人に見せられない顔に変形していく。

「あっはっは! いい気味だぜっ、お…………はれ?」

 鬼のような形相で前王を足蹴にしていたステラであったが、フラリと体が傾き倒れそうになる。

「無理しない方がいいですよ。傷は完璧に治しましたけれど、血液が足りていませんからね。しばらく寝ていてください」

『私の背中に乗せておこうか? なんならそのまま帰るけど』

「任せる。ここにいてもしょうがないし、ベルちゃんも心配しているだろうからな」

 ギリアムが王位を継承するにしても前王が生きていた方が都合がいいと思うので、ステラさんとは引き離しておくのが賢明だろう。憂さ晴らしをしたいのなら全てが片付いて元気になってからにしてくれ。


 ましろはステラを背に乗せ、落ちないように尻尾で巻きつけると王城を後にした。

 彼女なら無事に送り届けてくれるはずだ。こいつほど頼れるペットはいないぜ、ほんとに。


「お見苦しいところを重ね重ね申し訳ありません」

「いいよ、ギリアムが悪いわけじゃない。それで、俺はこの後どうしたらいいのかな。すぐ行く?」

 ステラさんの口ぶりからして、今も戦争は続いているようだ。つまり、ここにいる騎士とは他に戦場で敵とぶつかり合っている兵士が存在しているはず。助けるのなら早い方が救える命も増えるってもんだ。

「……本当によろしいのでしょうか。力をお借りしても」

「うん。アリアの許可も出ているから大丈夫だよ」

「ははは、ですね。アリアちゃんは機巧人形ですから、戦うのは彼女の方でしたか」

「ああそうか、ステラさんの所に出入りしていた鎧の人ってのはあんただったのか! ましろには名前までは聞いてなかったからなぁ。でも、それを知っているのなら安心して待っていられるだろ」

「ぐっ、気付いていたのですか。お察しの通り、我ら騎士は街の守護をしなければなりません。戦場とはなにも一つとは限りませんからね。死地に赴いている彼らの帰るべき家を護るのも騎士の仕事です」

「役割分担ってやつだな。ま、ルールの明確じゃない戦いだったら――本拠地から落とすのが定石になるよね」

 場所、時間、人数、勝敗の条件。全て決めてから行うのが機巧人形同士を使った近代の戦争であり、俺のよく知る世界になる。あとから文句を言わせないように正式な書面を交わすのが通例だな。

 しかしながら、現在タングステンで起きているのは。

「敵国の何もかもを破壊して、人を残らず消し去るまで終わらない戦。勝って得られるのは広大な土地と僅かばかりな資源のみ、か。いったい何が欲しくて戦うのやら」

 仮に相手が降伏しなければ田畑を焼き、水を濁らせ、空気をも穢し、人が住めない状態にして終わらすのだ。戦略上、奪い返されたとしても再利用させないためらしいが……。

「とにかくギリアムたち騎士は街を離れられないってことだな。オーケー、俺とアリアで行ってくるよ」

「え、響真様も行くのですか?」

「当然だろ。女の子一人で行かせるわけないじゃんか」

 響真の言葉にギリアムは瞠目する。彼はアリアが機巧人形であると、兵器であると理解した上で彼女のことを一人の女性として扱っているのだ。見た目が人間と大差なかろうとも、中は金属で構成された人あらざるモノだというのに。

「ギリアム、きょーまは、そういう人。だから私は、一緒にいる」

「……かないませんね、彼には」

 力ではなく、器そのものが違うのだ。奏響真とギリアムの間には目に見えない壁が存在していた。


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