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36 先進技術

 何を言っているのか、沙耶は。また私を騙そうとでもいうのだろうか。この犬がPET? どう見てもそうは思えない。毛並みもそうだが、瞳の動きなどは生物のそれだ。機械の動きによりここまで模倣するのは無理がある。それに動物型のPETなんて聞いたことが……いや、機械寄りの物ならビーストという事例を知ってはいるが、それとはまた別に考えた方がいいだろう。しかし――――

「あの、そんなに難しく考えなくても大丈夫ですよ?」

 と、また思考の海に落ちていたらしい。本当に性能不足を痛感するな、考え事をしていると他の機能が上手く動かないとは。シエルに頼めばもう少しマシな調整をしてくれるかも。ママは私のこの体を戦闘に特化させてたみたいだし、パワーを落とせば燃費の悪さも多少は解消すると思う。そうすれば思考と動作の同調も合うはずだ。その場合は響真を助けるという使命を全うできない可能性が出てくるのが悩ましいけど……。

「アリアちゃんはこの国に来てから日が浅いと思って先に言ったんだけど、逆に混乱させちゃったみたいだね。ごめん。えっとね、他国では動物型のPETはまだまだ開発途上なんだけど、この国では既に一般的に普及してるんだよタマさんみたいなペットは」

 なんと、そうだったのか。もしかしたらジローとタローもそうだったのかもしれない。彼らは私に近寄ってきた唯一の猫だったし。どうにも私からは特殊な電磁波が出ているらしく、ここに来るまでの森の中ですら動物に出会わなかったくらいだ。人間以外の生物に嫌われるという悲しい体質なのです。ぐすん。

「ん、タマは同胞。理解した」

 それは良いのだが、結局のところ何故犬なのに猫の鳴き声なのかは説明されていない。

「同胞って……人間型とは仕様が全然違うんだけど。まあ、それはこの際置いておくとして、この動物型を普及させるキッカケになったのがタマさんなの。出会いは現在(いま)から三年ほど前になるかな――」


 それはある雨の日の出来事だった。


「マスターは今日もあの女の所に出かけたのですか」

 感情を感じさせない顔で沙耶が不満を愚痴る。この頃はまだ現在のように人間らしい動作をしたり出来なかったのだ。妹という役割も与えられてはいたものの、何故そんなことを演じなければいけないのか疑問が尽きないといった具合でマスターに反感すら持ち合わせていた。今思えばその不満の感情こそ人間に近しい思考と言える物なのであるが、沙耶がそれを知るのはまだまだ先のことだ。

「響真様はお忙しい方ですから、仕方ないでしょう。それに、あの方がいなければ命を失っていた可能性すらあるんですよ? 感謝こそすれ、憎まれ口を叩くのは控えるべきかと」

 沙耶の物言いを母が窘める。燈緋華との一件は二人も知っていた、というより陰ながら見守っていたのだ。人工知能の発達が未熟だったために、自らの主人が死のうとしているなんて思いもよらず、気付いた時には全てが解決していたといった具合ではあるが。それでも、燈緋華という人物には感謝しかないだろう。自分たちが至らなかったがゆえに起きてしまった事でもあるのだし、それで主人との仲が深まろうとも文句は言えない。

「はい、それは理解しております。ですが……おや? なんでしょうか、何か物音が聴こえます」

 わかっていても、それとこれとは別なんだよ。そう母に反論しようとしていると、何やら玄関の方からガサゴソと物を置く音がした後に足音が走り去っていくような音がした。

「勧誘か何かでしょう、放っておきなさい。不埒者だとしても構うことはありません」

 母は慌てずにそう語る。もし仮に泥棒が入って来ようとしても、セキュリティの強固な我が家に侵入するのは至難の業だ。呼び出しのベルが鳴らなかったところをみると、後者の方だと思われるので尚更だ。

「……一応確認してまいります」

「そう。ならお願いしますね」

 行くというのなら止める理由もない。心配性なのは沙耶の性格なのだから、口出しする必要はないだろう。個性というのは大事だ。


 沙耶が出て行ってから五分程度だろうか。

 なかなか戻って来ないことを疑問に思い、様子を見に行こうと席を立とうとした瞬間だった。


「にゃう!! フシャー!!」


 足元で何か奇妙な鳴き声がした。


「これはいったい……?」

「すみません、油断しました。すぐに排除致します」

 と、鳴き声を発する物体を手に持って眺めていると、沙耶が小走りで慌てた様子でやってきた。

「ふむ……」

 ジリジリと近付く沙耶を横目に、手の中の小さな物を調べる。これは――猫と呼ばれる動物ではないだろうか? 先ほど沙耶が油断したと言っていたので、おそらく外に置かれたこの子が扉を開けた隙に室内に入り込んでしまったのだな。となると、捨て猫か。物音の正体はこの子が入っていたと思われる箱と飼い主の物だろう。

「さあ、それをこちらに渡して下さい」

 手が伸びてくる。かすかに震えているようだが、もしや沙耶は動物が苦手なのか? こんな少し力を込めるだけで消えてしまうような命を持った小さき者を恐れるとは……いや、たんにこの猫が血塗れなのが原因だろう。大怪我をしているのか、呼吸が浅くなっているのがわかる。

「………………」

 このまま放っておけば確実に死に至る。助からない、助かるはずもない。だが、それは何もしなければの話だ。

「どうしました。早く、こちらに!」

 排除とは――消すということだ。沙耶はこの子を殺そうとしている。渡すことは出来ない。責任を負いたくないのはわかるが、関わってしまった以上どうにかしてあげるべきだ。

「沙耶、響真様に連絡を。私は今から燈様の研究室に向かいます」

 ここでは処置が出来そうにない。しかし、あの施設ならば可能だ。それもタイミングよく響真様と燈様の二人が揃っている。間に合いさえすれば、助けられる!

「……それは規定違反では?」

 だというのに、沙耶は乗り気ではない。私を咎めるように冷たい視線を向けてきた。

「理解しております。主人に迷惑をかけるのはマスター契約で結ばれている私たち機巧人形にとって重大な規定違反だとは。ですが、ここで諦めてしまうのは私には出来ません。この件によって私が廃棄処分されるとしても後悔しないと断言します」

 マスターの役に立つためだけに製造された私たち機巧人形はそれに逆らう行為を禁止されていた。なおかつ本日の命令は留守番である。外出するだけでも駄目なのに、あまつさえ迷惑事を持ち込もうとしているのだ。命令に背きそんな事をすれば最悪規定違反だと言われ廃棄処分されても文句は言えないだろう。それでもだ。何かが私の中で囁いている。ここで諦めてしまうのか、と。答えは否だ、可能性があるなら助ける。きっと響真様だって、そうすると思うから。

「はぁ。そこまで言うならいいです。マスターには連絡しておきますので、お急ぎを」

「感謝致します。迷惑をかけてすまない、沙耶」

 実のところ、責任を負うのは沙耶も同じなのだ。共に契約している者の行為を見逃すとなれば、相応の報いを受けるのは道理である。

「お母さんのワガママを聞くのも娘の務めだよ」

 それは逆なのではと思いもするが、言わないのが親心というものだ。


 手早く支度を済ませると猫を入れたリュックを背負い家から飛び出す。外は雨が降っているが傘を差していては移動の邪魔なため、リュックの上から覆うようにレインコートを着込んでいた。


「研究室のある医療施設までは……全力を出して五分といったところでしょうか」

 雨で速度を出し切れないとしても、それくらいだと簡単に計算する。ちなみに徒歩でのんびり行くと一時間程度かかる距離はあるのだ。それを思えばよっぽど速い。より安全に行くなら公共交通機関のバスを利用したいところだが、あいにくと目的地方面には通っていない。

「……急ぎましょう」

 限界までリミッターを解除して踏み出す。ドンッという音と共に、母の姿は遥か先へと消えていった。


「――うん、それじゃよろしくお願いします。と、あれ? そういえば、お母さんって方向音痴だったような……まずい、追わないと!!」

 マスターである響真への連絡を終えた端末を手に、忘れていた事実に気付いてしまう沙耶。機械なのに方向音痴なのは致命的だよなぁと考えながらも走るのであった。




「先ほどはご迷惑をおかけしました。沙耶がいなければ間に合わなかったかもしれません、恩に着ます」

 案の定、母は道に迷っていた。というより、ほぼ直線で行ける場所を何故か右に曲がるという可笑しな行為をしていたのである。追いかけて正解だった。

「気にしなくていいよ。忘れていた私も悪いから……それで、治りそうですか。マスター」

 到着と同時に待ち構えていた響真の手へと猫は渡されていた。あとは運が良いことを祈るのみである。


 だが、響真の表情は浮かない。とても申し訳なさそうに――


「猫って聞いてたけど、こいつ……犬だな」


 そんなことを言ってきた。


「………………はい?」

 思わず聞き返してしまう。何を言っているのだろうか、我が主は。ああそうか、彼は専門家ではないから見間違えてしまったのだな。うん、そうだ。そうに違いない。だって、ニャーと鳴く犬なんていないんだし。

「にゃう。ふにゃー」

「む、鳴き声は猫なのか。あれかな、生まれてからすぐに親犬と引き離されて猫に育てられたとかなんじゃないか?」

「そんなことってあるんですか師匠? 聞いたことありませんけど」

「いや、私も詳しくは知らないんだが、昔読んだ資料にそんな実験結果が記載されていた記憶があるぞ。なんでも、鳴き声もそうだが、性格や生き方そのものも育ての親に似てしまうとかなんとか……人間だって生まれた国の外で育てば、その国の言語や文化を学習して育つだろ? それと同じだと私は思うぞ。この子がそうとは限らんが、可能性は高いんじゃないかな」

 と。赤髪で白衣を着た女が語ると、響真は目を輝かせながら

「さすが師匠! 俺の知らないことを何でも知っていますね!! 尊敬します!!」

 なんて言ってのける。おのれ、我が主を誑かすとは何たる狼藉か。

「何でもは知らないよ? とにかく、この猫モドキは生物学上は犬だと断言は出来るけどね。見た目も少し猫寄りだから彼女たちが間違うのも無理はないだろうさ」

 くっ。間違ったのは否定しようもない事実だ。それは受け入れよう。しかし、結局のところ――助かるのだろうか、この猫……犬は。

「沙耶には先に言ってあったと思うけど、この状態から完璧に治すのは無理だな。実際に見るまでは何とも言えないと考えてたけど、これはさすがに」

「ああ、たしかに。腰から下が機能していないね。何処かで事故に遭ったけど、治療が出来ないと踏んで棄てて行ったか……まあ、これじゃあ仕方ないな」

 不自然さには気付いていた。手に持った時に後ろ脚が動く素振りが全くなかった事も。だけど、それでも我が主なら、響真様なら助けられるだろうと思ってここまで来たのに。無駄足だったというのか。


「治すのは無理だけど――師匠、アレは使えませんか?」

「なるほど。いけるかもしれんな。だが、失敗する確立が高いぞ? それでも良いのか」

「この猫モドキが俺の所に来たのも何かの運命でしょう。それに、どの道助からない命なら今在る可能性にかけてみるのも良いかと。師匠と俺なら大丈夫ですよ、きっと」


 絶望を告げられ俯いていると、響真様と赤髪の白衣の女、燈緋華がそんなやりとりを始め出す。


「アレというのは何のことでしょうか、マスター」

 言葉が出てこない母に代わり、沙耶が内容の説明を求める。

「うん? えっと、俺と師匠の共同開発の成果かな。起動実験はちょうどこれからするところだったんだけどね」

 そう言って、瀕死の小動物を作業台の上に置くと研究室の奥へと歩いて行ってしまう。

「上手くいく保証は何処にも無いが、響真くんがいれば大丈夫だろう。君たちはいったん外に出ていてくれないか? 作業の邪魔だ、これで体を拭いてそこで待っていろ」

 燈緋華はこちらに濡れた体を拭うタオルを投げつける。そうだ、私たちにこれ以上出来ることは無い。大人しく引き下がるしかないだろう。彼女に任せるというのが癪なので、響真様を信じることにする。


『あれ? 沙耶たちはどうしたんですか……あーそっか。それはしょうがないですね、心遣い感謝します。おーい! 終わったら呼ぶから、そこで少し休憩しててくれー!』


 潔く研究室を出て行くと、閉じられた扉の向こうからくぐもった響真様の声がしてきた。


「よろしく、お願いします……」

 返事はか細く、あちらには届くことはない。


 通路に置かれた椅子へと腰を落とす。

 ふと横を見ると、沙耶が顔を覗き込むように首を傾げていた。

「助かるでしょうか。あの小さき者は」

「大丈夫だよ、マスターが居るんだし。あと、私たちの処分は検討しておくとのことです。まったく、少しくらいワガママ言ったっていいんだぜ? とマスターは仰られていましたので、心配する必要はないかと思われます」

「だとしても、私は母親失格ですね。息子に迷惑をかけるなど」

「いえ、迷惑なんて思ってませんよマスターは。だって『さすがは俺の母さんだ、命を救いたいと思う気持ちは人として当然のことだ』とも言ってたし。ふふ、お兄ちゃんはやっぱり優しいね。私たちをちゃんと人間と同じように扱ってくれるなんてさ……マスターになってくれたのが彼で本当によかった」

「……そうね。息子は優しくて頼れる、素晴らしい人間だと私も思います」


 そんなふうに奏響真の人格を二人で褒め称えていると、一時間ほどして中から扉が開け放たれた。


「お待たせ。無事手術は終わったよ。二人とも中に入ってくれ」

 私たちを呼びに来たのは燈緋華だった。先ほどまで真っ白だった白衣は血に染まり赤く変色してしまっている。無事にとは言うが、こんなに出血して本当に平気なのだろうかあの子は。……ここで疑いを持っていても解決はしないか。中に入ればわかることだ。

「お、来たか。ほら、挨拶をしなさい――タマさん」

 研究室の中央にある作業台に近付くと、小さい動物が立ち上がる。そして。


「にゃーう!! ふみゅー」


 猫のように鳴き、体の調子を確かめるかの如く伸びをする。


 だが、その容姿は……犬だった。


「これは、いったい」

 どういうことなのだろう。そんな続く言葉が出てこない。手術をしていたのはわかるが、だとしてもだ。なんで運んできた時とこうも容姿が違うのだろうか。ありえないだろう、あの子に何をしたんだ!?

「マスター、ご説明を。母もそうですが、私も混乱しておりますので」

「え? ああそっか。うん、なんて言ったらいいんだろう」

「響真くん、君はほんとに考えなしに行動しているんだな……いい、私から説明させてもらう。このT‐AM/A型三号機は私と響真くんが先日から開発にあたっていた新機軸の動物タイプのPETだ。これまでも愛玩動物を模したPETは商店街に何体か卸しているが、それはデフォルメの中途半端な一見して機械とわかる見た目をしている。しかし、この子はより本物に近しい挙動と姿をした画期的なPETなのだよ。この誰からも愛されるであろうつぶらな瞳や、感情にリンクして動く尻尾など作るのに苦労したものだ。三号となる前の機体は生態模倣が上手くいかずに壊れてしまったが、今回は成功と言える出来をしている。その証拠に元々の体との融合も完璧だからな。拒絶反応が出たら助からないところだったが、この子は本当に運が良い。まさにこの機体となるべくして生まれた個体かと思ってしまったぞ! ふふ、これで私はさらに高みへと……なに、家族が引いているからそれくらいにしろだと? ……すまない。要約すると『PETを体に移植する』のではなく『体をPETに移植する』という通常とは逆の手順を踏んだわけだ。もちろんこれにはリスクもある。先ほど言ったように拒絶反応が起こればそれでアウトだし、融合させた事によって二度と分離が出来ないからな。まあ、生身より頑丈になっているわけだし、病気とかにも無縁だから気にする必要はないと思うけどね。ああ、タマさんっていうのは機体のシリアルナンバーをもじったのか。さすが響真くんだなぁ、親しみやすい良い名前だ」

 説明が長い。つまり、手術は成功したという認識で合っているのだろうか。

「あはは……とにかく、こいつは助かったってことだ。見た目が少し変わっちまったけど、これからも仲良くしてやってくれ」

「にゃーう」

 パタパタと元気よく尻尾を振るタマさんを響真様から手渡され、そっと感触を確かめるように抱きかかえる。

「ありがとうございます。大切に育て……え? 飼ってもよろしいのですか」

「何をいまさら。命を助けるってことは、最期まで責任を持って見届けるってことだろ? 今日からこいつ、タマさんは俺たちの家族の一員だ」

「――はいっ!」


 こうして、見た目は犬だけど中身が猫のタマさんが我が家にやって来たのだった。


 その後はしつけの問題などで色々苦労するかと思われたが、半分が機械でできた体なせいかそれほど手間もかからず現在では番犬として役立ってもらっている。室内で飼うことも検討したが、タマさんが外を好んだために犬小屋を新たに新設したのは言うまでもない。響真様が作った冷暖房完備で住み心地抜群の小屋には時々野良猫が居ついたりするが、それなりに仲良くやっているようだ。精神的には猫なので仲間が来てくれて嬉しいのだろう。のんびりと過ごすがいい。響真様もそれを望んでるのだから。


「……というのが、私たちとタマさんの馴れ初めです」

 沙耶が昔話を語っていると、いつの間にか母が現れて会話に加わってきていた。手にはプリンが乗った皿を二枚持っている。一つは私のらしい。

「ん、そろそろ、食べられそう。ありがとう」

 それを受け取り、沙耶の隣に座り直す。さらに隣には母が座り、三人が横並びに大中小といった具合に揃う。

「さっきの続きなんだけどね、タマさんが家に来てから半年くらいして後続機が完成したとかで大々的に動物型PETの技術が国内に公表されたの。私たちと同じように人工知能を積んだタイプとタマさんみたいに生体融合して延命するハイブリッドタイプの二種類がね。どっちもこの子が居たからこそ臨床データが取れて、その結果実現に至った技術みたい」

「そして、数年が経過した現在ではその技術を元に次々と開発が進んで、動物型PETの普及が進んだということです」

「そう」

 話を聞きながらプリンを一口食べる。何これ、美味し過ぎてデータの処理落ちしそうなんだけど!? うわー、うっわ! 手が止まらない!

「ふふ。アリアも、この味の虜」

「あはは。それじゃ今度お兄ちゃんに頼んで大量に買ってきてもらおっか。生鮮食品用の冷蔵庫なら保存も利くしねー」

 沙耶の提案にコクコクと頷く。いやもう、ブンブン勢いよくと表現した方が適切だろう。それくらい気に入ってしまった、食べ過ぎたらAIがおかしくなりそうな味だ。くっ、黄色い悪魔め。私を誑かすとは……ふにゃぁ、幸せ。

「お母さんと味覚が似ているみたいだね。って、大丈夫なの? ちょっと人には見せちゃいけない顔しているけど」

「しょうがない。この味を知ってしまったら、もう戻れない」

「にゃう」

「ああ、もう夕方ですね。思いのほか話し込んでしまったようです。そろそろ中に戻りましょうか、外は冷えますからね」

「そうですね。もう少ししたら息子も帰ってくるでしょう。元気になっていると良いのですが……アリア、入らないのですか?」

 恍惚の表情のまま食べきってしまった皿を眺めていたら、母が心配そうに声をかけてくる。

「ん、もうちょっと、タマと遊んでる」

 とは言うが、本音は知ってしまった黄色い悪魔の余韻に浸りたいだけである。シエルに頼んだら、もっとすごいの作れたりして。帰って来たら聞いてみよう。ふふふ、にゃははははは!!

「そうですか。風邪を……と、心配する必要はありませんね。何かあったら知らせて下さい、タマさん」

「にゃーう」

「とりあえず、ごはん炊いておく? ストックもそろそろ切れそうだし、炊き立ての方が美味しいよね~。え、今日はお母さんがやるの? ……わかった。横で見てるからチャレンジしてみて――」

 母が挙動不審な娘の監視を番犬に頼むと、沙耶と共に室内へと戻っていく。残されたアリアは内心高笑いを浮かべながら、タマとじゃれあうのであった。


 辺りが暗くなる頃、マスターである奏響真の気配を感じて玄関へと向かう。


「ん、おかえり、きょーま」



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