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17 メンテナンス

 帰りのバスの中、俺とシエルは終始無言だった。

 別にいやな気分ではない。ただ恥ずかしさがあったってだけで、今も隣の席にいるシエルとは手を繋いだままだし。さすがに車内でいなくなったりはしないだろうけど、念のためってやつだ。


「…………」

 降車ボタンを押す。

 次第に見慣れた風景が近づいてきた。


 家に程近いバス停に到着する。

 荷物を持って降り立った俺たちは家へと歩いていく。


「ふへへ……こういうのも良いですね」

 と、ついに耐え切れなくなったのかシエルかぽつりと呟いた。

「だな。今日は商店街の方に行ったけど、次はもう少し遠出するか?」

「んー……キョーマと一緒ならどこでも良いですよ? あ、美味しいご飯が食べられる場所とか行ってみたいですね。もちろんメロンソーダがある所で」

 ランチのパスタは気に入らなかったみたいだが、飲み物は良かったらしい。

「メシが美味い所かぁ……それだったら海沿いの方にあるな。すっげー高いけど」

「ええぇ。キョーマが言う値段の高さって想像しただけで怖いのですが」


 そんな他愛もない話をしていると、自宅の前に来てしまっていた。


「また行きましょうね」

 シエルがそう言って玄関の扉を開ける。


 家に入ると懐かしい匂いがしていた。


「…………まさか」

 冷や汗が流れる。

 このとても嗅ぎ慣れた匂い――その発生源に足早に向かう。


「あ、お兄ちゃん! ごめん、失敗したっ!!」


 キッチンが焦げていた。


「いやぁ、ほんとにごめんね~。ちょーっと火力を間違っちゃってさ~」

 手早く消火して沙耶の言い分を聞く。

「ちょっとでこんなに燃えないですよ!? ああ、もう! フライパンが真っ黒じゃないですか!」

「にゃははー。シエルさん、ごめんなさい」

「怪我はありませんか? 火傷(やけど)とかしてません?」

 シエルはそんな沙耶に怒りつつも心配をしていた。

「大丈夫です。それに私は機巧人形ですので多少の怪我くらいでは――」

「知ってます! でも。機械だからって、怪我したら痛いでしょう?」

 たしかにそうだ。機巧人形にだって痛覚はある。そうでなければ体の耐久値を超えた損傷を負ったあげく自壊してしまうからな。

「…………はい」

「わかればよろしい。シエルもあんまり怒らないでやってくれ。こういうことするのも俺の責任ってやつだから」

 話しに割り込んで仲裁する。まあ、元はと言えば俺の沙耶に対する人工知能の教育不足があげられるしな。というか、俺もボヤ騒ぎ起こした事あるので怒れません。

「……キョーマがそう言うなら、私が口を出せる話ではありませんが……わかりました。後は任せます」

 そう言って、シエルは買い物バッグを手に部屋の隅に避難していた母さんのもとへ行った。購入した生鮮食品を冷蔵庫に詰め直す作業をしに。


「マスター、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「まったくだ。……別に怒ってはないけどな。慣れない料理を作ろうとした理由もなんとなく察しがつくし」

 シエルが来るまでは本当に簡単な調理で出来る物しか作っていなかった。だからこんな――レシピが必要な物なんて作れるわけがない。

 コンロの近くには燃え残ったメモ書きがあった。ようはシエルが料理上手なのを知って、家での役割を奪われるかもしれないと思ったのだろう。

「次は失敗しません。ですので……棄てないで下さい」

 わかってるから、そんなに泣きそうな目で俺の袖をつかまないでくれ。

「家族を棄てるわけないだろ。沙耶と母さんは俺が死ぬまで面倒を見るって最初に教えたはずだけどな?」

「しかし……」

「あと、口調がまた戻ってるぞ。俺のことはお兄ちゃんって呼んでくれ――そういう約束だろ」

 出会った時に決めた家族ごっこの呼び名。ごっこ遊びとはいえ、俺はそれに助けられてきた。大事にしていきたいのだ。

「すみません……いえ……ごめんね、お兄ちゃん」

「妹に迷惑をかけられるのも兄の仕事だ。今度から気をつければよしっ! さあ、夕飯作ってもらおう――シエル~、腹減ったー何か作ってー」

 俺は沙耶と話しながらもキッチンを元通りに使えるように清掃していた。そして、それが終わったのでシエルにご飯を作ってもらおうと声をかける。

「話しは済んだんですね? はい、それなら良いです……って、なんか以前より綺麗になってませんかここ!?」

 ちょっとやりすぎちゃった。




 夕飯を済ませた後、俺は自室でシエルに襲われていた。


「服を脱いで下さい」

 腹もいっぱいになったので少し休憩しようとベッドに横になっていたら、シエルがいきなり部屋に入ってくるなり開口一番こんなことを言ってきたのだ。

「ついに俺も大人の階段を……」

「あ、インナーは着ていても良いですよ。腕と脚が露出していればメンテ出来ますからね」

 ですよねー。わかってましたー。


「これで良いか? っと、ふひひ! 結構くすぐったいな、それ」

 上着とズボンを脱いで薄いシャツとパンツだけになった俺はシエルが持ってきた器具で挟まれていた。

 両腕と両脚に大きい洗濯バサミのような物体が取り付けられている。

「我慢して下さい。あまり動かれると手元が狂うので」

 そうはいってもなぁ……くすぐったさもあるが、可愛い女の子に抱きつかれるような格好は正直言ってきつい。シエルが動くたびに髪から香る匂いでどんどん俺の精神ゲージが削られていくんだが。すんげー良い匂いしてます、はい。沙耶とかは人工皮膚なせいか無臭だからなぁ……

 なんて馬鹿な考えをしている内に準備は整っていく。


「セット完了です。起動しますね」

 俺の体に取り付けられた器具から伸びた無数のケーブルはシエルの持つ七インチ程の小型のタブレット端末に繋がれている。

「ちょっと待って!? まだ心の準備が――」

「はい? あ、痛いとでも思ってたんですか? 大丈夫ですよ、もうキョーマは怖がりさんですね~」

 そんな笑わなくてもいいだろ。俺、初めてだったんだぜ?

「ふふ。キョーマの顔は表情がころころ変わって面白いです」

「そんなに顔に出てるか俺?」

「ええ、とっても。ふーむ、電力量に異常はありませんね」

 もう起動してるんすね。たしかに痛くなかったわー、緊張して損した。

 まあ、若干ピリピリしてるかもしれないけど。我慢できないほどじゃないかな。

「パワーバランスは…………うげっ」

「どうしたん、そんなカエルが踏み潰されたような声出して」

「女の子にその例えはどうなんですかね? ……いえ、あまりのピーキーなバランス設定に驚いてしまって」

 と、シエルがタブレット端末を俺の方に向けてくる。

「見て下さいここの所……」

 画面の表示されているグラフ。その数値を表す一本のラインを指差して続ける。

「基点である(ぜろ)から伸びた線が直角に曲がっています」

「それがどうしたんだ?」

「え。うーんと……わかりやすく言えば、現在のキョーマの力は最低か最高しかないということです?」

「なるほど。わからん」

「……通常ですと、このグラフのラインは弓なりの曲線を描くようになっていなければならない箇所なんです。段階的に力を込めていくと、その込められた力の分だけ段階的に義体が稼動する感じでしょうか。起動してすぐはどれだけ力を入れても上限が低いので、すぐにリミッターがかかるみたいなものです。えっと、一般的な人間の力に例えるなら……この辺りに向かって線が伸びていくのが理想ですかね」

 グラフの何も線が通っていない場所、0と100の中間辺り。大体半分の50だろう所を指差す。

「ここまで行ったら、あとは意識してリミッターを解除しない限りは横に真っ直ぐ進んで、力を使い終わったら逆の弧を描いて戻る。それが普通の設定です」

「つまり、本来なら50パーセントもあれば足りるってことか?」

「そうです。負担をかけないためにも半減して使うのは基本中の基本なのですが……仮にですが、曲線の頂点を50ではなく100で運用することも出来なくはありません。しかし、グラフはあくまで目安なので実際には誤差が生じるため、限度いっぱいに使うなら通り過ぎないように注意して使う必要があります。超えてしまったら、その時点でなんらかの不具合が出ることは確実ですし」

 ふむ。普通に暮らす上で必要な力を出しつつ、さらに安全な範囲で使用するための五割上限ということだな。これなら多少力を入れすぎたって上が高い分安心出来る。

「それなのに俺のは100パーセントが上限……しかも、途中を省いて0から一気に100まで上がってしまうと」

 なんだそりゃ。そんなぶっ飛んだ設定でよく無事だったな俺の体。下手したら上限を超えて手足が千切れ飛んでた可能性もあるんじゃないか? なんせ四肢の繋がっている部分である胴体は生身だしな。繋ぎ目からブチッと……考えたくもないな、そんなこと。

「はい。ですが、いままで破損していなかったことや、力を抑えるだけで何とかなっていたこと、それにも理由はありますよ」

「というと?」

「少し専門的な話になるのですが……機巧人形が金属で構成されているというのは理解出来ますか?」

「ああ、うん。わかるよ? なんでも電力を流す量によって硬度が変わる合成金属を人の筋肉に見立てて使い、その上から皮膚に限りなく近い素材の人工ラバーをかぶせてるんだよな。しかも、それが取り付けられているフレームである骨格金属にはその他全体の修復能力まである。コアにも修復機能があることから考えると、とても耐久性が高いといえる。だけど、骨格(フレーム)はその他は直せても自分は直せない。人間でいえば、切り傷までなら大丈夫で骨折はアウトって感じかな」

「予想以上に詳しいですね。なんでです?」

「え? 沙耶の体を触ってた時に疑問に思ったから調べてみただけだよ」

「沙耶さんの、体を……触る……?」

 おっと、そんな恐い顔をしないでくれよ。別にやましいことなんて……なくはないけど。

「さあ、話の続きをしようじゃないか! ……いや、ほら。最初の頃、体が思うように動かない時期に入浴介助とかしてもらったから……ちょっとだけ触れ合う機会があったんだよ」

「ふーん。まあ、いいですけど。家族と触れ合うのは大事ですからね?」

 据わった目で見られると縮み上がりそうである。色々と。

「……すみません。話が()れました――機巧人形が金属でできているのがわかっているなら話は早いです。実を言うとですね、機巧人形や義体に使われる腕や脚とキョーマのそれは別物なんですよ」


 え、どういうことだ?

 さらっと爆弾発言してきたよこの人。


「別物ってどういうことだ? 俺の腕と脚はPETでできてるんじゃないのか!?」

 思わず声が大きくなる。

 あたりまえだ。自分の体、その約半分が知らない物体で構成されていると聞かされればこんな反応をするだろうさ。

「いやいや、別物といってもPETはPETですよ? なんと言いますか……おにぎりに海苔を巻くか巻かないかみたいな」

 すまん、取り乱してしまった。しかし、なるほど。例えはあれだが、ようは『おにぎり』に海苔を巻いてようが巻いてなかろうが、どちらも『おにぎり』という名を持った物と言いたいのだろう。

 言い得て妙だと思う。おにぎりなら海苔以外にも中の()を変えるだけで、いくらでも味が変化する。それは多種多様に存在するペットと同じとも言えるのだ。

「言いたいことはなんとなくわかった――もしかしてだけど、素材……は元から違うって言ってたな……見た目も変わらないし……そうか! 設計が違うのか!!」

 これまでを思い返してみれば簡単なことだ。俺が移植を受けたのは五年ほど前……そして、PET製の義体は成長しない(・・・・・)

 普通は半年から一年おきに体の成長に合わせてサイズを変えたりの調整を医師にしてもらう。だが、俺の体についている物に関しては白い部屋を出て以降に調整した覚えはない。

 この数年で俺の身長はかなり伸びた。それはすなわち、体が大きくなっているということだ。もし、それで義体だけが小さいままだとしたら? 見た目にも違和感があるし、すぐ気付くだろう。それに短い手足は生活に支障をきたしていたはずだ。それがないということは――

 つまり、このPETでできた腕と脚は成長してる(・・・・・)といえるってことだ。


「おぉ、正解です。なんかキョーマって普段の言動のわりに頭の回転はものすごく速いですよね……もしかして、脳も移植しました?」

「するか!」

「ですよねぇ。お揃いかと思ったのですが」

「……反応に困るボケはやめてくれ」

「すみません。えぇっと、たしかにキョーマの言うとおり設計が違います。通常の機巧人形や義体の肢体は表に向かって『骨格、合成金属、人工皮膚』と順に構成されているのですが、キョーマのは『骨格、筋肉、皮膚』となってます」

「ん? 骨格はともかく、筋肉ってなんだ。それに人工皮膚じゃないのか?」

 その構成だと、人間の物と近いことになる。というか、完全に生身と一緒だな。

「筋肉といってもPETにより生成された物ですし、皮膚も同じです。しかし、金属ではありません。有機物……うん、血が流れる生きた細胞ですね。そんな物が何故使われているかですが、これはキョーマに使われた義体がもともとは一点物の特注の機巧人形だったことが理由です。その機巧人形は限りなく人間に近い存在を目指して造られた物だったので、基本設計がそもそも人体の構造と似通っていたんです」

「んで、その人間みたいなやつのパーツをもぎ取って俺に付けた……と?」

「? ええ」

 だからどうした、という顔だ。

 そりゃそうか。機巧人形は起動していなければ人型であっても生きているとはいえないからな。金属の塊に情も何もない。お相手は少し生っぽかったみたいだが。

「まあ、いいか。いまさらだしな、考えたって仕方ない……今は俺の一部なんだし」

「そうですよ。この有機的細胞を持つパーツだからこそ、キョーマが生きてこれたんですから。最初に訊いた時、体に違和感がないと言っていましたよね? 普通だったらありえないんです、そんなこと。いくらPET技術が優秀だといっても、もともとあった細胞とはどうしても馴染めない……体にとっては異物ですからね。それはキョーマにつけられた腕や脚でも同じことが言えるんですよ。細胞があったって本人のではないですからね」

 結局のところ、他人の体を移植しただけだからな。当たり前っちゃあ、当たり前だ。

「それでも、違和感を感じなかったのは――パワーを限りなく抑えてたからだと思います。ずっと自分の意思で力を調節していたので、いつしかそれが普通になってしまった……と、私は考えています」

「違和感に慣れ過ぎてしまった、みたいな?」

「それが近いでしょうね。義体で違和感を感じる原因というのが、操作の命令を脳から神経へ伝達する信号と、実際に義体のペット内で動作する稼働率の違いからきてますから。生身に近い分、キョーマのは違和感も強いはずだったんですよ? 覚えていませんか? ほら、術後すぐに激痛にみまわれたこと」

「憶えているさ……忘れられないだろ、あんなの」

 むしろ、忘れたい記憶だ。思い出すだけで気分が悪くなる。

「本来ならあれの十分の一くらいは痛みが現在でも残っているはずだったんです。まあ、無いならそれに越したことはありませんが。多分相性が良かったんでしょうね、義体の細胞と」

 人工物と相性が良いってのもよくわからん感覚だ。異物に対して拒否反応が少ない体質だっただけじゃないか?

「それで、細胞で構成されているからこそ自分の意思だけで力を抑えることが出来ていたのだと思います。その義体には擬似神経も通っているので、もう完全に一体化してるのかもしれませんねキョーマの体と」

 そこで話が戻るのか。

「あーつまり、自分の体なんだから力が有り余っててもどうにかなってたんだよ。と、言いたいわけだよな?」

「簡単に言えばそうです」

 うん。簡単に説明してくれるとありがたかったかな! 長かったわ、説明……いや、良いんだけどね? 俺に理解させようと考えてくれたんだろうし。


「そんで、調整は――」

「もう終わってます」

 最後まで言わせてくれよ。

 話ながらもシエルはタブレットを操作していたので、設定をいじってるんだなーとは思ってたが……完了していたのか。

「ですが、パワーの上限を下げることは出来ませんでした。どうにも変更不可な領域らしく、ポイントをずらすとエラーになってしまって」

 ほら、とシエルが画面を見せながら操作する。動かすとたしかにエラーになり、元の高さに戻ってしまった。

「ああ、でもちゃんと曲線にはしてくれたんだな」

「そうですね。上限が動かせないだけで中間はいくらでも設定出来たので綺麗な形にはなりました。これなら動作に支障は無いと思います。一応上限の方にもリミッターをかけておいたので、自分で限界を超えるようなことを強く意識しない限りは大丈夫かと」

 なるほど。今までみたいな極端な動作はしなくなったとみて良さそうだな。

「そっか。ありがとう、シエル」

 と、俺はシエルの頭を優しく撫でた(・・・・・・)

「ふへへ~……心地良さ倍増してますね、キョーマの手」

「うーん。すごいなコレ……めっちゃ滑らかに動くんだが。こんなに違うのか」

 頭を握り潰したりしたら恐いので、いままでは細心の注意を払って力の加減をしていた。それが今やこの通り。無造作に触りたい衝動だけに任せて指を動かせるとは思いもしなかった。

「前のも好きでしたが、これはこれで……んっ」

 なでなでなで。

 これでもかとシエルの頭を撫でる。いや、余計な力が入ってないせいか知らんが気持ち良いんだよね。感度が良くなったのか、シエルの少しクセのある髪質も手のひらで感じ取れる。

「ふにゃあ……きょーまぁ……それ以上はダメですぅ……」

 おっと、いけね。夢中になりすぎた。

 シエルに言われ撫でるのをやめる。

「…………」

 自分でダメと言ったのに、まだして欲しそうな目で見られても困る。


「さて、歩行も問題ないようですし――メンテナンス終了で良いです?」

 体に付けられていたケーブル類はもう外されている。

 立ち上がり部屋の中を歩いたり屈伸運動をしてみるが動作に問題はなかった。関節などの動きが滑らか過ぎて少し気持ち悪い……なるほど、これが本来感じるはずの違和感なのか。

「そうだな。むしろ快調過ぎて違和感があるけど……痛みとかはないし、大丈夫かな」

「あはは。痛みが無いなら心配ないですよ。何日かすれば違和感も消えるかと思います。今回いじったのはパワー関係の所だけですから、感覚の違いだけですよ」

「おっけー、シエルを信じるよ」

「あ、でも当分の間無理はしないで下さいね? 一応リミッターが付いてるとはいえ、越えようと思えば簡単に解除されるやつですから」

「ふむ。仮に上限より上の力を出そうとしたらどうなるん?」

「えーと……死にます」

 なるほど、冗談か。ははは、笑える。

「……え、マジで?」

 心の中で笑っていたら、シエルが真顔になった。

「はい。腕や脚がもげるだけならまだマシですが、力を出し過ぎれば確実に接続部より内側――胴体がついていけないですからね。あなたの心臓が特別製でも、コアの修復能力には限度がありますから」

 多少なら無理しても良いけど、下手したら治らなくなるのか。たしかに機巧人形もフレームである骨格が壊れると交換でしか修復出来ないしな。俺の場合は骨格の内容に人間の骨、しかもかなり重要な部分を含んでいるから壊れると取替え出来ない。つまり、壊れるイコール死亡ってこった。

「でも、首が取れても治るぞ? 内臓の損傷も治ったし」

 それは白き閃光と対峙した時に経験済みだ。頭が取れても治るんなら、そんなに心配することないと思うんだけど。

「では、頭が潰れたらどうなると思います?」

 あ、それは無理だ。

「なるほど……脳が壊れたら治せないわな。いや、仮に直ったとしても記憶とかまでは……どうなんだろう。それはもう俺じゃない気がする」

 脳を元通りに復元すれば同じ人間といえるのか。魂がどこに存在するか、という哲学的な考えまでしないと答えは出ないだろう。

「私にもわかりません。ですが、そうならないように気をつけてくださいと言いたいのです」

 起こった時の事を考えるのではなく、そもそも事が起こらないようにしろということだな。ははは、保証は出来ないなそれ。俺の不幸ゲージはあの時に振り切れたままだからな。


 その後もシエルにあれこれと諸注意を聞かされた。

 いいかげん眠いので勘弁してほしいところだぜ……と思っていたら

「シエルさん、夜も遅いのでそろそろ就寝なされては如何でしょう」

 という沙耶の一声によって今宵の密談はお開きとなった。

 いつの間に来たんだろうか……相変わらず気配を感じさせないな、この妹は。


「では、また明日。おやすみなさいキョーマ」

「おやすみ、お兄ちゃん」

「ん、おやすみシエル、沙耶」

 就寝の挨拶をすると二人は部屋を出て行った。


 さて、この後はどうするか。


 窓の外を見る。

 月が、金色に輝いていた。

今話にて説明的な話は終わりです。次から新章ですが二章よりは読みやすいかと思います。

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