幸せな家庭を手に入れる為に
散歩に出かけた。いつもの日課だ。どうせ家に居ても、ろくなコトはしない。それだったら、散歩でもしながら、小説のコトを考えた方がいい。
街中を歩いていると、あるコトに気づく。電気がついている家と、ついていない家とあるのだ。
午後8時過ぎ。この時間に家に居ない人たちは、一体、どこで何をしているのだろうか?家族で外に食事にでも出かけているのだろうか?幸せな人生なのだな。
でも、彼らには彼らなりに失ったモノというのがある。それは、一体、何だろう?それは、きっと“最高の小説を生み出す能力”
幸せな家庭を守る為に、一生懸命に働き、家事をやる。あるいは、家族サービスの為に時間を作ったり、親戚に会いに行ったり、結婚式やお葬式や法事にも出席し、墓参りに出かけ、自動車を運転し、子供の運動会や入学式や卒業式に参加し、家族で初詣に行き、クリスマスや誕生日を祝い、海やプールや遊園地や動物園に出かける。
それには、お金だってかかる。子供を保育園や学校に入れて、保険もかけて、服や学習机や自転車や本やおもちゃも買ってやらなければならない。もちろん、住宅費も食費もかかる。
そこに、小説を書く暇はあるだろうか?答はノーだ。暇など残されちゃいない。そんな時間があるならば、1秒でも多く家族と過ごし、1円でも多くお金を稼いでくる為に時間を使った方がいい。結果、小説など書けない。普通の小説すら。まして、最高の小説を生み出すなど、到底不可能だろう。
世の中、何にだって、リスクというモノが存在する。
幸せな家庭を手に入れる為に、人々は多くのモノを失って生きているのだ。
もちろん、それは僕も同じ。リスクは負っている。最高の作品をこの世界に残す為に、それ以外のほとんど全てを失ってしまった。それでも、まだ甘い。切り捨てきれていないモノがある。無駄な時間も多い。
もっと!もっとだ!もっともっと、いろんなものを切り捨てないと!そうしなければ、史上最高の小説家になどなれはしない。




