前編
王は、待っていた。
たった 1人 王座の上で………。
周りには、自分を守ってくれるはずの 臣下達の姿は、どこにもいない。
それは、自分が 見放されたことを意味している。
幼い頃から 自分の側にいた者達も、みんな この場にいない。
なぜなら 全員 自分を見捨て 自分以外の者に 忠誠を誓ってしまったのだ。
おそらく 自分なんかよりも 良い王の器を持っているだろう。
今までは、心からの忠誠心からではなく 恐怖で従っていただけなのだろうから。
彼は、半分だけだが 自分と血を分けた 存在。
狂う要素は、あるかもしれないが 支える者が、ちゃんと 近くにいるそうだから 問題ないはず。
正当なる 王妃の嫡子………生まれる前から 世界からも守られた聖なる王。
かつて 滅びた 国の奴隷を母を持つ 自分よりも、王族らしい王族だ。
自分よりも、幼いのに 国の行く末を見つめることの出来る 王たる王。
だが 王は、そんな事 どうでも良かった。
彼が待っているのは、ただ 1人なのだから………。
唯一 自分の心を掻き乱した ただ 1人だけの存在。
闇の中にいた 自分を、照らしてくれた 光………。
心を呼び戻す キッカケを与えてくれた 救い手だ。
それは、辛い記憶もあったが 失っていた時よりも 今の方が、ずっと 人間らしくなれたはず。
感情は、国を殺すかもしれないけれど 心を持たない 人形の時より 良いに決まっている。
なのに 人々は、それを許してはくれない。
苦しいのに それを、苦しいと 言えないままがいいだなんて 嫌だった。
だから 王は、自身が 闇になることにする。
そうすれば 光が、再び 姿を現すから………。
その者だけが、自分を止めてくれるだろう。
自分を、唯一 殺してくれる。
王にとっては、最高の存在だ。
ずっと その存在を待ち続けている。
世界を、自分から救ってくれる 唯一の救世主が訪れることを………。
アナタが、目の前に現れてくれるのならば 自分は、どんな残虐でも行ってみせる。
それは、最後 あの人と別れた時に 交わした 約束だから。
だから 王は、国を壊し始めたのだ。
自分の目の前に あの人が、訪れてくれるように………。
最初は、彼女を守るだけだったけれど それは、壊す事と同じことだった。
だったら 思う存分 壊してしまえばいい。
古くから伝わる 物語で 孤独な王が、最期に最愛の人と再会できたように………。
自分も、最期の時 彼女の手で果てたい。
それだけが、王にとっての目的となっていく。
臣下達は、そんな自分の様子に 恐れを抱き 去っていった。
中には、自分のしてきた行いを 王の名目として 行ってきた者いたが………。
それが、どうしたと 言うのだろう?
今まで 王は、王としてしか存在することしか許されず 自分を理解することさえ 許されなかった。
周りの人々は、自分を都合の良い 人形としか 思っていなかったのだろう。
だから 最終的な決定権でしか 意見を求めず 実行してきたのだから。
世界は、それ故に 荒んでいく。
人々は、欲望を充たす為 好き勝手にする。
強い者が、弱い者を陥れるのだ。
本来 王の器を持つ者は、世界が危機に瀕した時 打開の手段を見つけなければならなかった。
けれど 王は、それを行わない。
王は、世界の行く末など どうでも良かったからだ。
最初から 自分の意思で 立っている 場所では、ないのだから………。
ただ 微笑むだけの国の主としてだけの人形………。
何の感情も持たない 機械のような存在。
最初は、幼い子供だから 誰も、その異変に気が付かなかったのかもしれない。
けれど 時が経つに連れて 人々は、心のどこかで 違和感を感じるようになったのだろう。
口には、出さなかったが 次第に 王を避ける者が出てきたのだから。
それを最初に指摘したのが、当時 両親の保護下にある年齢だった 王の待ち人の少女だ。
けれど この頃は、誰も感じ取っていなかったことなので その人物を危険視するようになってしまった。
王自身も、人形であったが故に 自分の意思を持ってはいなかったので 臣下達の言葉に従うしかない。
しかも 彼女は、この世界では滅多に見ない 不思議な外見をしていたこともあり 常に監視をつけられていたのだ。
けれど 彼女は、そんなに弱い存在ではなかった。
限られた自由しか なかったのに 彼女がいる空間は、全く 別の場所であるかのように 花が咲き誇っているようだったのだから。
幼く 世界のことを理解していなかったが 彼女は、すぐに自分の置かれた 状況を受け入れてしまったのだ。
城にご機嫌伺いにやってくる貴族やその娘や息子達は、彼女を奴隷と 呼び 見下していたが あの子は、気にもしていなかった。
これは、拍子抜けだったが 彼女が、笑みを浮かべば どんな邪悪な場所も、清浄なる 空間に変えてしまう。
けれど 別れは、やってきた。
彼女は、自らの意思で 城を出る覚悟を決めてしまったのだ。
王は、彼女を手放したくなかったけれど 何も言えばいいのか わからなかった。
『 ………もしも アナタが狂ったら 止めてあげる。今は、まだ わからないかもしれないけど それが、ワタシがこの世界にやって来た 理由なのなら そうするよ。
だから 立派な王様になって?今は、誰かに言われるままかもしれないけど 自分の心を取り戻して・・・さ?』
彼女は、微笑を残して 去っていった。
王は、なぜだか 彼女が城を去ってから 不思議な痛みを覚えるようになる。
それは、遠い昔 忘れてしまったような痛みだ。
大切な人達は、自分が 王になる 代償として 消えてしまった。
本当は、彼らと一緒に 消えたかったのに それは、許されなかったのだ。
自分は、唯一の王族だから 死ぬことも許されない。
これが、生きている と 言えるのだろうか?
今になって 王は、過去を思い出す。
楽しかった 日々………。
年の近い 子供達と遊びまわった あの場所………。
本来ならば 誰も知らず 平穏な日々を送るはずだった。
けれど それは、突然の嵐とも呼ぶべき 訪問者によって 壊されたのだ。
返るべき場所は、もう 世界のどこにも存在していない。
王の居場所は、王座だけだから と 消されてしまったのだから。
心の拠りどころも、世界のことだけだから と 存在自体 なくなったのだ。
城の中でも 自分が、少しでも心を開こうとすれば 相手は、いつの間にか 最初から 存在していなかったかのように いなくなってしまう。
だから 誰も、信じられなくなった。
それなのに………どうしてなのだろうか?
王は、過去を夢に見るようになったことで 少しずつ 心を思い出す。
けれど それは、ずっと 押し込められていたことで 歪んでしまったのかもしれない。
欲望は、欲望を生んで 更なる 欲望を求めてしまうのだから。
彼女を求める気持ちが、暴走していく。
だから やっと 手に入れた 唯一の存在だけは、失いたくなかった。
それなのに 誰もが、それを阻止しようとする。
何度も 探し出そうとしたのに 王の責任を押し付けて 実行させてくれなかった。
だから あの時 お前達が、奪っていったように 壊してやったのに………。
自分達は、それを正当化していたのに なぜ 許そうとしない?
それは、勝手すぎるじゃないか………。
ボクは、ただ 月を照らしてくれる 太陽を求めているだけなのに………。




