後編
「やっと 来たか」
王は、ゆっくりと 顔を上げた。
その視線の先には、1人の女が 立っている。
彼女の周りには、まるで 忠実なる 僕になったかのように かつての臣下達が、固めていた。
幼い頃の面影が、少しだけ 残っている。
小麦色の健康的な肌の色に 闇のような漆黒の髪と黒い瞳。
この世界では、畏怖の対象になっている 黒を纏う者。
衣服は、貴族のように煌びやかではないが その質素な灰色ワンピース姿は、彼女のスラリとした 手足を、強調しているようだ。
手には、護身用なのだろう 短剣が、握られている。
それには、見覚えがあった。
ああ そうだ………アレは、彼女が 城にいた頃から お守りとして ずっと 持っていたものだ。
詳しくは、聞いたことがなかったけれど この世界に訪れた時 唯一 持っていたものらしい。
短剣には、古の呪いが、施されているようだから 何か 彼女が持つに当たって 意味が、あるのだろう。
もしかしたら 自分を倒す為のアイテムなのかもしれない。
「王………アナタは、本当に 変わったのね?」
最後に聞いた声は、可愛らしくて鈴がなっているようだったけれど 今の君は、もっと 魅力的だ。
けれど ずっと 聞きたかった その声は、なぜだか 震えている。
彼女は、今にも 泣き出しそうな顔をしていた。
王は、そんな彼女の顔を見たいだけではなかったのだ。
けれど そうさせてしまっているのは、他でもない 自分なのだ。
「もう 名前も、呼んでくれないの?
ボクは、ずっと 君だけを求めていたのに………。
やっと 君は、ボクの元に戻ってきてくれたんだね?
あの頃は、ボクの本当の言葉を君に伝えることは出来なかった。
でも 今は………」
王の声に 女は、ピクリと 肩を震わせる。
なぜか とても 悲しげな顔をしているようだ。
理由は、わからないけれど 何か 彼女に誤解があるのかもしれない。
お願いだから そんな 顔をしないで?
ボクが求めているのは、そんな顔じゃなくて…………。
「それは、ただの欲望の捌け口として………?
だとしたら ワタシは、誰のものにもならないわ」
凛とした声に 王だけでなく 皆が、彼女を見つめていた。
王宮を出た後 彼女が、どんな生活を送っていたのか 知らない。
けれど それは、創造できないような辛い事だったのだろう。
そう考えると 悲しくなってきた。
「確かに ワタシは、この国で何の身分も持たない 奴隷………。
いいえ………それ以下かもね?
だって この世界のどこにも 出生証明書が、存在していないんだし。
でも こんな ワタシにだって 心は、あるの。
どんなに蔑まされても 生きたいと 思うから 今まで やってこれた。
今 この場にいるのだって 誰かに言われたからじゃないわ?
ワタシは、別に この世界の救世主を名乗るつもりなんかないのよ?
ただ 約束を果たしにきただけなんだもの」
彼女は、真剣な顔で ボクを見つめている。
その視線を 逸らすことは、出来ない。
「うん………待っていたんだ 君だけを。
君が、城を去ってから ボクは、昔の夢を見るようになった。
よく わからなかったけれど ここが、すっごく 痛くて仕方がなかったんだ」
ボクは、そう言って 胸の辺りを摩った。
その仕草を見て 彼女は、目を細める。
「何度も 君を探そうとした。
でも その度に みんなが、邪魔をしてきたんだ。
それだけじゃない。
君の事を 殺すよう 刺客を送ろうともした。
ボクは、絶対 駄目だと言ったんだ。
だから 君を殺そうとするなら 彼らの家族を殺すと言った。
それなのに 彼らは、それを聴こうとしなかったんだよ。
ボクは、忠告したのに 聞いてくれなかった。
母上達の時は、それさえもせず 攻撃してきたから そうならないように 警告したのに………」
そう 彼らは、ボクの言葉を無視して 実行に移そうとしてしまった。
結局 刺客に選ばれたのが、以前の知り合いだったこともあって それには、至らなかったのだが………。
だが 命令を無視した償いとして 彼らの家族は、処刑したんだ。
勿論 女・子供も、関係なく………。
約束を破ったのは、彼らなのだから 仕方がない。
それなのに 彼らは、止めようとしなかった。
更に 行動を大きくしてしまって………。
「アナタは、自分の意思を伝える 表現の仕方を間違ってしまったのね?
心を失っていたから それが、爆発して 暴走してしまったんだわ。
だけど アナタのしたことは、赦されるべきことじゃない」
彼女は、短剣を持つ 手に 力を入れた。
「世界が ワタシをこの世界へ呼んだ理由を、今 ここで果たす。
我が相手が、狂いし時 我が想いを込め その呪いを討ち滅ぼすツ!」
短剣は、そのまま 彼女の手を離れ 王座に座る 王の元へと吸い込まれるように 飛んでいく。
その光景に 一同は、息を呑んだ。
誰もが、言葉を発しない。
王も、それを受け入れるかのようにして 動こうとはしなかった。
最初から 覚悟していたかのように………。
短剣は、勢いよく 王の胸に突き刺さる。
そして 次の瞬間 王の周りは、白い光に包まれた。
皆は、その光景に 驚きを隠せない。
ただ 女だけは、その光の中に飛び込んだ。
「何で………?」
ボクは、それだけしか 言葉が見つからなかった。
彼女は、その問いかけに 苦笑する。
「言ったでしょう?
ワタシは、アナタを止めに来た と 。
だけど 1人にさせるとは、言わなかったはずよ?」
その笑顔は、ずっと 見たかったものだ。
太陽のように周りを、明るくしてくれる 温かみのある 微笑み。
「ずっと アナタに逢いたかった。
だけど それは、許されない事だと思っていたの。
お城にいた頃 ビシビシ 色んな視線を受けていたしね?
それに この世界にやってきた時 神サマに言われた言葉を思い出してしまって………逢っちゃいけない って思っていたから。
だって 逢う時は………」
彼女は、肩を竦めながら 言う。
「だから 風の噂で アナタが、正気を失い始めたと聞いて 気が気じゃなかった。
このままだと ワタシは、アナタを殺さなければならない と 思ったから」
ボクは、それを聞いて 彼女を抱きしめる。
「最初から ボクは、君の手で止められることを望んでいたんだよ?
だから こんなにも嬉しいことは、ないんだ。
まさか 君まで 一緒に来るとは、思わなかったけれど………」
「いいのよ そんな事。
元々 この世界にとって ワタシは、アナタを止めるだけの存在なんだもの。
利用する為だけに あの人達は、甘い言葉を投げかけてきただけ。
本心は、見下しているだけなの。
ワタシは、アナタと一緒にいれるのなら どこにでも 付いて行くわ?」
その言葉は、心に染みてくる。
気が付けば 頬を、涙が伝っていた。
彼女は、それに気が付いて 満面の笑みを浮かべる。
「最初に言葉を交わした時の内容を覚えている?
ワタシは、アナタの太陽になってあげるって………」
「ああ 覚えているよ。
君が、ボクを照らしてくれるんだろう?」
2人は、お互いをしっかり と 抱きしめて 光の中に溶け込んでいった。
光が消え その場には、倒れこんだ 男女が、姿を現す。
2人は、お互いの手を握り締め 幸せそうに微笑んでいた。




