第7話:白い花の卒業式と、隣にいない君
いつもお読みいただきありがとうございます。
第7話は、冷たい雨の中執り行われる「白い花の卒業式」です。
本来なら隣にいるはずの健太がいない、空席の卒業証書授与式。
悲しみの中で宮乃が心に灯した決意を描きます。
三日後。
春の訪れを告げるにはあまりにも冷たく、凍えるような雨が降る中、私立高校の体育館で厳粛な卒業式が執り行われていた。
黒い喪章を胸にまとった宮乃は、卒業生が座る列の一番端の席に、ぽつんと一人で座っていた。
周囲の生徒たちは晴れやかな笑顔で卒業証書を受け取り、友人同士で思い出の記念写真を撮り合っている。
けれど、宮乃の周りだけには、まるで分厚い氷の壁があるかのように、冷たく重い空気が漂っていた。
本来なら、この場所には健太がいて、隣同士で卒業を喜び合い、将来の夢を語り合うはずだった。
しかし、彼の席は空席のまま、冷たい雨の音だけが体育館の屋根を叩いていた。
「出席番号四十五番、秋元宮乃」
担任の先生の少し震えた声が、体育館のスピーカーから響き渡った。
壇上に上がるように促され、宮乃は足元がフラつくほどの震える足取りでステージへと歩みを進めた。
生徒や保護者たちの視線が痛いほど突き刺さるが、誰も何も言わない。
みんな、宮乃の身に起きたあまりにも大きすぎる悲劇を知っているからだ。
校長先生の前に立ち、差し出された卒業証書を受け取る。
その紙の筒はずっしりと重く、あふれる涙で滲んだ視界の中では、文字がぐにゃぐにゃと歪んで見えた。
「おめでとう、宮乃さん。辛いだろうけれど、しっかり前を向いて生きるんだよ」
校長先生の温かい声と言葉に、こらえきれなかった涙がとめどなく溢れ出し、卒業証書の上にポタリと落ちた。
宮乃は声を殺して小さくうなずき、深々と頭を下げた。
自分の席に戻る途中、客席の端で静かにハンカチで涙を拭っている健太の母親と目が合った。
健太の母親は、声を出さずに「がんばってね、負けないで」と口を動かし、宮乃に微笑みかけた。
その姿を見た瞬間、宮乃の胸が締め付けられるように痛んだ。
私一人じゃない、彼のご両親も、そしてお腹の中のこの子も、みんな健太を失った深い悲しみを抱えながら生きているんだ。
式の最後、全員で歌うはずだった卒業の歌。
宮乃は声を出すことができなかった。
ただ、心の中で強く、何度も何度も呟いていた。
(見ていてね、健太くん。私、一人じゃないよ。あなたが命懸けで守ってくれたこの子と一緒に、あなたのぶんまで強く、絶対に生き抜くから)
卒業証書を強く握り締める宮乃の右手は細かく震えていたが、その瞳の奥には、消えることのない小さな決意の光がしっかりと灯っていた。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
周囲の祝福ムードとは対照的に、黒い喪章を胸にたった一人で壇上に上がる宮乃の姿は、あまりにも孤独で切なかったですね。
それでも、健太の母親とのアイコンタクトや、彼女が心の中で交わした誓いによって、物語は少しずつ「再生」への一歩を踏み出します。
次回もお楽しみに!




