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第二話「初バトル。」

「ピ……。」


「……。」


無言。草原をゆく風が両者の間合いを抜けていく。

長い長い均衡を破るように、俺はその”領域”へと、足を……踏み入れる、。


「……ピゲッ!!!」


「ふっ……!」


俺の足が着地するのとほぼ同時、ケロピヨの右手から放たれる右上段からの袈裟斬り。

正面で相対した場合にケロピヨが繰り出す、最も標準的な攻撃方法。


俺は前進しつつ、わずかに左へ身を引いてそれを躱す。

無骨な木の棒が鼻先をかすめる。その距離さえ予想の範囲内。何も驚くことはない。


そのまま、左足に重心を移し、硬く握った拳を……叩き込む!!!


「ピ……ゲェッ!!!」


攻撃は頬にヒット。ケロピヨの口から微かに音が漏れ出たかと思うと、次の瞬間には、その体が宙へと投げ飛ばされる。

柔らかな体が一度地面でバウンドしたが、その勢いのままくるりと一回転すると、驚くべきことに態勢を立て直し、返す刀で横一閃の薙ぎ払いを放ってきた。


「まじかっ!!うぐっ……!」


すんでのところで腕を出してガードするが、それでも3.8のダメージ。

腕なのでわずかに減少したが、それでも速度ボーナスでそれなりのダメージになった。


というか。


「いった……!!」


ちゃんと痛い。腕がしびれる。涙出てきた。


こっちのダメージは4.7。

急所ボーナスと速度ボーナスが乗ってこれ。

まあ初撃としてはまずまずか。


俺の腕を襲った木の棒が更なる隙を伺うように揺らいでいる。

この間合いは微妙だな。腕もまだ若干しびれているし。


俺は一度距離を取ろうと後退する。

しかし、その隙を逃すまいとすかさずケロピヨが踏み込んだ。


これは……。


「突き!!」


頭を狙った精確な一撃。

ケロピヨは後退する敵に対して突きを繰り出す。この割合はとりわけ高く、8割を超える。

速度は向こうが上、目で見て避けていては事故が起きる。

だから思い出せ。俺が今まで見てきた、幾千幾万の太刀筋を。


右足に重心を移しつつ、大きくしゃがみこんで回避。かなり紙一重だったが、成功。


そして、左足に重心を戻しながら腰を回転ッ!


「ふぅッ…!!!」


グゥンという鈍い音とともに、再び俺の拳がケロピヨの頬を襲う。

横からの衝撃を殺しきれず倒れこむケロピヨ。

俺もすかさず後退して距離を取る。今度ばかりは追撃もない。


「よしよし……。」


「ピ……ピゲェ…。」


あれは怒りか、恐怖か、それとも、武器すら持っていない男に二発も殴られたという困惑か。

立ち上がるケロピヨの肩がプルプルと震えている。


一瞬足元がふらついたように見えたが、それでも毅然と木の棒を構え直す。まだ戦意は衰えていないらしい。


当然俺もだ。


「……。」


「……。」


一歩、二歩。

歩いて、止まる。

両者の間合いは変わらない。


「…さぁ、来い!!」


ケロピヨが木の棒を握り直すのを見て、俺は叫んだ。


「ピゲェィッ!!!」


その声に呼応するように切りかかってくるケロピヨ。

また袈裟斬りだ。これはもう見切っている。


当然の如く避けて……殴る!

が、しかし、。


「なっ!こいつ!!」


誘われた。

敢えて顔を突き出すことで、拳の威力を相殺する荒業。

まさかこんなことをしてくるなんて。


これはまずい。ノックバックもさせられず、完全に間合いの中にいる。

攻撃の直後で体勢も…。


「んぐっ!!」


防御も間に合わずもろに木の棒の逆袈裟を受けた。

横っ腹がくっそ痛い。だが、。


「っ!!」


来る。痛みにひるんでいる暇はない。

軋む体を無理やり捻る。


さっきまで体のあった場所を暴れ狂う木の棒が通り過ぎていく。連撃。なかなかえぐいことをしてくる。


振り下ろされた木の棒は、地面の芝を削り取ってようやく静止する。


反撃…いやまだだ。


体勢が悪い。今打てば威力が足りずさっきの二の前になる。

確実かつ正確に、速度を乗せた攻撃を頭へと叩き込める隙が必要だ。

僅かに後退しつつ、突きを誘って反撃を…。


「しまっ!!」


足を退いた俺に対してケロピヨがとったのは、右手を自らの左側へと大きく引く構え。


あれはレアモーションの居合だ。8割を外した。いやそれどころかこのモーションの発生確率は10000分の1。


リゲナーの間では「ケロピヨの居合を見れた日はいいことがある」なんていう謎のジンクスがあるくらいだ。


だが、今の俺には……。


「くっ……!!」


振り抜かれた木の棒が見事に俺の頭部を捉える。

凄まじい衝撃が側頭部から首にかけて瞬く間に広がる。

自分よりも小柄なモンスターの一撃で、俺の体は易々と吹き飛ばされた。


追撃の隙を与えないため、何とか立ち上がるが、足元がおぼつかない。

正直今のは効いた。ダメージもそうだが、あそこは突きが来るという絶対的な慢心があった。

まさかの居合(レアモーション)……。


ここで2連撃を受けてしまったのはかなりきつい。


残りHPはたったの『1.2』。


瀕死も瀕死。

木の棒がかすっただけで死ぬ。


無職で武器無しとはいえ、ケロピヨにここまで苦戦するとは。

育て上げた自分のキャラを思い返して笑えて来るな。


対して、ケロピヨのHPは『9』。


「ピッピッピッ…。」


開かれた大きな口から漏れ出る不可解な音。

これは勝利を確信した笑いだろう。


「……なんだよ、もう勝った気でいるのか?」


「ピゲ?」


今更お前に何ができるとでも言いたげな顔だ。

だが、お前はリゲナーというものをまるでわかっていない。


ここを逃せば次にいつ出会えるかもわからないネームドモンスターとの死闘。

一度のミスで取得が遥か先へと遠のくユニークアイテム。

砂漠の砂から一粒の砂金を見つけるかのような確率で舞い込むシークレットクエスト。


もともと高難易度なゲームだ。うまくいかないこともある。いやうまくいかないことの方が多い。

辛いよ。気が狂いそうになる。でもそうした一つ一つを耐えて耐えて耐えて……。


そうして変態(リゲナー)ができるのさ。


「こっからが本番だ。」


一気にケロピヨの間合いに踏み込む。


「ピゲッ!!」


咄嗟に棒が振り下ろされるが、今更大ぶりの一撃なんて当たらない。

虚しく空を切る棒を横目に、握りこんだ拳を捻りこむように突き出す。


「喰らえッ!!!」


だが、それも読まれていたのか、ケロピヨはこれを左手で受ける。


間違いない、こいつは今まさに学習しているんだ。

俺の戦い方と、その対策を。


目の前の男はHP『1.2』の瀕死。そのうえ決死の攻撃も失敗に終わり、唯一の武器ともいえる拳も突き出したまま。

いよいよもってその顔は勝利を確信し、醜悪に歪む。


だが……。


「甘い!!!」


今の殴りはたったの『1.6』ダメージ。

踏み込みが不十分だった。ただ、これでいい。いや、これがいい。

なぜなら、それは次への攻撃の転換的にすぎないから。


「ピギッ!!」


低い体勢からの抉るような膝蹴りがケロピヨの腹部を直撃する。

その体はわずかな滞空時間を経て地面へと着地する。


倒れこまないように、その細い足でなんとか耐えている。

かろうじて振られた木の棒。ふらふらと力のない太刀筋だが今の俺なら容易に死ねるのでちゃんと避ける。

ダメージの蓄積のためか、後退する俺への追撃もない。


「ピシュゥ……ピシュゥ……。」


腹を抑えてこちらを睨むケロピヨ。

口の端に泡が浮かんでいる。


可愛くて大好きなモンスターだが、これはあまりにも生々しい。


痛みを払うためか。ブルブルと頭を振ると飛び出た舌がぺちぺちと音を立てた。

肩で息をしながら、震える手で木の棒を構える。


==========================



ケロピヨ


Lv:1

HP:3.4/21

MP:8/8



==========================



==========================



ノイン・レーゲンシュライン


Lv:1

HP:1.2/25

MP:10/10



==========================


お互い満身創痍。


「……。」


「……。」


これで条件はそろった。

深呼吸をする。


「さぁ……。」


俺の声に、棒の切っ先がピクリと反応する。


「……。」


「…決めようか!!」


初めてエンカウントするモンスターでさえ、この緊張感。

まったくよくわかっているじゃないか、俺は。


「ピ…。」


そうだ、これでこそ『Re : Genesis Online』。


「ピィ……。」


完成度の高さに…。


「ピィィィイイイイイ……。」


この俺でさえ……。


「ピィゲェッ!!!」


「感服だッ…!!!」


覚悟を決めたのか、地面を強く蹴り出し、突進のように切り込んでくるケロピヨ。

だが俺の方が一歩速い。間合いを詰めてくることを見越して、すでに踏み込みは終えていた。


飛び上がった体。棒の先。その収束地点が、軌道が、見える。

だから、わかる。


その攻撃が俺に届くことは―決してない。


ケロピヨの体が、俺の突き出す拳へと吸い寄せられるように飛び込んでくる。

そしてメキメキと不穏な振動を伝えた。

その衝撃は凄まじく、次の瞬間にはその体が初撃の比ではないほどに後方へと吹き飛ばされた。


そして、2、3回痙攣したかと思うと、完全に動きを止めた。


「…………だはぁ!」


すっかりとあがった息を整える。

全身にピリピリとした高揚が走っている。


「……勝ったぁ。」


崩れて黒い煙のように溶けていくケロピヨの死体。見慣れた光景だ。

それを眺めながら、俺は失いかけた熱を感じている。


この感覚。そう、これこそが『Re : Genesis Online』。

敵は固く、素早く、賢く、そして強い。


だからこそ、装備を求め、スキルを選び抜き、自己(ビルド)を追求する。

我々は強さを求め、敵もまた、それに呼応するように強くなる。


やっぱり……。


「たのしぃぃいいいいいいいいいい!!」


俺は草原にこれでもかと体を預け、腹いっぱいに声を出した。

モンスターにこの隙を襲われればひとたまりもないが、今だけはこの余韻に浸っていたい。


<ケロピヨ(Lv1)を倒しました。>

<経験値(12)を取得しました。>


<ノイン・レーゲンシュラインのレベルが上がりました。1→2>

<スキルポイント(1)を取得しました。>


「あれ、レベルが上がった。」


というか、俺の名前『ノイン・レーゲンシュライン』だったのか。

今気づいた。


これは俺が『Re : Genesis Online』で使ってたアカウント名だ。

普段は『ノイン』だけなんだが、初期の『Re : Genesis Online』の仕様では、名前と苗字を両方登録しなくてはいけなかった。結局この仕様はすこぶる不評で、すぐに「苗字の入力を任意とする」という内容の修正パッチが出された。

さらに全プレイヤーに一度だけ名前を変更する権利が与えられたが、俺は特に必要性も感じず変更しなかった。


ちなみに『ノイン・レーゲンシュライン』っていうのは、本名である『雨宮 九太郎』を雑にドイツ語へ変換しただけ。

俺は俺の名前を気に入っているが、そのまま使うのはさすがに気が引けた。

それにドイツ語はかっこいい。異論は認めない。


まあ、そんなことはどうでもいい。


「ステータス。」



==========================


ノイン・レーゲンシュライン

種別:人類・人属


メインクラス:---

サブクラス:---


Lv:2

HP:5.2/29   MP:12/12

物理攻撃力:10  物理耐性:8

魔法攻撃力:7 魔法耐性:5

素早さ:6  持久力:6

精神力:10    幸運:4


状態異常:

なし


装備:

布の服 皮の靴


スキル:

なし


==========================



たしかにレベルが上がっている。

本来ケロピヨを一体倒した程度じゃ上がらないはずだが。


「これも無職の影響か。」


本来、取得経験値はキャラクターレベルとクラスレベルに分配される。

クラスがない今は全てがキャラクターの経験値として吸収された、ということだろう。


「まあ、悪いことばっかじゃないってことか。」


だからと言って無職でい続ける気はないけど。

即刻、クラス設定を行う。

ステータスがずれてしまうかもしれません。

見づらかったらすみません。

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