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第十一話「重戦士と旅芸人。」

俺はダンジョンの外まで運び出されたらしい。

視界が戻ると、綺麗な夕暮れの空が見えた。

時間も時間なので街まで戻ると伝えたところ、彼女もちょうど街に戻るつもりとのことだったので、それなら、と一緒に帰路に着くことになった。


そんなこんなで世間話をしながら街道を進んでいるのだが…。


「へー…チヤさんって……いうんだ…ね。」


「は、はい!」


ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ。


「ところでさ…。」


「はいっ!」


ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ。


「そろそろ……下ろして…もらえると…。」


「あっ!」


俺の言葉にチヤの足が止まる。

壊れかけの金属鎧が奏でる愉快な音がなくなり、草の音や鳥の声が微かに聞こえるだけになった。


ここまでずっと担がれていた。

麻痺が解けたタイミングでお礼を言われて、そこからなんか世間話が始まっちゃって、そのまま言い出す機会も掴めず、ついに街の近くまで来てしまった。


「ごめんなさい!」


そんなことを言いながら、下ろしてくれる。

久しぶりの地面だ。地面てこんな揺れてたっけ?


「いやいや助かったよ。ありがとう。」


しかし、鎧のせいもあるんだろうが、体が本当に大きい。

俺も179cmだから背は低くないと思うけど、それでも彼女の顔を見る時は見上げなくてはいけない。


その顔というのも、童顔でアイドルのように整っている。

そして黒い髪を二つのお団子に分けて纏めている。


要塞のように大きな金属鎧にこの顔が乗っているのは、やっぱり少し不思議だ。


彼女は鬼人という種族だと聞いて納得した。

これはゲームにも登場したし、プレイヤーも選択可能な種族だった。


たしかに、その特徴である角が髪の分け目から顔を覗かせている。かなり小さめなので、よく見ないと気づかないが。


「あの、ノインさん!!」


角を眺めていたらチヤの顔がずいっと前に出てきた。

真上から覗き込まれるような形になる。


「は、はい。」


「わ、私…強くなりたいんです!」


「はい。」


向上心があるのは素晴らしいことだ。

実際、あの数のモンスターを一時とは言え足止めしていたわけだし、実力は既にあると思う。


「でも…師匠はマインスパイダーに襲われたときにどっか行っちゃったし…。」


ああ、あの酷い顔で走ってたおっさんか。

なるほど。師弟関係だからどちらも似たり寄ったりな装備構成だったのか。

感じていた違和感になんとなく合点がいった。


「だ、だから……それでですね?…えっと…。」


なんかモジモジしている。

こっちまで恥ずかしくなってきた。


「わ、私の師匠になってくれませんか!!」


「へ?」


あ、変な声出た。


あんな草原のど真ん中で長話も…ということで、一旦街まで戻ってきた。

道中で聞いた話によると、彼女はメインクラスが重戦士、サブクラスが旅芸人らしい。

全然悪くないように思うが、この世界ではロール分けが半端という理由であまり受けがよくないらしい。


まあ、確かに重戦士は戦士から派生するクラスのひとつで、その役割はわかりやすくタンクだ。

高い耐久で敵の猛攻をしのぎ切る熱いクラスである。

たいして旅芸人は後方支援がメインの紙装甲。タンクとしての長所は死んでしまうかもしれない。


「どうして、その構成にしたの?」


「…私、同じ里の友達4人で旅に出たんですけど、他の3人がアタッカーしかやりたがらなくて私がタンクとスカウトをやることになりました。」


なるほど。


「はじめは良かったんです、モンスターも弱かったし。でも私はアタッカーの3人と比べて得られる経験値が低くて、ステータスにもどんどん差がついて…。」


目が死んでる。

たしかにこの問題はゲームでもよく起こっていた。

経験値の分配は与えたダメージやとどめの一撃などで決まってしまう。

どれだけタンクとして貢献していてもそれは意味がない。だから、定期的にタンクやヒーラーのレベルをならす作業が必要になるが、そんなことはしていなかったんだろう。


結局、その後アタッカーのうちの一人がスキルを伸ばしていった結果スカウトもできることが判明。

代わりに純タンクを入れることになって、チヤはパーティーから追い出されてしまったらしい。


今に至るまで新しいパーティーは一度も見つからず、火力も出ないのでソロでのレベリングも難しい。

であればタンクの基礎を身に着けようと、同じく重戦士をしている冒険者に師事したものの、その師匠はモンスターの群れを見るなり逃走。


この子、明るくてひたむきでいい子なんだが、とにかく不遇だ。


というかその友達とやらのパーティー、ヒーラーいなくね?

あまりにも脳筋すぎる構成に戦慄する。


「今さら、別のクラスにするのも…レベル上げとか自信がなくて……それに今までの努力も無駄になる気がして……。」


そういえばこの世界ではリスポーンというのを聞かない。

死んだら終わりなんだろうか。いや、まあ普通に考えたらそうか。


だとすると、クラスチェンジをして再度レベリング、なんて命がけの所業をやる人はあまりいないのかもしれない。

こんなことを言うと失礼だが、あのマインスパイダーの群れもリゲナー2人ならどうにかなる数だったと思う。しかし、結果はあれだった。この世界の人の戦闘能力はそこまで高くない?


「私、どうすればいいですか!」


と言われても。

ただのおっさんにこの子の人生は決められないし。


「チヤさんがどうなりたいかじゃないかなぁ…。」


「私がどうなりたいかですか?んー…。」


「うん。こうなりたいっていう明確な目的があるならクラスチェンジも全然ありだと思うし、今のまま強くなりたいってことであれば…。」


「な!なれるんですか!!今の構成でも!!」


メインが重戦士、サブが旅芸人なら俺もやったことがある。


「お。」


そのとき、不意においしそうな匂いが鼻腔をくすぐった。

酒場だろうか。いい感じに賑わいつつも、空席もある。いかん、腹が減ったな。


「ちょっとご飯でも食べていかない?」


まだ、話も続きそうだしせっかくならと誘ってみる。


「はい!」


中に入ると陽気な街人や冒険者がどんちゃん騒ぎをしていた。

俺たちはその横を素通りして奥の少し落ち着いた席に座る。


メニューを勧めつつ、料理を2、3注文してから本題に入る。


「チヤさん。」


「はいっ。」


両肘を机につき、手を顔の前で組む。

そして必要以上に神妙な面持ちで語りかける。

自然と彼女の背筋も伸びる。


これはあくまでも君の人生だから、俺が決めることはできない。

だから、あくまでアドバイスの一つとして聞いてほしい。

と前置きをして、手帳を取り出す。


「今のチヤさんの構成だと、俺の知っているビルドは3種類だ。」


『回避型タンク』

『高速雪掻戦車』

『後方迫撃重戦士』


チヤが手帳に書かれた文字をじっと見つめている。


正直どれもメリット・デメリットがはっきりしている。


回避型タンクは旅芸人の『アイテムの重さを軽くする』というスキルで重戦士の身に着ける鎧を軽量にして回避性能をあげるビルドだ。防御力もそこそこ担保できるし、必要なスキルポイントがほとんどないので攻撃系のスキルにもリソースを避ける。とはいえ他のタンクと比べて耐久は低いし、万が一攻撃を喰らった日にはヒーラーから怒られる。めちゃくちゃ怒られる。実際この世界でもリスクは大きいと思う。


高速雪掻戦車は盾を構えて体当たりを行う『シールドチャージ』という攻撃を連発するビルドだ。『シールドチャージ』のダメージ計算が重量と速度によって行われるので、重装備を身に着ける重戦士と、速度に恩恵のある旅芸人という構成に非常に相性がいい。ただ、この重量の計算というのが敵Mobとの重量差で計算されるというのが問題だ。そこらの雑魚なら瞬く間に一掃できるが、ボスなどの大型モンスターには一気に無力になる。いや、大盾を二つ持っているので防御力も高いし、そもそもタンクなので攻撃力を期待するのがお門違いなんだが、なんせギャップが…。ついたあだ名は『ルンバ』。


後方迫撃重戦士は旅芸人の持つ『投擲』というスキルを伸ばして戦うビルド。このビルドでは旅芸人の速度は殺して代わりに運を活かす。『投擲』には相手の急所に当てた場合にボーナスダメージが乗るという特性がある。そこにクリティカルや重戦士のスキルなんかも噛み合わせていくと爆発的なダメージになる。このビルドも重量が必要になるため必然的に重装備にはなるのだが、中~遠距離アタッカーなのでタンクとしての役割はできなくなる。そこのアンマッチが惜しい。それと、当然『投擲』を急所に当てていく必要があるため、プレイヤースキルも要求される。この中だと一番難しいだろう。


まあ、ざっとこの辺を説明しようかと思ったのだが…。


「これ。」


「…え?」


「私、これがいいです。」


まだ何も説明していないのにチヤは手帳の文字を指さしている。


『後方迫撃重戦士』


ほお、これも選ぶなんて、わかってるじゃないか。

なんて言ってはいられない。彼女の人生がかかっている。

今はリゲナーではなく、一人の大人としてアドバイスをすべき時だ。


「え?まだ何も説明してないよ?そ、それにほら、この名称ってネトゲ廃人っていうどうしようもない大人たちが勝手につけた名前だし、それだけを見て決めるっていうのは…。」


お前ら、すまん。


「私、自分の直感を信じることにしているので。」


底なしの明るさばかりが見えていた彼女だが、この決断には絶対的な自信と決意を感じた。

…であればこれ以上は何も言うまい。


そして、頼んでいた料理が運ばれてくる。

大皿にこれでもかと盛られた料理。

今まで露店でしかものを食べたことがないが、店の料理はこのサイズが普通なんだろうか。

呆気に取られているとなぜかチヤが自慢げに鼻を鳴らした。


「これも私が直感で選びました!師匠、食べてみてください!」


「し、師匠…?」


「はい!」


「んぐっ。」


まだ、師匠の件についての返事はしていないんだけど…。

なんていう暇もなく、料理が口の中に押し込まれる。


入ってきてしまったものは仕方がない。

食べよう。


何の肉だろうか。牛肉の赤身に近い。

ぎゅっと詰まった肉質で噛むたびに香辛料の効いた肉汁がしみ出してくる。溺れそうだ。


「…う、うまい。」


「ね!師匠!」


チヤも同じ料理を頬張って目を輝かせている。


「ぷっ。」


すかさずエールを流し込んだチヤが絵にかいたような髭を作っているものだから、思わず吹き出してしまった。


「な、なに笑ってるんですか?何か変でしたか…?」


チヤが心配そうに見つめてくるので俺も同じように髭を作って見せる。


「ぷっ…ふふふっ……師匠…泡が…。」


それを見たチヤが笑い始める。


人と食事をするなんていつぶりだろうか。

最近はずっと、一人パソコンの前に座ってカップ麺かスーパーの弁当を食べる生活だった。

他人との食事なんて気を使って疲れるばかりだと思っていたが、案外悪くないものだ。


「…くっ…ふふっ……ふふふっ…!」


うん、ちょっと笑いすぎじゃない?

酔ってるのかな?


バンッ!バンッ!バンッ!


あ、机叩き始めた。

いや、強い。強いって。


…やめて!店員さん見てるから!机こわれちゃうから!


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