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幽霊王女  作者: 山田裕子
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4/4

武闘大会閉幕、その後

4回戦、対戦相手は、王子の護衛騎士、イーサン・ラトリッジだ。

彼の名は王国最強の騎士として、知らぬものはない。


会場は、期待に満ちた歓声にあふれていた。


「始め!」


合図とともに、皆が息をこらえ、試合の行方を見守る。


今までの相手とは、まるで違う。

容赦のない一撃がリゼットを襲う。

正面から受ければ、腕ごと砕かれる。

刀身を傾け、かろうじて受け流す。

追撃の突きも身をよじって躱した。

イーサンの隙をうかがうが、全く隙を見せない。

それならこちらから隙を作ってやる。

リゼットは砂埃を巻き上げ、イーサンの目くらましを狙う。

少しでも隙が出来れば――

しかしそんな姑息な作戦もかわされ、だんだんリゼットの呼吸が荒くなっていく。

打ち合うたびに腕が痺れていく。

このままでは、じり貧だ。

残るすべての力を使い、打ち込んだ一撃は、むなしく弾かれた。


「勝者、イーサン・ラトリッジ!」

審判の声が響いた。

それをかき消すような大歓声が、拍手とともに二人の剣士に送られていた。


結局、優勝したのはイーサンだった。

アレックス王子は、成績優秀者に声をかけ、目標には届かなかったものの、新人が十分健闘したということで、イルゼもお褒めの言葉を賜った。


「殿下から、あのようにお褒めの言葉をいただいて、感激です。

リゼット様の鍛錬に耐えて良かった......死んでもいい......」


「これくらいで死んではだめよ。でもあなたは、本当によく付いてきてくれたわ。頑張ったわね、ありがとう。今までとても楽しかったわ。」


「なんだか、リゼット様に褒められるのは、ちょっと後が怖いんですけど......」


「失礼ね。私だって、褒めるときはきちんと褒めます!」


「ただね、もうじきお別れになりそうな気がするの。なんだかこう、上の方に引っ張られる感じがするの。

念願の女性騎士にも、短い期間だったけどなることが出来たし、あなただって少しは強くなれたから、そう簡単に刺客にやられたりはしないでしょ。

心残りはほとんどないの。」


「ちょっとだけ気になるのは、両国の友好問題だけど、それはアレックス王子のお仕事だから、あとは殿下にお任せしましょ。

イルゼ、あなたも政治的な立ち回りは無理だから、手を出そうなんて考えずに、殿下に任せなさい。

そのかわり侍女兼護衛として、アレックス殿下をお守りしてね。

それがあなたの罪の償いよ。被害者の私が許すのだから、これ以上気に病まないで。」


そう言うリゼットの体がだんだん天に向かい、薄れていく。

イルゼは、大粒の涙を流しながら見送った。

そしてリゼットとの約束通り、侍女としてアレックス王子を支えていこうと決意した。

友好問題は、ちょっとしか心残りじゃないんだとも思ったけれど。


それから数か月。

やがて夏が来た。

イルゼは、すっかり侍女としての生活が板についてきた。

アレックス王子は、新しい妃を侯爵家から娶られた。

イルゼは、もう自分の恋心に蓋をして、お二人にお仕えしている。

以前のあの気持ちは、熱病のようなものだった。今の私には必要ない。


今日はご成婚のお祝いの花火が上がる。

仕事の手を止めて、ベランダに出て眺めた。


「綺麗ねー!ここから見る花火も良いものね。上から見ていたんだけど、そばで見たくて、来ちゃった......」


「リゼット様!......ずっとお会いできなくて、寂しかったです!

でも天国に行かれたはずじゃ......追い出されてしまったのですか?」


「相変わらず失礼ね!追い出されてなんかいないわ。天国に行ったら、遠い東方の国から来ている方がいて、教えてくださったの。あちらでは、夏になると亡くなった人を迎える風習があるんですって。国は違えど、同じ霊だから出来るかなーと思ってやってみたら、出来たのよ。すごいでしょ?」


「あなたや殿下がどうしているかなーって、ちょっと気になったし。

来て見てよかったわ。どう?変わりはない?刺客は来た?」


「えーと、刺客は、ちょうどイーサン様が近くにいらしたので倒してもらえました。私も少しは、応戦できたのですよ。その刺客から辿って、開戦派の貴族達をアレックス殿下が追い詰めました。今では停戦派の方が優勢です。このまま停戦が続けば、いずれ両国の友好も夢ではありません。」


「よかったわ。みんな頑張ったのね。あなたは、殿下が新しいお妃さまを迎えても、お仕え出来ている?辛くない?」


「大丈夫ですよ。以前の私とは違います。精神的に大人になりました。」


「そう、今度こそ心残りはないわ。それではもう行くわね。

元気でお過ごしなさい。」


「え、リゼット様、もう行ってしまわれるのですか?......もっとお話ししたかったのに......」


「大丈夫よ~......来年もまた来るわ~......」


霊なのにやけに元気なリゼット様の声が木霊のように響いて、やがて消えていった。

イルゼは夜空を見上げ、来年の夏もにぎやかになりそうだと、小さく笑った。

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