武闘大会閉幕、その後
4回戦、対戦相手は、王子の護衛騎士、イーサン・ラトリッジだ。
彼の名は王国最強の騎士として、知らぬものはない。
会場は、期待に満ちた歓声にあふれていた。
「始め!」
合図とともに、皆が息をこらえ、試合の行方を見守る。
今までの相手とは、まるで違う。
容赦のない一撃がリゼットを襲う。
正面から受ければ、腕ごと砕かれる。
刀身を傾け、かろうじて受け流す。
追撃の突きも身をよじって躱した。
イーサンの隙をうかがうが、全く隙を見せない。
それならこちらから隙を作ってやる。
リゼットは砂埃を巻き上げ、イーサンの目くらましを狙う。
少しでも隙が出来れば――
しかしそんな姑息な作戦もかわされ、だんだんリゼットの呼吸が荒くなっていく。
打ち合うたびに腕が痺れていく。
このままでは、じり貧だ。
残るすべての力を使い、打ち込んだ一撃は、むなしく弾かれた。
「勝者、イーサン・ラトリッジ!」
審判の声が響いた。
それをかき消すような大歓声が、拍手とともに二人の剣士に送られていた。
結局、優勝したのはイーサンだった。
アレックス王子は、成績優秀者に声をかけ、目標には届かなかったものの、新人が十分健闘したということで、イルゼもお褒めの言葉を賜った。
「殿下から、あのようにお褒めの言葉をいただいて、感激です。
リゼット様の鍛錬に耐えて良かった......死んでもいい......」
「これくらいで死んではだめよ。でもあなたは、本当によく付いてきてくれたわ。頑張ったわね、ありがとう。今までとても楽しかったわ。」
「なんだか、リゼット様に褒められるのは、ちょっと後が怖いんですけど......」
「失礼ね。私だって、褒めるときはきちんと褒めます!」
「ただね、もうじきお別れになりそうな気がするの。なんだかこう、上の方に引っ張られる感じがするの。
念願の女性騎士にも、短い期間だったけどなることが出来たし、あなただって少しは強くなれたから、そう簡単に刺客にやられたりはしないでしょ。
心残りはほとんどないの。」
「ちょっとだけ気になるのは、両国の友好問題だけど、それはアレックス王子のお仕事だから、あとは殿下にお任せしましょ。
イルゼ、あなたも政治的な立ち回りは無理だから、手を出そうなんて考えずに、殿下に任せなさい。
そのかわり侍女兼護衛として、アレックス殿下をお守りしてね。
それがあなたの罪の償いよ。被害者の私が許すのだから、これ以上気に病まないで。」
そう言うリゼットの体がだんだん天に向かい、薄れていく。
イルゼは、大粒の涙を流しながら見送った。
そしてリゼットとの約束通り、侍女としてアレックス王子を支えていこうと決意した。
友好問題は、ちょっとしか心残りじゃないんだとも思ったけれど。
それから数か月。
やがて夏が来た。
イルゼは、すっかり侍女としての生活が板についてきた。
アレックス王子は、新しい妃を侯爵家から娶られた。
イルゼは、もう自分の恋心に蓋をして、お二人にお仕えしている。
以前のあの気持ちは、熱病のようなものだった。今の私には必要ない。
今日はご成婚のお祝いの花火が上がる。
仕事の手を止めて、ベランダに出て眺めた。
「綺麗ねー!ここから見る花火も良いものね。上から見ていたんだけど、そばで見たくて、来ちゃった......」
「リゼット様!......ずっとお会いできなくて、寂しかったです!
でも天国に行かれたはずじゃ......追い出されてしまったのですか?」
「相変わらず失礼ね!追い出されてなんかいないわ。天国に行ったら、遠い東方の国から来ている方がいて、教えてくださったの。あちらでは、夏になると亡くなった人を迎える風習があるんですって。国は違えど、同じ霊だから出来るかなーと思ってやってみたら、出来たのよ。すごいでしょ?」
「あなたや殿下がどうしているかなーって、ちょっと気になったし。
来て見てよかったわ。どう?変わりはない?刺客は来た?」
「えーと、刺客は、ちょうどイーサン様が近くにいらしたので倒してもらえました。私も少しは、応戦できたのですよ。その刺客から辿って、開戦派の貴族達をアレックス殿下が追い詰めました。今では停戦派の方が優勢です。このまま停戦が続けば、いずれ両国の友好も夢ではありません。」
「よかったわ。みんな頑張ったのね。あなたは、殿下が新しいお妃さまを迎えても、お仕え出来ている?辛くない?」
「大丈夫ですよ。以前の私とは違います。精神的に大人になりました。」
「そう、今度こそ心残りはないわ。それではもう行くわね。
元気でお過ごしなさい。」
「え、リゼット様、もう行ってしまわれるのですか?......もっとお話ししたかったのに......」
「大丈夫よ~......来年もまた来るわ~......」
霊なのにやけに元気なリゼット様の声が木霊のように響いて、やがて消えていった。
イルゼは夜空を見上げ、来年の夏もにぎやかになりそうだと、小さく笑った。




