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天空の唄笛  作者: 祥々奈々
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失踪

 Me232ギガントの仮基地は魔城への引っ越しを終えていた。

 技術班の実験室だけが残され、硝酸と赤と青の琥珀石をパウダー火薬は順調に生産されて弾丸の備蓄は進み転移前の水準に戻っていた。

 弾丸も鉛製のくさび形から先端に穴を開けたホローポイント弾ニ変えられた。

 ホローポイント弾は体内に入ってから潰れることで破壊の威力が増す。

 非人道的とされて戦場では使用されていなかった。

 この世界での相手は人族ばかりとは限らない、猛獣以上の魔獣が相手となる。

 

 戦争、殺し合いに人道や道徳などあるはずもない、いかに効率的に屠るかだ。

 「ヴォルフ大佐、もう弾切れの心配はありませんね」

 「うむ、火薬の爆発力も1.2倍程度に調整できた、あとは銃の製造が出来ればローマン帝国をドイツ連邦の異世界派遣国家とすることも可能になる」

 「実はこの異世界にも初歩的ではありますが銃が存在するようです」

 「なに!?本当か?」

 「はい、海を越えた東方の国に初期のマスケット銃を使用する国があるようです」

 「なんという国か?」

 「ロギタニ神国、通称春の国、王政の若い国で国王は初代の女王だそうです」

 「マスケット銃か、一世紀はこちらが進んでいるな、従属させることも容易いか」

 「はい、鉱物資源を多く有しているそうで好都合かと」

 「よい情報だ、いずれ総統を招いた時に異世界統一の足がかりと出来るだろう」

 

 異世界転移時の渦に巻き込まれたギガントの中で一人葉巻の煙をあげていた豪傑に見えるヴォルフ大佐の本性は小心者だ、常に自分を優位な立場に身を置いていなければ安心出来ないのだ。

 この世界でも銃という圧倒的な戦力がなければローマン帝国に汲みして対魔族戦争に打って出ることもなかっただろう。


 「デレク隊まで帰ってこないとは、樹海に相当な魔族残党勢力が残っているのでしょうか」

 「刀装備だけの魔族残党やアラタ一人に奴らが殺られるとは思えん」

 「これで十二名、それにアラタとシュワルツを加えて十四名が戦列を離れたと見ていいだろう、こんどの戦勝パーティーで更に部隊を離脱する者がでる」

 「加齢により兵士としての能力を失いつつある者もいます、部隊を維持するにはローマン兵に銃を持たせるしかなくなりますね」

 「そうだ、その時我々が軍を掌握している必要がある、部隊の兵士をこの国の貴族として徴用させ、各家ごとに私設部隊を創設させ旅団の予備役とさせる」

 「その準備が整ったらクーデターを起こして現王制を廃し、軍事国家を設立するのですね」

 「離脱兵の補充のめどはたつが、デレクたちの装備は惜しいな、なんとか回収したい、信頼できるローマン兵を派遣するか」

 

 ギガントに設置した仮本部ともいよいよお別れだ、魔城は改装されドイツ連邦異世界基地としてふさわしい物となった、魔王の間はヴォルフの巨大な執務室としたが、あまりに広すぎて寒々しい、落ち着いてから仕切りを設けようとヴォルフは考えていた。

 技術班の研究室や武器庫もギガントから全て移設する。

 あらたな部隊編成に向けて山岳旅団の準備は進む。

 「いずれ我が血統がこの世界を支配する」

 

 

 二日後に迫った対魔族国戦勝パーティーの準備も大詰めとなっている、大法務官ヨーマは会場の最終チェックに余念がない。

 調度品から賓客の導線、席順の配置、持て成す料理、酒、給仕への教育までを仕切っていた。


 ローマン帝国バルドー王も早くも現地入りし、あらたな国創りの創生となる日を心待ちにしていた。

 ヴォルフ大佐同様に将来の権力の行く末に、自身の安寧と保身のために想像を巡らしている。

 この年は夏が早かった、初夏だというのに照り付ける日差しは強くヨーマは大汗を流していた、会場は大きいが戦勝パーティーでは総勢五百人以上がバスケットボールコート二面ほどの空間に押し寄せることになる、夕刻からでも熱気は相当なものになるだろう。

 「窓を開けると虫が入ってきちゃうから荒い布で風を通すしかないわね、あと手動換気扇を増やした方が良さそうね」

 ヨーマはチェックリストを片手に巨体に似合わない機敏な動きで走り回る。

 最も重要視しているのが食材の管理だ、食材倉庫は分厚い石材で覆われた暗所で外の気温とは違い冷んやりと涼しい、サガル神山から湧き出る冷たい沢水を魔城まで水路で牽いている、倉庫内を川のように流れる沢水が室内の温度を冷やしている。

 侵略前から魔城にあったシステムだ、上下水道や道路のインフラは人族の都市よりはるかに進んでいる。

 「ほんと良く出来てるわ、これならお肉を熟成させるのにもぴったりだわ」

 切り分けた肉の箱を開けると中身がなかった。

 「!!」

 慌てて付近の箱を開けてもみんな空になっている。

 「なによ、これ、お肉が全然足りなくなっちゃうじゃない!」

 「倉庫係!ちょっときなさい」

 倉庫の門番をしていた兵士がヨーマの厳しい声を聴いて何事かと駆けつけた時、甘い匂いと共にヨーマの悲鳴が倉庫に響いた。

 「ギャアアアアッ」

 「ヨーマ様!如何なされました!?」

 門番が駆けつけた時、二の開いた空箱が転がり、大法務官ヨーマの姿は倉庫内から消えていた。

 「どこにいらっしゃるのですか?ヨーマ様、ヨーマ様ァ!!」

 水路の脇にはチェックリストと水飛沫が落ちていたことから、誤って水路に落下したものと思われたが、下流を探しても死体は一向に見つからなかった。

 大法務官ヨーマの失踪事件は事件なのか事故なのかさえ不明のまま戦勝祝勝会準備の煩雑のなか後回しに追いやられていった。


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