転生者TKH⑦
ジリジリと距離を詰めてくる。
正面のウルフルと目が合った。
お互い、相手の隙を伺う……両者に緊張が、
「ええい!もうじれったい!」
「アルト!?」
「氷槍!」
痺れを切らしたクズヤの生み出したいくつもの円錐型の氷の塊、簡潔に説明するなら少し大きめの氷柱がウルフル達目掛けて放たれた。
それらを殆どのウルフルは咄嗟に回避したものの、数体は躱しきれず、体の箇所に深深と突き刺さり更に、1体は反応することすら出来ずに脳天を貫かれ、その場に倒れる。
「……おみごと」
「ま、これぐらい当然!」
「まだ油断は禁物ですわ!」
ハルトの言葉に頷く。
ウルフルは基本、仲間を大事にしている。
今、1体を殺したことで確実に彼らは激情している。しかし、だからといって無闇に飛びかかってくることは無い。それだけ冷静で、戦闘に慣れているということだろう。
だが、今のクズヤの攻撃で厄介な、機動力を駆使した連携を封じ込めることに成功している。つまり今、まだ数が少ない内に全てを倒してしまいたい。
「出来るだけ早く。リーダー格、もしくは今負傷した奴を先に狙うぞ!」
「分かってるって!我、水の精霊との魂の契約により、大いなる水の力の欠片を欲す、氷霧!」
魔法にはそれぞれ適性があり、クズヤは水の適性がある。ちなみに俺は火で、ハルトは木だ。
そのクズヤの中級魔法。さきほどの水震が威力重視と考えるなら、これは範囲に重きを置いた魔法だ。
俺とハルトはそれを理解しているために直ぐに距離をとった。
クズヤを中心に真っ白な霧がゆっくりと広がっていく。
ウルフル達は俺とハルトに注意を払いながら、迫ってくる霧も警戒する。
これがこの魔法の悪い点だな。
範囲や効果そのものは高いが、目で見えてしまうために警戒されて対処しやすい。
「私が支援しますわ!我、樹の精霊との魂の契約により、大いなる樹神の力の欠片を欲す、蔓縛!」
が、ハルトの魔法によって負傷し動きの鈍くなったウルフルかまその場に固定された。これでもう逃げることは出来ない。
火、水、風、土、樹、光、闇。その魔法の中でも比較的難しいとされる樹の魔法。植物の成長を早めたり、思い通りに動かすという、使役魔法のような一面もある特殊な属性。
ハルト本人も原理はあまり分かっていないと言う。
固定されたウルフルに氷の霧が触れると、その部分から徐々に凍りついていく。
「恐ろしい……な」
思わず本音が漏れてしまう。
凍りついてしまった仲間の様子を見て、残ったウルフル達が更に警戒し俺たちから距離をとったがそれでもやはり、逃げるという選択肢はないらしい。
まあ、これなら直ぐに決着が着くな。
!?
迂闊だった。距離をとったウルフルの1体が唐突に遠吠えをしたのだ。
残っているのはたった3体だけだが、今ので恐らく、聞きつけた連中がすぐさま駆けつけるだろう。
そうなればまた元の数に、いやそれ以上になる。
この森の中にどれだけの数が生息しているのかは分からないが……
「やっちゃったね」
魔法を解いたクズヤが言う。
「ああ、失敗した」
「落ち着いて。ひとまずこの子達を片付けましょう」
「だな」
そう、あとは残り3体。簡単に倒せる。はずだったのに今までと動きが明らかに変わった。
攻めの姿勢から守り、逃げの姿勢に変化したことで俺たちの攻撃が当たらなくなったのだ。
やっぱりさっきのうちに倒すべきだった!
「炎球!炎球!」
狙いを定めて1匹ずつ仕留めようとしているが、かすりもしない。俺がこれ以外の魔法を選択しないのは場所が森だからだが、クズヤもいるしいっその事周りごと焼いてしまった方がはやいか?
その決断は遅すぎた。
「ゼロ!屈んで!」
突然のアルトの指示に従う。
直後、何かが俺の上を飛び越えた気がした。
3体の位置はしっかりと把握していたつもりだったが……まさか!
案の定、顔を上げると別個体のウルフルがいた。
横目で確認すると、他の新たに現れただろうウルフルがいた。
周囲の気配が多くなっていく。
間に合わなかったか……
ざっと20強だろうか、この数を相手にするのはなかなか骨が折れそうだな。
「ま、まだ余裕ですわ!」
「だね!いけるいける!」
「……」
アルトの余裕はどこから来ているのか……数が増えればそれだけ1体に割ける注意力が下がってしまう。
同じ要領でやれればいいが、まず無理だろう。
少しは覚悟する必要がありそうだな。
「とうっ!ここからは私も加勢します!」
「「「先生!」」」
俺たちとウルフルの間に先生が降り立った。しかもスタッという音が聞こえてきそうなかっこいい着地だ。
だが、今の発言が気になる。
「えっと、もしやっきまで助けに来れたのに?」
「あ、いやえーそれはですね」
図星らしい。まあ、大丈夫だと判断して任せてくれたのだろう。
逆に感謝するべきかもしれないな。
「ともかく、頼りにさせていただきますよ!」
「任せてください!命にかえても皆さんは守り抜きます!」
先生の介入によって、この場はなんとかなりそうだ。
そして、実際に
「激水!竜巻!」
「す、すげぇ」
流石は、国の中でも選りすぐりの魔法使い、そして俺たちの先生だ!
適性が水と風の2種もあるとは……しかも両方中級魔法なら無詠唱で発動させている。
激水、極太の水鉄砲いうべきか、それが彼らを吹き飛ばす。また竜巻に巻き込まれた個体が次々と宙に放り出され、それぞれ木にぶつかったり、地面に落下したりして気絶している。
直接殺しはしていないが、確実に戦力を削っている。勉強になるな。
だが、希望があれば絶望もある。
「う、うそ……?」
先生が固まってしまった。
その目の前には……巨狼が。
「ブラン……デュル……フル……?」




