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ただ私の誤算は、バイクは曲がる度に

 ただ私の誤算は、バイクは曲がる度に、こけそうになるぐらいバイクを斜めに倒れるんです。私は目を瞑って、レン君にきつくしがみ付くだけ……。


 やっと、レン君の下宿に着いたときは、握りしめた手と手をほどくのに、レン君に手伝ってもらったくらい。


 そして、両足が地面に着いた途端に腰が抜けた。嘘、信じられない! 膝がガクガクして力が入らない。

 

 そんな危ない足取りで、螺旋階段のような階段を3階まで上がるなんて……。


「しっかり支えてよ!」


 私の言葉に、後ろから抱えるように腰に手を回してきたレン君?! 


 彼がこんなに積極的なのは……、スキンシップ作戦が功を奏した?!


 今日はどこまで行ってしまうんだろう? 


 想像していたより、積極的なレン君に、私は少し不安になる。

 やっぱり、彼も男なんだ。

 

 レン君の部屋に入って、奥のベッドに視線がいく。あそこに近づくのは気が引ける。初めて来たときは、あそこに座ったのに……。


 仕方なく、座る場所も私が仕切った。


 台所の近くに座ったのは、いかにも、甲斐甲斐しく見せるためだ。


 まずは、コーヒーを……、私はバックパックを覗き込んで、水筒を忘れたのに気が付いた。


 せっかく、コーヒーメーカーで挽きたてのコーヒーを入れたのに……。


 どうしよう? 私は焦りを悟られないように平静を務めて、カバンからサンドイッチの入ったタッパーを取り出した。


 そうだ。ジュンキやコウキが言っていた。


「チュンの下宿は、俺ら自宅通学組のたまり場兼給水スポットだから。冷蔵庫にコーヒーボトルが有って、俺らいつでも勝手に飲んで良いって言われてるんだ」


 私だって、レン君の下宿をたまり場にしたい。家では親の目が在って、友達を連れて、ワイワイっていうわけにはいかないから。


 その第一歩が、ジュンキ君たちと同じようにコーヒーを勝手に飲んでも良い、気の置けない間柄になれればいいな。


「ジュンキ君たちは勝手に飲んじゃうんでしょ。だったら、私もいいよね」


 だから、軽くレン君に許可を得る。


「も、もちろん」

 やったね。言質を取ったよ。後は胃袋を掴めば、今日の目的は100%達したかな。スキンシップも十分に取れたし……。


 でも、私の作ったサンドイッチを美味しそうに食べてくれるレン君が、益々いとおしくなってしまう。


 余ったサンドイッチをサランラップで包んで、冷蔵庫に入れてあげようと台所にタッパーを持っていく。


 台所では、この先について何も考えていなかったのを思い出した。


 このまま、帰ってしまうのはあまりにもったいないよね。やっと、現実に会えたのに……。


 初めて下宿をお邪魔した時、ビデオを見ていたよね。ここにはビデオがあるんだから、DVDだってあるに違いない。内容は問わないわ。映画鑑賞と行きましょうか?


 適当にタイトルを言って、テレビ台の引き出しを開けてDVDを探してみた。


 うんうん、背中に視線を感じる。腰からヒップのラインにレン君の視線は釘付けね。

 レン君はこの間の俳優の前作のDVDを進めてきた。


 元々、何でもよかった私はその意見を採用して、DVDを再生器に突っ込み、レン君のすぐ隣に、むりやり腕を取って、肩をクッション代わりにもたれかかって座った。


 そんな息の掛かる体制で、レン君の顔を見上げる。

 私の視線に気が付いているはずなのに、レン君はまっすく前を見てビデオに集中しているふりをしている。


 そんなふうな素振りを見せても、私を気にしているのは手に取るようにわかる。

 レン君にぴったりくっ付いて、私を意識してくれている。


 この雰囲気がとても愛おしい。だって私たち付き合っているのに、私はレン君との距離を感じている。


 恋愛に慣れてないから、恥ずかしくてギスギスするのは分かるけど、警戒されるのは意味が分からない。


 私がレン君を意識しないようにすれば……、ってどうすればそんなことができるのよ。

 

 私はレン君の視線をたどって、テレビ画面にたどり着いた。このビデオに集中するんだ。


 場面はちょうど、乱暴されそうな女の人が主人公のカンフーで助けられるところだった。

 こ、これは、私とレン君の運命の出会い。


 もちろん、妄想です。そんな事実はありません。でも、そんな妄想が私を物語に感情移入させてくれるはず……? 

 

 私の考えは正しかった。私はすっかり物語にのめり込んで、際どいベッドシーンに釘付けでした。


 うーん。体が熱くなってきた。ちょっと女優さんに感情移入しすぎたみたい。意識を戻さなくちゃ。なのに……、私が自分の体に帰ってきても、胸のほてりが取れないのはなぜ?

 

 私の胸が誰かに揉まれている?! えつ、誰に? これは現実?! 


 そう、現実を見つめると、間違いなく、レン君に胸を揉まれているの……。


 ちょっと待って、胸を揉まれたことなんて今まで無かったはず……?


 そこで、私は掘り起こされた記憶に身震いする。


 元彼に舌を絡ませたキスで頭がボーっとなった時、唇が離れて、現実に戻ってきた時、胸に感じた違和感。それは元彼が胸を揉んでいたの。


 ワイヤー入りのブラでガードしているから恐る恐る触ってくる分には、かすかに感じる程度だけど……。


 あの時、驚いて元彼を突き飛ばして……。年上のあの人は私の剣幕にあっけにとられ、謝って来たけど……。


 私は許せなかった。同級生にはない包み込んでくれるやさしさとガツガツしない私を大事に思ってくれる余裕を年上のあの人に求めていたんだから……。


 結局、この時の出来事が原因で私たちは疎遠になった。

部の先輩が私が憧れていた大学に入学したのをきっかけに、私は交際を申し込んで、そのまま、付き合うようになった。


想像通り、知的で優しい先輩に勉強を教えてもらったり、デートしたり……、そんな状態が半年ほど続いていた。カラオケボックスで、いつものようにイチャイチャしながら濃厚なキスをして、何度も繰り返すうちに、頭がボーっとして……。


――学習しないな、私……。


こんなにびくびくしながら触ってくるんだから、私が気が付いたってわかったら……、私なら恥ずかしくて、二度と会いたくないと逃げ出す自信がある。


 そんなことにならないようにこの場を収めるには……。


 キスしかない。最初は勘違いでパニックになったけど、触られたことが無いというのは私の記憶違い。キスしながらなら胸揉まれたことあったし……。


 ジュンキ君に言われた「チュンは異性と付き合ったことが無いと思う。だから、アマネがリードしてあげて、そうでもしないと、付き合っているって言うのは有名無実になると思う」って、どれだけ私は経験豊富なのよ!!

 

 毒づきながら、私はコンマ2秒でシミュレーションを完了した。


 男好きする表情かおにスタイル。好意を誘導する仕草は、テレビ界のプロのお墨付きだ。


 私は座っている上半身だけ、レン君の方に捻り、胸の上にある手を二の腕にずらして、二の腕を握らせる。そして、二の腕を握られたその腕はレン君の胸に当てて、上目遣いでレン君の顔見つめてみた。


 この角度が大事。そして、私の行動に私を見たレン君の目と合った途端、目を閉じて、唇をすぼめる。


 どうですか? 誘われるでしょ?! レン君!!


◇ ◇ ◇


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