ディナー
「それって」
「うちの販売価格が420万円、これはおやじさんのやつ借りて来た」
バッグから男物の黒い財布を出して亮に渡した。
「何これは?」
「これだけのスーツを着てお尻に財布はないでしょう。
これも借り物のボッテガヴェネタ、この皮を編みこんだ。
イントレチャートは一目で分かるから、ほら内ポケットに入れて」
「中身は?」
「30万円入っているよ、クレジットカードのblackも使う事は無いでしょうけど」
「ありがとう」
「オーダーは支配人におまかせにした方が良い、テーブルマナーは大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「チェックはテーブルでするんだよ、レジでするなんてみっともないからね」
「わかった」
「そうだ、テーブルはさっき言っていた悪ガキどもの隣にしたからね」
「はい、ありがとうございます」
そこへ良子が黒いレースのミニドレスに着替えてきた。
「秋山さん素敵ですね」
亮が言うと秋山は顔を赤らめた。
「團君も素敵」
良子は亮を見て顔を心臓がドキドキするのが分かった
「秋山さんのアクセサリーはピアジェで統一したわ。もちろんレンタルだけど」
「ありがとう」
亮と良子が礼を言うと美佐江は携帯電話で二人の写真を撮った。
「お二人さんお似合いのカップルだね」
美佐江が微笑んだ。
「ねえ、團君」
「はい」
「どうして、お姉さんがこんなに一生懸命してくれるの?」
「シンデレラの魔法使いになった気分じゃないですか?」
「魔法使い?」
「ええ、ここへ来ればシンデレラになれる・・・ははは」
亮の言った言葉は、後に美宝堂の若者向けのキャッチフレーズになった。
「秋山さん、あなたは今数百万円の物を身につけているの
それは、ブランドと言う魔法の鎧、自信を持って行って」
「はい、ありがとうございます」
良子が丁寧に頭を下げると
二人が美宝堂ビルの8階のローラン・ギャロスに向った。
「秋山さん、これ」
亮は箱が入った紙袋を渡した。
「なに?」
「別に秋山さんのくれたチョコレートに不満じゃないんですよ。
あれは後でじっくりいただきます」
「あっ」
袋の中を覗いた良子が声を上げた。
「ル・フルールのチョコレートです。これを二人の前で
僕に渡してください」
「はい」
亮のいった意味が分かった良子は微笑んだ。
「バレンタイン限定50箱、超レアなチョコレートです」
「あっ、知っています、1つ1000円のトリュフ」
「ええ、毎年姉たちに貰うこれがバレンタインの楽しみなんです
一緒に食べましょう」
「はい」
良子はニッコリと笑った。
亮たちがローラン・ギャロスの入り口に立つと
支配人が亮の顔を見て深々と頭を下げた。
「お待ちしておりました、團さま」
支配人が二人を案内すると
凛とした青年と美しく着飾った女性が他の客目を引いた。
亮たちの席の隣には高田と川野が座っており二人は亮たちに気づかず
メニューを見ていた。
そこへソムリエの立川やってきた。
「團さま、ワインは何になさいましょうか?」
「すみません、アルコールはまだ飲めないので」
亮が断ると良子は嫌な顔をしていた。
「失礼しました、ではノンアルコールのシャンパンをお持ちします」
「團君、ワインは飲まないの?」
「はい、まだ未成年ですから」
「私も未成年だけど、良いじゃない」
「駄目です」
亮は頑固に断った。
亮と良子の二人がもめていると高田と川野が
それに気づき高田が亮の前に立った。
「なんだ、お前たち付けてきたのか?」
「いいえ、このお店は付けて来たからと言って
予約なしでは入れません。
それにあなたにお前呼ばわれる言われはありません」
高田は返事が出来ずムッとして席に戻った。
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「なんだあいつら」
高田はイライラしていた。
「きっと急にキャンセルが出たのよ」
「でも奴らずいぶん着飾っていたぞ」
高田は亮のアットリーニのスーツ、IWCの時計に気づいていた。
「どうせ借り物よ、貧乏人が。それより無視しましょう。
せっかくのおいしい料理がまずくなるわ」
「うん」
二人はワインで乾杯をした。
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亮の元にノンアルコールシャンパンが注がれると
良子はル・フルールのチョコレートを亮に渡した
「ありがとう」
その声で川野の目が亮達のテーブルの上に
向き、一瞬川野の目が大きくなった。
亮はすかさずウエイターを呼び頼んだ。
「すみませんこのチョコレートでデザートを」
「おお、ル・フルールのチョコレートですね。かしこまりました」
ウエイターはチョコレートを持っていった
その見ていた良子は不思議そうに亮に聞いた。
「いいんですか?チョコレートをデザートなんて」
「はい、ここのパティシエがル・フルールをやっているんです」
「ええ?」
そのやり取りを見ていた高田と川野は落ち着かなかった。
「あはは、あいつら馬鹿じゃないか、ここのパティシエに失礼だ
まったく貧乏人はマナーを知らない」
「そうね、秋山さんも無理しちゃってル・フルールのチョコレートなんて」
「どうせ、中身は限定品じゃないさ」
「そうね、限定品なんか無理だわ」
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亮と良子の二人は乾杯をして食事を始めると
良子は高田と川野の様子を見て微笑んでいた。
「あの二人ずいぶんイライラしているわ
あんな顔を見るのを初めて」
「少しは効果有ったようですね、高田さんに他の女性は?」
亮は高田の醸し出す雰囲気で女性にもてそうな感じだった。
「いるわ、携帯電話のアドレスたくさん女性の名前があったから」
「でも今の所、彼女が1番良いわけですね」
「そうね」
次々に運ばれる料理に満足な顔をして良子は亮にプライベートの話をした。
「團君の趣味はなあに?」
「僕は読書と映画鑑賞です」
「どれくらいの本を読むの?」
「あの図書館の本は半分くらい読みました、映画は週1回」
亮が笑うと良子はそれが冗談だと思って笑った。
「團君は医学部よね」
「いいえ、薬学部です」
「え?お医者さんになるんじゃないの?」
「変更して薬学の研究者です」
「そう。二人の前で言わなくて良かった」
良子はそうつぶやき、医者の團亮と付き合って
高田の鼻をあかしたかったが研究者と聞いてがっかりした。
「研究者って製薬会社で働くんでしょう」
「はい、製薬会社の新薬の研究の方を目指しています」
「そうなんだ、給料はいいの?」
「うーん、新薬のほとんどが共同研究なので、特許料は入ってこないでしょう」
「そうなんだ」
良子はレストランで未成年だからと言って
ワインも飲まないような堅物との付き合いは
高田と比べてあまり楽しくないような気がしていた。