第四フロアは譲れない件について 1位と5位
【キャンドルシティ】
夜の帳が下りた『キャンドルシティ』。
ほとんどのプレイヤーが眠りについたであろう深夜の時間帯に似合わない美しさと気高さを纏った少女がいた。
《魔王》の《称号》を持ち、黒い鎧に見を包んだ序列1位YAIBA。
《神姫》の《称号》を持ち、紫の装束を靡かせた序列5位のシノブ。
「では始めよう」
「・・・うん」
合図はなかった。
システムに守られているためHP全損はない。
だが、彼女達にそんなことを気にしている節はない。
今、彼女達の中にある感情は1つ。
ーーー目の前の相手に勝ちたい。
序列による順位はついている。
にも関わらず彼女達の顔に決着がついているように見えないのはお互いを認めているから。
「・・・・・」
「・・・・・」
開始から【スキル】を使用しない十数秒。
見えない剣筋が脳内で繰り広げられ、相手の手を読み合い、そして期は満ちた。
「・・・【スキル:神速】!」
出し惜しみなどなかった。
速度という一点はシノブが唯一YAIBAに勝る武器。
「本気ですね。では陸の型 観音白雪・白虎」
水を打ったような波紋と静寂が辺になる満ちる。
『観音白雪』の効力は身体能力を向上と気配探知。
一定空間内の揺らぎを感知して相手の居場所を把握するものだが、
「これが狙いでござるか」
YAIBAの感知は揺らぎの発生源から相手の位置を把握するというもの。
足が地面に触れた際の土煙や振動、音などの要因をキャッチして発揮されるそれを、シノブは神速を用いて何度も地面を踏みしめて撹乱することで感知する情報量を増やして紛れた。
何度も踏みしめれば、おのずと移動距離や披露が溜まるが【スキル】によるアシストがそれを可能にする。
「まさにゲームの闘い方でござるな」
「・・・本気で来ないと終わるよ」
シノブが『所持項目』を操作してアイテムを手にして投擲。地面に落ちて砕けた硝子玉は閃光を放ち、咄嗟に目を瞑ってしまったYAIBAはシノブの速度を警戒して気配を探るが、
「ーーーっ!?」
今度は小さな爆発音が耳元に届く。
そして目を開くと薄い爆煙が目を刺激し、再び目を閉じさせる。
(目と耳、さらには感知まで封じてきたでごさるが、問題はまだ一度も攻撃を当てに来てない)
「拾壱の型 白刃雪鼠!」
YAIBAを中心として吹き荒れる刃の嵐。
見えないほどの速度でいかに迫ろうが通過するときにダメージが与えられる。
そして通過時に乱れた部分を『陸の型 観音白雪』は見逃さない。
「捌の型ーーー」
待ち構えるように居合の構え。
陣を敷き、万全の状態で後の先を取ろうとするYAIBAはあらゆる方面でトップクラスのゲーマーだ。
推理、FPS、格闘、横スクロール、縦スクロール、RTAなどなど。
高い水準のオールラウンダーといえば聞こえはいい。
このゲームにおける位置づけが1位なのはそれを裏付けている。
だが彼女自身はこれに納得していない。
考察では《賢者》に劣り。
速度では《神姫》に届かず。
発想では《魔弾》に及ばない。
心のどこかで呪いのように縛りつける感情が劣等感すら抱かせていた。
刃の嵐を貫く気配。
そこに向かって最速の抜刀。放たれた銀色の朱雀がその先にいるであろう相手をめがけて真っ直ぐに飛んでいく。
「・・・終わりだよ」
首筋に当たる冷たさ。
勝負はあれだけ周到に用意したにも関わらず勝負は引き分けになった。
嵐を抜けてきた刀は力を失い地面に落ちたのと同時に、次の瞬間にはYAIBAの感知をすり抜け背後に回り込んでいた。
首筋に当たる冷たさ。
「引き分け、でござるか」
「・・・そうだね」
シノブの脇腹に氷の剣が当たっていた。
咄嗟に『漆の型 霜突・牛鬼』を発動させ、それが運よく当たっていただけ。
YAIBAは実力では勝っておらずシステムに助けられ、シノブは不意打ち混ざりの必勝を引き分けにまで持ち込まれた歯がゆさから拳を握りしめる。
そんな光景を遠くから見ていたレイン、ドラゴン、そしてソラ。
「これを僕に見せてどうしろと?」
「言わなきゃわからないか?」
「さぁ?」
「手の内を晒せよ。『夜桜』6人目は誰だ」
レインの質問にソラは一瞬眉根を寄せたが、
「隠し事をしているのは僕だけじゃないだろ。このまま爆弾を抱えて、また彼女を傷つける気か?」
「は?何わけ分からないこと」
「邪魔だな。【帰還】!」
不審に思うドラゴンがその場から姿を消す。
ソラの手に握られていた一枚の紙片。
「【EXA:不在の免罪符】。あらゆる状況下において対象1人を強制的にログアウトすることができる。秘密の話をしたいときには使えるし緊急の脱出手段になる。僕にとってはあまり意味ないけどね」
彼の【スキル:座標移動】は次元を割断するだけでなく、移動手段においては最強の代物。
レインが《黒龍》戦で触れた際に《賢者》の権限で確認できた能力は指定した場所への転移すら可能とする。それがあれば脱出手段はいらない。
「これがあればどんなに窮地でも1人を逃がすことができる。僕の話を呑んでくれるならこれをあげてもいい。どうする?」
「なぁ?お前らが俺に固執する理由って何だ?」
「どんな形であれお前に救われたからだよ」
「は?」
「ゲンも目をかけてたからし、どうせ君は第6フロアまでに決断しなくちゃいけないんだ。早いほうが傷も浅いだろ」
「ハッキリ言えよ!」
「ナツキを殺せ」
ソラが告げた一言。
その真意をレインが知るにはまだ早い。
そしてどう時刻、彼は現実世界で自身のパソコンに秘められた鍵が開けられたことにまだ気づいていない。




