第1話 どうやら異世界らしい
「何処だここは?」
目覚めると其処は森の様だった。昨夜は新人の歓迎会で飲み過ぎたようで記憶が曖昧だ。確かタクシーで自宅まで帰ったと思うんだけど…
服は仕事で着ているスーツ、ネクタイはないっと思ったら上着のポケットに入ってた。持ち物は、財布と手帳にボールペン、シャチハタ。スマホは圏外だ使えねぇ!ってか圏外地域なんて飲み会会場付近にあったか?磁場とかの関係なのかな?
一先ず道に出よう。現在地が分からない。
俺は取り敢えず歩き出した。
歩いた。
歩いた。
歩いた。
たまに走った。
疲れてまた歩った。
道がねぇ……
何処だよ此処⁉︎
「グァ!」
動物の鳴き声がしたので振り返ると巨大な熊?がいた。
熊⁉︎ってかデカくないか⁉︎ガキの頃動物園で見たヒグマの倍はあるぞ⁉︎って本州にヒグマいたっけ?ツキノワグマじゃなかったか?ツキノワグマってヒグマより小型だった気がする……って今はそんな事考えてる場合じゃねぇだろ⁉︎
熊は此方の様子を伺っているようだ。
こう言う時は死んだふり!ではない。熊は死肉も食らうので死んだふりって言うのは迷信だ。相手から目をそらさずゆっくり後退りするのが正解。振り返って逃げようものなら追ってくる。熊は確か時速40kmで走れたはずだ。木登りも得意だったはず……
俺はゆっくり後退りする。
パキッ!
うっかり枝を踏んでしまった!
「グォー!」
熊が此方に向かって走り出した!こうなったら悠長に後退りなんて言ってられない!俺も全力で逃げる!
「チクショー!」
全力で走る!疲れたなんて言ってられない!止まったらやられる!止まらなくてもドンドン距離が縮まってくる!しかし、相手は巨体。熊が通れなさそうな気の間を選び逃げる!熊は迂回するので若干距離が稼げる!
走る!
走る!
走る!
疲れたけど走る!
死にそうだけど走る!
走らなければ死ぬからな!
道が見える!
道に出る!
ってか道路じゃねぇ!補装されてない土の道だ。山道がなんかか?
取り敢えず道を走る!
熊はまだ追ってくる!
「グォー!」
しまった!障害物がないから追いつかれそうだ!また森に入るか?
しかし、その時前方に馬車が見えた!剣を持った男性8人くらいが馬車を取り囲んでる!
なんで今時馬車が?ってか剣?銃刀法違反じゃねって普通に考えたらなんかの撮影なのかな?って今はそれどころじゃない!
「助けて下さい!」
大声で助けを求めた!
「グォー!」
熊も吠える!
「グ、グリズリー⁉︎」
男性の一人が声を上げた!グリズリーって灰色熊だっけか?日本にいないよね確か?間違いじゃね?もしかして撮影で使うのが逃げたのか⁉︎なら調教師さんとかいません?麻酔とか用意してあるよね?
「た、助けて下さい!」
命からがら男達に助けを求め、馬車の場所まで走る!
しかし、男達は馬車を放置して逃げ出した!
なっ!なんで⁉︎
熊、改めグリズリーはもう目の前まで迫っている!
あぁチクショー!
悪あがきして馬車の中に入って身を潜める!息を殺していると、なんとグリズリーは先程の男達を追っていってしまった。
助かった……安心すると共に罪悪感が襲って来る。俺が連れて来た熊に男達が襲われそうになっているのだから…しかし、彼等も俺を見捨てたのだから仕方ないと自分に言い聞かせた。
「あのー?」
ん?人が居たのか?
「あっ!突然すみません。驚かしてしまいましたよね?」
声がする方を振り向くと20歳前くらいの女性がいた。銀髪で小柄、可愛らしい顔している。……ただ、耳が犬や猫の様に尖って毛に覆われている。よく見ると尻尾もある……黒い首輪をはめて、白い少し透けるワンピースを来ている。下着は付けていないようだ。いや、見えたのは不可抗力だからな!透けるワンピースを着ているのが悪いんだ!…如何わしい撮影だったのだろうか……
「申し訳ございません!」
慌てて俺は顔を背ける。
「どうかなさいましたか?それよりありがとうございました。貴方がグリズリーを連れて来て下さらなかったら、あの盗賊達になにをされていた事か……」
盗賊?役だったのかなあの男達は。あれ?この娘、俺も出演者だと思ってる?……このまま黙ってたらお礼にムフフってなるシナリオだったりするのだろうか?チョット興味あるぞ、まぁしないけど…
「私は出演者じゃありませんよお嬢さん」
うん、ハッキリしとこう。この後仕事だし、早く帰ってシャワー浴びて準備しなくては。最悪スーパー銭湯だな!
「出演者?なんですかそれ?」
あれ?撮影じゃないの?
「これ、撮影なんですよね?勝手に入ってしまって申し訳ございません」
「撮影?なんの事です?」
あれれ?まっまさか⁉︎素人ドッキリか⁉︎
「…ドッキリですか?」
「ドッキリってなんですか?失礼ですが、さっきから言ってる意味がよく分からないのですが…それより、助けて頂いて本当にありがとうございます。私はイリムと言います」
「あ、これはご丁寧に。私は松本 徹と申します」
「マツモト・トール様。マツモト様は貴族様ですか?」
貴族なんている設定なのか?なんか凝ってるな。
「どうして、そう思われるのですか?」
「家名がありますし、御召し物が上等な物に見えます」
家名って苗字か。スーツが上等ねぇ。時代設定は中世って感じかな?
「マツモトが家名でトールが名前なので気軽にトールとお呼び下さい。それと貴族とかではありませんよ。所で此処は何処でしょうか?気付いたら森にいたのでよく分からなくて…」
「分かりました。トール様とお呼びしますね。気付いたら森にって……よくご無事でしたね…森にはさっきのグリズリーのように魔物が多数いるんですよ?」
「あはは、運がよかったんですよ」
魔物がいるのか。ケモミミだしファンタジーの設定だな。
「此処はヴニアの街と王都を結ぶ街道ですよ」
………まさか
「日本ってご存知ですか?」
「いえ知りません」
「地球って分かります?」
「知らないです」
「耳触っていいですか?」
「……ちょっとだけですよ……」
許可を取ってケモミミを触らせてもらう。うん、暖かい。これマジなやつだ。
どうやら異世界らしい