第2話大和、全裸で走る
「あのおっさん…無理やりすぎんだろ…」
俺が意識を取り戻すと、草原の中にいた。俺はふと立ち上がった。自分の足で
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
俺は叫んだ。無性に叫びたくなったからだ。いつ以来だろうか自分の足で立てたのは。俺は嬉しくなって無意味に走った。走っても走っても疲れない。なんて素晴らしいのだろうのか!いつも間にかおっさんに対する文句はなくなっていた。自分の力で立てる走れる。この事実だけで俺はこの世界でなんでもできる気がしてきた。しばらく走っていると、馬車が見えた。馬車の周りにはたくさんの人影が集まっており、様子がおかしいのだが、俺は危機感もなく馬車に向かって走っていった。
「命が惜しかったら荷物をよこしな!!」
斧や短剣を持った男が馬車を襲っていた。おそらく強盗の類であろう。馬車に乗っていた人たちが怯えている。
「よし…静かにしていればいいんだ。さあ!金目のものをだしな。」
リーダー格の男が指示する。今日もうまくいった、これで飯が食えると考えていたら、何か異音が聞こえた。何かが走ってくる音。まさか魔牛の群れがここに向かってきてるのか?と考え、後ろを向くと人間の男が走ってきた。全裸な上、ものすごい勢いで。
「うぉおおおおおお!!」
走ってきた男は大きな声を出しながら真っ直ぐに強盗のリーダーに向かってくる。目をよく見るとどこも見ていない。
「ヤバすぎんだろ!野郎どもあの変態を止めろ!」
強盗のリーダーが仲間に支持する。仲間たちも流石に声には気づいていたのか臨戦体型を取る。だが、全裸の男は止まらない。
結果から言うと、全裸の男は止まった。男を止めようとした強盗団全員の意識と引き換えに。全裸の男とは望月大和のことである。走っているうちにトリップしてしまい、気づいたら全裸で馬車の前にいた。馬車の中にいた人達は恩人が変人で固まってしまった。その硬直を解いたのは大和の叫びだった。
「うわあああああ!!やってしまったああ!!」
大和は大事なところを手のひらで覆いながら、うつ伏せになってしまった。
「いやー助かりました。この商品が持って行かれたら私達は破産してましたよー」
ふくよかな体型の商人が俺に話かけてくる。
「いや、よく覚えてないですけどー助けられたみたいなら良かったです。服だけでなくご飯まで頂いてすいません」
「いやいや、恩人の方には当然のことです。そういえば冒険者の方ですか?それにしては荷物がないようですが…」
「まあ…冒険者みたいなものですね。荷物は置き引きにあってしまってないんですよ…。よかったら近くの街まで載せていってもらえませんか?」
荷物なんて最初からなく、全裸でしたなんて言えないので、適当に嘘をつくことにした。異世界から来ました!なんて信じてもらえるわけもないし。
「置き引きですか…それは運がありませんでしたね…では近くの街まで送りましょう!お礼言ってはなんですが、私たちが滞在するしばらくの間、寝床と食事も提供しましょう」
「助かります!いやー商人さんに会えなかったらどうなっていたことやら…」
「いえいえ、私も助かりましたし、そういえば冒険者さんの名前は?」
「俺の名前は望月大和です。よろしく!」
「ヤマトさんですか…私はショニといいます。短いあいだですがよろしく」
俺たちは握手をした。街にさえつけばおっさんの言ってたギルドに行けるだろう。ギルドというからには依頼をクリアしてお金を稼げる。無意識だが、盗賊を蹴散らしたほどの身体能力だ。この健康な体があればいけるはずだ。と打算的なことを考える。
(これだけの力がある人に出会えるとは…今のうちに恩を売っておいて損はないだろう。)
ショニは目の前の大和を利用できないかと考えていた。
(これほどの身体能力があれば護衛、商品調達…暗殺でもなんでもできるだろう…もしギルドに登録するなら贔屓にできるよう手を売っておかなければ。今できた縁を切るようなことはできないな…)
大和の身体能力は異常だった。盗賊の振り回した斧があたっても怪我どころかよろけさえせず、走ってぶつかるだけで面白いように人を弾き飛ばした。魔法を使用していたかはわからないが、あれだけのことができる人間はそういない。いつかは自分の手元に置いておきたい力だとショニは考えた。
いろいろな考えを載せながら馬車は街に着く。
大和の冒険はこの街から始まることになる。