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【第二章 あの日の続き】 第10話 再会

第一章をお読みいただき、ありがとうございました。


突然異世界へ放り込まれた十五歳の少年・蒼汰。


生きるために剣を握り、傷つきながらも、さまざまな人との出会いを重ねてきました。


第二章『あの日の続き』では、そんな蒼汰の新たな日々が始まります。


剣と魔法だけではない、異世界での暮らし。


誰かと笑い合うこと。


誰かを大切に想うこと。


そして、あの日から続いている、それぞれの物語。


第一章とはまた違った蒼汰たちの姿を、楽しんでいただけたら幸いです。


「蒼汰に話したかったことがあるの」


 美桜が、真っ直ぐ僕を見つめていた。


「ちょ……ちょっと待って!」


 思わず声が裏返りそうになる。


「美桜、本当に美桜なのか?」 「……え?」


 美桜の目が丸くなった。


 その顔も、声も、ずっと知っている。  何度見ても、美桜だった。


 なのに、信じられない。

 ずっと帰りたいと思っていた元の世界にいるはずの美桜が、どうしてここにいる。


「…………」 「…………」


 どちらからともなく黙り込んだ。


 美桜の唇が震える。


「わたし……蒼汰が橋から落ちて……」


 そこで声が途切れた。  目に溜まった涙が、頬を伝って落ちる。


「……美桜」


 名前を呼んだだけで、僕の視界まで滲んだ。


 生きてる。  美桜がいる。  目の前にいる。


 気づけば、すぐ近くに美桜の顔があった。


 どちらからだったのか分からない。  僕は美桜を抱きしめていた。


「蒼汰……っ」


 背中に腕が回る。


「う……っ、うぅ……」


 声を抑えようとしても、止まらなかった。

 美桜も同じように肩を震わせている。


 何も言えないまま、ただ二人で泣いた。


「ミオ! 大丈夫かい?」


 店の奥から声が飛んできた。


 僕たちは慌てて身体を離す。


 顔を出した店主の女性が、涙に濡れた美桜を見て足を止めた。


「あ……はい!」


 美桜が慌てて袖で目元を拭う。


「故郷の友人に会えたので……仕事中にすみませんでした!」

「す、すみません。お店の前で……」


 僕も頭を下げた。


 女性は僕と美桜を交互に見て、それから笑った。


「二人とも、店はいいから奥の部屋使いな」 「でも……」

「せっかく会えたんだ! 話せるだけ話してきな!」


 美桜が一度、僕を見る。  まだ目を赤くしたまま、小さく笑った。


「……ありがとうございます」


 僕も、もう一度頭を下げた。


 奥の部屋には、小さな机と椅子が二つ置かれていた。


 向かい合って座ったものの、何から話せばいいのか分からない。


 美桜も同じなのか、泣き腫らした目を指で拭いながら、困ったように笑った。


「はは……蒼汰に会ったら、いっぱい話すことあったのに……なんでだろ。全然言葉が出てこないや」

「……僕も」


 聞きたいことなら、山ほどある。


 それでも最初に口から出たのは、一番分からないことだった。


「美桜は……どうしてこの世界に?」

「うん。蒼汰がさ、橋から落ちて……わたし、夢中で川に入って探してたんだよ。そしたら――」

「バカ! なんでそんなことしたんだよ!!」


 思わず立ち上がった。


 美桜がびくっと肩を揺らす。


「だって、蒼汰が落ちたんだよ!?」

「だからって美桜まで入ることないだろ! もし流されたらどうすんだよ!」

「……ごめん」


 美桜が小さく肩をすぼめる。


「でもね、あのあとほんと大変だったんだよ。消防や警察まで来ちゃって……」

「……金田たちは?」 「あいつら?」


 美桜の表情が少し曇った。


「うん……めっちゃ泣いてた。金田なんか『俺も落ちて探す』とか訳わからないこと叫んで暴れるし……」

「……そっか」


 それ以上、言葉が出なかった。


 あの金田が人目もはばからず泣いている姿なんて、想像もできない。


 僕は膝の上に落としていた視線を、ゆっくり美桜へ戻した。


「あと……蒼汰のお母さんも来て……」 「あ」


 美桜の声が途切れた。


「……母さんが?」 「…………うん」


 美桜が俯く。


「ごめん……」 「え?」

「わたしが子供を助けようとなんてしなかったら……蒼汰が橋から落ちることもなかったのに」


 膝の上で、美桜の手が強く握られる。


「蒼汰のお母さんも、あんな……」 「美桜」 「……ごめんなさい」


 僕は何も言えなかった。


 あの日、雨の橋の上で身を乗り出した美桜の姿が浮かぶ。

 それに重なるように、あの村の橋から落ちた小さな身体が頭をよぎった。


 怖かった。  それでも、放っておけなかった。


 少し黙ってから、僕は口を開いた。


「……子供、助かったんだろ?」


 美桜が顔を上げる。


「うん。ちゃんと助かったよ」 「……良かった」


 美桜の握っていた手から、少しだけ力が抜けた。


 そのとき、部屋の外から足音が近づいてきた。


「ソウター? あんた、お店で待っててって言ったのに、なんでこんな奥に――」


 扉から顔を覗かせたレティシアが、僕の向かいに座る美桜を見て止まった。


「……ん?」


 美桜もレティシアを見る。


 レティシアが首を傾げた。


「誰?」


 その頃――店の前。


 ヴァルハイドは腕を組んだまま、通りを行き交う人々を眺めていた。


 黒い重甲冑を避けるように、人も馬車もその前を通り過ぎていく。


 しばらくして、ヴァルハイドが店の扉へ視線を戻した。


「……遅い」

End_is_Zéro_Project

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