二十五 チコの新たなる暮らしと変なお嬢様の事
チコは今は、お嬢様の家でお世話になってるニャン。あれから、お嬢様と出会ってから、それと、変な獣になってた聖と再会してから、一か月くらいが経ったらしいけど、チコは、お嬢様のお陰で、毎日、今みたいに、暖かいふかふかの寝床で寝られてて、食べるにも困らなくって、最高に幸せな日々を送ってるニャン。
この生活に、少し不満があるとすれば、お嬢様が、勉強を押し付けて来る事ニャン。チコは、神様に知識とか知能を授けられてるから、本当は勉強なんてしなくても良いんだけど、こっちの世界の事は全然分からないし、勉強をするとお嬢様が喜ぶから、しょうがないから、付き合ってやってるんだニャン。
「クゥゥ~ン。キュゥゥゥ~ン」
んあ? 聖が起こしに来たんだニャン。さてニャン。今日も一日ダラダラと過ごすんだニャン。
「聖。ありがとうニャン」
「キュルルルル~ン」
聖がチコの寝ているベッドの上に前足を乗せて、顔を近付けて来たんだニャン。
「ペロペロは駄目ニャン。お前にペロペロをされてると、お嬢様がなぜか卑猥ですとかなんと言って、嬉しそうにしながら、怒るんだニャン。だから、ペロペロは、駄目だって言ってるのにニャン」
一か月で聖は凄く大きくなったんだニャン。あの出会った頃のコロコロとしていて小さくってかわいかった聖の事なんて、想像できないくらいに、育ったんだニャン。
「チコ様~。チコ様~。朝ご飯の時間ですよ~」
お嬢様が来たんだニャン。
「ベッドから離れるニャン。こ、こら、ニャン。遊んでるんじゃないんだニャン。駄目ニャン。ベッドの上に乗ったら」
「チコ様~? またお寝坊さんですか~? お返事がないので、ドアを勝手に開けてしまいますよ~? チコ様?! なんて、事を……? そんな、チコ様。いくら聖様を愛してるからって、お二人は、今は、違う種族。そんな、いけません。卑猥です。……。けれど、はふぅん。妄想が捗ってしまいますぅ」
出たんだニャン。これだニャン。お嬢様は、こんなふうな、変な、お嬢様になる時があるんだニャン。
「お嬢様。なんて、はしたない。いくら、お嬢様が、異種族間恋愛モノが、三度のお食事よりも好きだと言っても、これはいけませんぞ。相手は大切なお客人であり、家族である、チコ様と聖様ですぞ。そんなお二方のご様子を見て、そんなふうにはしたなく興奮するだなんて、このセバソ、情けなくって涙が出て来ますぞ」
ま~た始まったニャン。この二人はいっつもこんなニャン。でも、仲が良くって、見ていて楽しくって、嬉しくなるんだニャン。
「私は、興奮なんてしてはいません。いくらセバソティアンでも、そんな失礼な物言いは許しませんよ」
「お嬢様、涎。涎」
「は?! 私とした事が、ついつい、チコ様と聖様のイチャイチャを見ていると、ジュルリ。こら! セバソティアン。涎なんて出てないじゃないですか! 何をさせるんですか!!」
聖がキョトンとした様子で、二人を見始めたんだニャン。
「聖。いつになったら、言葉を喋れるようになるんだニャン? 今でもチコは満足だけど、折角、チコはこんな姿になれたんだニャン。できれば、あの裁判所での時みたいに、聖とお話がしたいんだニャン」
そうなんだニャン。聖は、人間だった頃みたいに、お話ができないみたいなんだニャン。堤防で会ってた頃、チコは、何度も思ったんだニャン。聖とちゃんとお話ができたらってニャン。チコは鳴けたし今の聖もそうだから、意思疎通は、ある程度はできてるけど、やっぱり、お話をするっていうのは、違うんだニャン。それを、その楽しさとか喜びとかを、あの裁判の時に知ってしまったんだニャン。再会できて嬉しいし幸せなんだけど、これだけは、とっても、とっても、寂しいんだニャン。
「これです。この、やり取りなんです。これが、てえてえのです。これぞ異種族間恋愛の醍醐味。言葉の壁などで、意志疎通が難しい二人が、それでも、心を通じ合わせようとする……。は?! 私とした事が。チコ様に見られているのに。これ以上は、いけません」
「そうですぞ。お嬢様。脱線が過ぎますぞ。そんな事よりも、今日は、例の物が、もう届いているのですぞ」
「そうでしたわ。しっかりしないといけませんわ」
お嬢様が、頭をぶんぶんと左右に振ってから、何やら、背筋を伸ばすと、顔を、真剣な顔にしたんだニャン。
「こんな事を、いえ、これはこれで私にとっては、大切な事なのですけれど、今日は、それよりも大事な要件がありました。今日は、チコ様に会って頂きたい、ええっと、人? いえ、人とは、違いますね。剣? でも、人と会話ができるので、ただの剣ではないですしね? なんと、お呼びすれば……」
「お嬢様。あのお方達は、魔剣や魔法剣、インテリジェンスソードなどと呼ばれているようです」
「そうなのですね。ありがとうございます。セバソティアン。それで、チコ様。そのお方達が届いたので、お食事が終わったら、ぜひ会って頂きたいのです。それで、気に入ったお方をプレゼントいたしますので、これから、何かの際には、その、魔剣? を使って頂けたらと思うのです」
チコは、思わず耳を大きく動かしてしまったんだニャン。まったくお嬢様は太っ腹なんだニャン。こんな生活をさせてくれて、その上にプレゼントだなんてニャン。
「ありがとうニャン。じゃあ遠慮なく貰うんだニャン」
フムフムニャン。神様から授かった知識によると、魔剣というのは要約すると、凄く強い剣の事らしいんだニャン。チコは今でも強いけど、そんな剣を持ったら、もっと強くなれちゃうんだニャン。もっと強くなったら、どうしようか? ニャン?
えっとニャン。何か、何か、えっとええと、ニャン。
閃いたんだニャン!!
良い事を思い付いたんだニャン。凄く強くなれば、その強さを見せ付けて、相手を殺さなくっても、戦いに勝てるようになるかも知れないんだニャン。そうすれば、もう、聖みたいな野良の子を、作らなくても済むかも知れないんだニャン。
「チコ様? どうしました?」
チコがそんなふうな事を考えて、返事をしないでいたら、お嬢様が、心配そうな顔をしたんだニャン。
「何でもないんだニャン。ちょっと考え事をしちゃってたんだニャン」
チコが言うと、今度は、お嬢様が、何かに気が付いたような、顔をしたんだニャン。
「なぜ魔剣なのか? そこが気になったんですね? 流石は、チコ様です。なぜ魔剣をプレゼントしようかと思ったかというとですね。あのお方達は剣なのに人と同じように言葉を使い、考える事ができるお方達ですからね。チコ様は、聖様のお言葉が戻らない事で、悩んでいらっしゃるでしょう? それなので、その辺の事で、少しでも何かのお役に立てればと思って、冒険者の方達にお願いして、探してもらっていたのです。……。剣と聖様とチコ様のトライアングル。これは、なんて、素敵な」
「お嬢様。心のお声が。心のお声が漏れ出てしまってますぞ」
「はっ。私とした事が。セバソティアン。ナイスフォローです。ありがとうございます。それで、ですね。あのお方達が、お話できるようになった理由などを聞いたり、何か、お話できるようになる為の、手段があったりしないかについて、聞いてみる事もできますからね。それに。チコ様の武器にもなって下さいます。チコ様はとてもお強いですが、やはり武器があった方が心強いかと思いまして。あのお方達は武器としても、とても優秀で、なんというか、他にも、とても変わってると言いますか、この世界に一つずつしかない、希少な特性を持つ、お方達ですので」
お嬢様が言い終えてから、チコの手を取って、それから、恋焦がれる乙女のように、目をキラキラと、輝かせながら、早く、あのお方達の元へ。……。そうでした。まずは、お食事をしてからでした。それから、行きましょう。お二方が、チコ様との出会いを待っておいでですと言ったんだニャン。




