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異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話  作者: 一優梨


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いつまでもそばに

パジャマの上に上着だけ羽織って飛び出してきたから、有馬から借りた服に着替えさせてもらうことになった。

腕を通しても手が出てこず、ズボンも前を押さえてずり落ちないようにしないといけなくて、男としては負けたようで悔しい。

でも、有馬の匂いに包まれているみたいで、自分の肩を抱くみたいにそっと布地を握ると、安心と同時に、少しだけ欲が顔を出した。

ちょっとした出来心で服に鼻を寄せる。


布越しに吸い込んだ空気は、思っていたよりも有馬の匂いがする。

洗剤の匂いの奥に、体温の名残みたいなものがある気がして、余計に落ち着かなくなる。



サイズで負けた悔しさなんて、もうどうでもよくなって夢中で鼻を寄せる。


「着替え終わった?」


「おわっ!」


背後から着替え終わった有馬が出て来て思わず身体が跳ねた。


「びっくりした」


ーー今の見られてないよな


有馬の指が、僕の大きすぎる袖を少し整える。


「似合ってるよ。ぶかぶかでかわいい」


「それ褒めてない」


「褒めてる。俺の服着てる月島、最高」


真正面から恋人っぽいことを言われて、顔に熱が集まる。


仕方がないだろう。だって、僕は有馬を失うかもしれなかったから大胆な行動に出れたけど、

その衝動が治った今はただの恋愛初心者なんだ。


「かわいすぎるっ」


有馬が目の前まで迫って来たかと思うと力強く抱きしめられ、喉からグエッと変な声が出た。


今までは有馬の方から触れてくることはなかったし、僕が抱きついても気遣っていたのか、優しく遠慮がちに触れて来た。


ーーーちょっと息が苦しいけれど、こうやって力強く抱きしめられるのも悪くないな


僕も背中に腕を回したいが、ズボンを押さえてないといけないので我慢して有馬が満足するまで抱きしめられてようと、

胸に顔を埋めると、有馬の心臓の音がはっきり聞こえた。


どく、どく、と早い。


こっちまで緊張が移ってくる。


「……ちょ、ちょっと離して」


そう言いっても、腕は解かれない。


有馬の手が背中をなぞるように動いた。


「ごめん、無理。月島が俺の服で、可愛いことしてるから」


もう一度ぎゅっと強く抱きしめられて、今度は変な声は出なかった。

かといっても僕の羞恥心は限界に近づいている。


「……有馬」


「ん?」


ーーそんな顔、反則だろ


甘く溶けたような表情が、まっすぐ僕への愛情を伝えてくる。

こんな顔、知らなかった。

いや、きっと前からあったのに、僕が受け取る覚悟をしていなかっただけだ。


この表情で、この声を僕に向けてくれるなら、

今は、恥ずかしさなんて忘れてしまってもいいのかもしれない。


恥ずかしさが消えたわけじゃないけれど、触れていたい気持ちのほうが、勝っただけだ。



「やっぱりもうちょっとだけ、このままでいい」



有馬にちゃんと思いを伝えられて、正真正銘の両想いになれたから安心したのか、僕の腹の虫が盛大に鳴った。


その日僕は久しぶりに有馬の家で過ごした。















恋人になった有馬は、なぜか僕を膝に乗せるのが好きだ。

スマホを見ていると、後ろから手で画面を隠してきたり、首筋に顔を埋めてぐりぐりしてきたりする。

そのたびに、くすぐったくて、どうしようもなく愛おしい。


恋人になる前は、僕のほうが甘えていたはずなのに。

実は、有馬も相当な甘えん坊らしい。


「なあ、月島」


不意に名前を呼ばれて振り向くと、やけに近い距離で目が合った。

糖度が増した甘い顔で見つめられるようになってそれに慣れない僕の心臓は大きく跳ねる。


「好きだよ」


何度も聞いた言葉なのに、初めて聞いた時と同じような幸福が胸の奥に広がった。


「僕も」


それでも、有馬はまだ満足していないみたいに、僕を抱きしめる腕に力を込める。


「ずっと一緒にいような」

「当たり前でしょ」


そう言って抱き返すと、有馬は子どもみたいに笑った。


有馬の笑顔を見ていると、不意に胸の奥に引っかかっていたものが浮かび上がる。




「そういえば、有馬」


「ん?」


「前にさ、あの部屋、勝手に開けちゃったんだ」


僕が指さしたのは玄関からすぐの所にある扉だ。


「あのなかに箱がいっぱいあった」


可愛いクマのぬいぐるみ。

リボンのついた小物。

どう考えても、有馬の趣味じゃないものばかり。


「あれってなんのためにあるのか、正直に教えてほしい」


有馬が隠し事をしているとか、裏切っているとか、そういう不安はない。 


それでも、あの部屋を思い出すと、胸の奥がほんの少しだけざわつく。


ーーもしかしたら、僕のために?


って可能性をちょっとだけ期待しているし、別にちがってもいい。

有馬の趣味だったとしても、他の人にあげるものでも、僕が有馬の恋人ということは揺るがない。 


静かな部屋に、心臓の音だけが響く。

有馬はしばらく黙って、それからゆっくり息を吐いた。


「……怒る?」


「怒らない」


「引かない?」


「引かない」


少しの沈黙。


そして、有馬は苦笑した。

僕の手を引いてその扉を開ける。

前に見た時と同じ箱の山が目に入る。


「全部、月島の為に買ったやつ」


聞いた途端喜びが胸に広がった。


「誕生日とか、クリスマスとか、記念日に毎年買ってたんだ。月島が好きそうだなって思ったやつ、見つけるたびに」


クマも、リボンも、あの部屋も。


「いつか、ちゃんと渡したくて」


胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「でもさ、重いだろ。だから隠してた」


と小さく笑う。


ーーああ、本当にこの人は







「全然重くないよ。むしろ嬉しい」


そう言った瞬間、有馬の喉が小さく鳴った。




「……ほんとに?」


「うん」


不安気な有馬の表情がだんだんと和らいでいく。


重いなんて、思うわけない。

10年分の思いが込められていた部屋。

それは重さではなく、厚みだ。


一歩も引かないで見返すと、有馬は力が抜けたようにゆっくり息を吐いた。


それから、僕の手を取る。


「じゃあ」


低い声。


そのまま、僕の左手を持ち上げる。


有馬は、僕の薬指を指先でなぞる。


そこはまだ、何もはまっていない。


でも、次の瞬間、そこに唇が触れた。


「予約」


微笑みを向けられて息が止まる。

胸の奥が、熱い。


「今はまだ何もないけどさ」


もう一度、薬指を親指のはらで撫でる。


「ちゃんと埋めるから」


その言葉に、僕は有馬の手を握り返す。


「待ってる」


有馬が笑う。


子どもみたいで、でもどこまでも真っ直ぐで。


世界が、これ以上ないくらい鮮やかだった。





十年前に戻れなくても別の世界もいらない。


今の僕を、何ひとつ置いていかなくていい。


不安も、臆病も、遠回りも


全部あったから、今の僕がここにいる。


あの日、もし別の世界に行けるならと願った僕へ。


大丈夫だ。


逃げなくても、ちゃんと辿り着ける。


そのとき、僕は――


有馬の隣にいる
















 

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