産まれる…
横河美波
本棚を見ればその人が判るという。
大地の記録はその人がどう生きてきたか判るけど、思想や感情等、頭の中までは実は判らない。
辛いのばかり食べてるな、辛党か。猫カフェよく行くな、猫好きか…みたいな趣味嗜好は何となく判るけど…まぁ、万能ではない。
髪の毛を乾かすと、私は早速書斎?のドアを開けた。
「おぉ…」
思わず声が出てしまった。
部屋の壁には私の背丈より少し高い統一感のあるブラックの本棚がズラリ。
私の目線より低い高さの本棚が奥から順にズラリの3列。
それでその棚の上には有名マンガのフィギュアやガンダム(?)のプラモデルがズラリのズラリ。
壁際の本棚の上、天井までのスペースにはアニメや映画のプリントシャツや映画のポスターや友達との写真が飾られているし、モデルガンもでっかいのやら長いのやらちっさいのやら掛けれられている。
窓際にはデスクトップパソコンが置かれたテーブルがあって…なんかキーボードとかディスプレイの淵が緑色に光っている。
男の好きが詰まった部屋って感じで圧倒された。
気を取り直して蔵書を眺める。
まるで本屋さんにいる気分。
ってか、本当に本屋さんみたい。
少年漫画から青年漫画だけでなく、少女漫画まである。ライトノベルもあれば中学生女子が読むような恋愛小説もあるし、勿論普通大人が読む小説もある。新書やビジネス書や自己啓発、グルメ、アウトドア…楽譜まで色々ありすぎる。
…おいおい、この蔵書から持ち主の何が判るっていうんだ?
棒がありすぎる輪投げをしてる気分になってきた。
ぼーっと本棚を眺めて歩いていると…
壁際の背の高い本棚の前で足が止まる。
「……」
昔私が好きだった、おもちゃのクマが出てくる絵本の背表紙が目に入ったからだ。
その本棚には絵本が並べられていた。
昔母親や先生が読んでくれた絵本もあったけど、その他にも私の知らない絵本がいっぱい。
その上の方には育児に関係する本が並んでいて…どきっとしてしまった。
子供が好きなんだな…
凄い…なんか、将来の事を考えてるんだなぁ…と思うと胸からヘソの下まで熱くなるのを感じた。
そうだよね、子供、欲しいよね…私も欲しい…欲しいなぁ…欲しい…
「絵本って良いよね」
「ひいっ!!」
突然隣で手ノ塚さんに話し掛けられて私は驚いてひっくり返ってしまった。
「えっ、ちょ!大丈夫?!」
脳天が後ろの本棚にぶつかる寸前、手ノ塚さんに腕を捕まれて…ますます動転してしまった。
「子供がいつから見てて!?いつから私も見てました!?」
「そんなにヤバイ本あった?エロ本隠してるのここじゃないんだけど?」
にこにこしながら私を立たせると、手ノ塚さんは1冊の絵本を手に取ってパラパラとページをめくった。
「絵本ってさ、どんなに悲しい事があっても、辛いことがあっても、大抵の話は最後には幸せになるんだ。」
「…」
「この絵本はね…」
ページをめくりながら説明してくれてるけど、けど…
胸がどきどきして息が上がって辛い。
「だから絵本って好きなんだ、揃えちゃう」
好き、私は好きになっちゃった、どうしよう?押し倒す?押し倒される?子供が欲しい!この人との子供が欲しい!あぁ、どうしたら良い?股を開けば良いか?どうかお願い、種だけでも良いから、どうかどうか、今産みたい!!!
「あ!」
「え?!」
お腹に激しい痛み。
それに気付いた瞬間、私は顔と股を抑えて部屋をかけだしていた。
やってしまった…本当にやらかしてしまった…
どうしたの!?という手ノ塚さんの声を背中に聞きながら、私はトイレに駆け込んだ。
股間を抑えていた私の手はズボン越しなのに、ぐしょぐしょになっていた。
破水した。
手ノ塚さんが好きになりすぎて、体が勝手に子供を作ってしまった。
腹の痛みは陣痛だ。
激しい痛みに呻き声が出てしまう。床を汚してはいけない、私はどうにかズボンを脱いで便座に座り込んだ。
手で抑えても羊水は膣からだらだら流れてきている。
まずいまずいまずい、本当にまずい、お腹の中に人間の赤ちゃんみたいな大きさの何かがいる感覚がある。
欲求のままに何も考えずに本能と欲望が子供を作ってしまった。陣痛が激しくなるにつれ魔力がどんどん子宮の中に凝縮されていく…産まれてしまう。
こんな所で…というのもそうだけど、1番問題なのは、欲望のまま何も考えなかったこと。
どんな子供が産まれるか判らない!
いつもはどんな能力を持たせて、形は~とイメージしながら魔力を練り込んで出産するんだけど…何も考えていない!
子猫を産むのですら難産で悲鳴を上げたのに、人の赤ちゃんサイズなんてここで産んだら…そして産声なんてあげられたら…
手ノ塚さんの家で、彼の前でそんなことになったら…!!
考えろ…考えろ…
「…!!!」
あぁ…産まれそう…!!