不慮の事故
横河美波
「…横河さん…?大丈夫…?」
ドアの外から、控え目な声量で手ノ塚さんが声をかけてきた。
「…ごめんなさい…」
荒い息を押し殺して私は応えた。
「…その……恥ずかしいんだけど、急に始まっちゃったみたいで…」
とりあえず生理が来てしまったことにする。
出産の疲れに便座に座った膝をだらしなく広げて、その片方に乗せた我が子を優しく撫ぜた。
楕円形をした紫色で大理石みたいな質感の肌を持つ…お餅よりは柔らかめのスライムが私のお腹に頬擦りしている。
大きさは出来上がってしまったから変えられない。それならせめて出産に負担がかからない形状といえば…急だったけどこれしかなかった。
私の不徳の致す所で本当に、本当に申し訳ないと思う。
もっと可愛い動物の姿もあったろうに…。
「あっ…ごめん、まじか…えっと、何か必要なものある?」
「私の…カバン持ってきてくれますか?スマホはテーブルの上にあるからそれもお願いします」
わかった!と走り去る音。
頑張って魔力だけは押さえたけど…ばれてないかなぁ…
「ごめんね…生まれたてで悪いけど…綺麗にしてくれる?」
名前…何にしようかな…とりあえず咄嗟に与えた能力…清掃の能力を持たせた我が子は
『はーい』
元気に返事をして、この子が産まれた勢いで便座から床に飛び散った私の羊水の上をぬるぬると進んで掃除を始めてくれた。
本当はこんな汚い役割なんてさせたくないけど…変な能力が発現する可能性もあったから…仕方ない。
掃除大臣だからって下に見ないように子供達に教えないと。
「横河さん、カバン…ドアの前に置いて大丈夫?」
「…あ、うん、本当にごめんね、迷惑かけて…ズボンも汚しちゃった…」
欲望を抑え込めなかった私が本当に悪い。
「ズボンなんか全然良いよ。換えも置いておくから。シャワー、また使うんだったら、気にしないで使って!」
お風呂にメイク落としはあったけど…流石にトイレにはナプキンは無くて少し安心する。
掃除する時間と、体調が落ち着くまで少し時間を稼がないと…
「弥生達が来るまで、トイレにいても良いですか?」
「全然構わないよ!居間にいるから、なんかあったらLINEしてね!」
足音がぱたぱたと居間の方に消えていく。
本当優しいな…心がほっとする。
『ママ!綺麗になりました!』
床や壁をうごうごしていた息子が、大理石みたいなツルツルな肌をぐねぐね動かした。
「確かに!すごい綺麗になったね!すごいね!産まれたばかりなのに…本当に凄い!」
私の暴走で意図しないで産んじゃった子…でもこんなに健気だ…涙が出てくる。
「君の名前はコメットね。大事にするからね」
『ぼく、コメット!ありがとう!素敵な名前!』
あー…可愛い…抱きしめると体中を震わすコメット。
この子を中心に魔力の流れを隠す能力も持たせているので、気兼ねなく私の家に転送することができる。
アルトに心で話し掛けて、コメットを送り届けた。
後は皆で上手くやってくれるだろう。
こっちも上手くやらないとな…とりあえず私は生理になった体なので弥生に電話した。
丁度スーパーを出た所だったみたいだけど、ナプキンと生理用のショーツを買ってきてくれるみたい。
筒木さんと弥生には後できっちりお礼しないと駄目だね…
あぁ…それにしても…私、私…あああああ!




