神様はジョージ
-手ノ塚司-
俺は絵本が好きだった。
登場する子供は時に苦しい事、辛い出来事に直面する。でも、必ず最後はハッピーエンド。
変に穿った作りじゃない絵本以外は全部そう。
最初から最後まで苦しい事なんておきない絵本だってざらにある。
人生は楽しい。いつか報われる。
それが1番じゃないか。
俺は今が楽しい。
もし今は苦しくても、それを乗り越えれば絵本のように明るい未来がある。
子供の時からずっと思っていた、感じていたこと。そして現実は本当にそうなっていた。
俺が最初に異世界に飛ばされた時、これは苦しい事だ、と素直に思った。
どうして俺が世界を滅ぼさないといけないのか?
もしこれが絵本の登場人物なら?
なるほど、これは仕事だ、と。
俺が俺の為に幸せになる為の仕事なんだ、と。
なら、せめて、苦しい仕事も楽しめば良いじゃないか…そして今に至る。
神様は観客だ。
これはきっと俺しか知らない事実。
神様は遊んでいる。
神様は実は何人もいる。
世界を作る力を皆が持っていて、それぞれ自分が作った世界の発展を見るのが好きな生き物だった。
そこに一石を投じたのが、とある神様で名をアンジー。
俺達が暮らすこの世界の人間を別の世界に連れて行ってみよう。
そしたらどんな生活をするかな?
別の世界の文化をアピールしだして別の世界に生きる存在に変化をもたらしているぞ?
その相乗効果が神様達にウケて、神様達の間に異世界召喚のブームが訪れた。
んで、俺が高校生の時に呼ばれたテーマが
2人の人間がとある世界に転送されたら?という設定だった。
今まではAがBの世界に行ったら?と言う流れだったが、これはAとBの人間がCの世界に行ったらどんな相乗効果がおきるのか?という設定で、神様達がその斬新さに注目をしていて…
Aの勇者が攻めて、Bの勇者の俺は彼を補助してCの世界を救うというロールだったんだけど、それを破って俺はAの勇者を殺した。
Aの勇者は傲慢だった。コミュ障だったのに能力だけは強いから周囲に賞賛され天狗になった。
俺は地味なサポート能力しかなかったけど、人脈を構成するのは得意だったから横や縦の繋がりを強固にしていった。
それが気に食わなかったAの勇者は、俺を逆賊扱いにして卑劣にも襲いかかってきた。
だけど、俺もそれは関係を強固にしてきた仲間のお陰でその不意打ちを知っていて…Aは俺の手で、仲間やシンパの目の前で死んだ。
仲間を切り捨てた俺の存在が神様達にウケたのか、AとBの戦いをCの世界でする、みたいなムーブメントが起きて今に至る。
何が神様達の琴線に触れたのか判らないけど、俺は勇者Aに対する世界征服を企む悪役BとしてCの世界を勇者を退け12個程滅ぼしてきた。
それだけ異世界に行ってたら、神様にだって知り合いはできる。俺の担当神様とは、こっちの世界でよく一緒に呑んでる。
どう見ても日本人なんだけどジョージっていうオッサンだ。俺のお陰か判らんが、羽振りがよくていつも良い店を奢ってくれる。
まぁ、それでさっきみたいなのを教えてくれた。
じゃあ、今俺達がいるこの地球もCの世界の1つか?と聞いたら、ここは「遊び」を楽しんでいる神様達より上の存在が作った物だから好き勝手いじられないらしい。
ほんまかいな。
なら何でここの住人を異世界に送って楽しめるのか??
…まぁ、なんでも良い。
「…」
風呂上がり、俺は漫画部屋にいた横河さんに面白い絵本を薦めていたら…
「あ!?」
突然声を上げた横河さんに、俺は絵本から顔をあげていた。
「え?!」
血走った目の横河さんと目が合って…でも声を上げたのはそれだけではない。
地球で時々いる霊感が強いレベルを遥かに超える魔力が横河さんの体から漏れていたからだ。
「…!!」
突然お腹の辺りを抑えて部屋を飛び出していく横河さん。
荒々しい足音はトイレの方へ消えて行った。
「…」
彼女が走った後には点々と薄い赤茶色の液体が落ちていた。
生理かと思ったが…臭いがなんか違う、甘い漂白剤みたいな不思議な臭いがした。
異世界での勝利者は地球に戻る、という選択肢もある。勇者、英雄(SFとかファンタジー以外の世界観)のライトサイドと俺のように魔王やヴィランズのカオスサイドにも勿論その権利がある。
あの魔力量…あれは多分異世界帰りの帰還者のソレだった。
俺以外にも異世界に行って、勝利を収めて帰ってきた帰還者は何人か知っている。
ほとんどがライトサイド。
会った時は…色々面倒だった。
奴等、異世界でカオスサイドにしこたまやられたのか、ばれた瞬間攻撃してきたりするからな…俺とは戦ってないのに。
うーん…何組もここから送り込まれてるらしいから…横河さんが帰還者だったとしても、まぁありえる話だ。
問題は…俺と敵対しているかどうかだ。
実はあの子はライトサイドで、カオスサイドの俺に気が付いて…更にCDRBだったら厄介だけど…
廊下からトイレまで、血みたいな粘液を拭きながら考える。
結論。
問題無いな。BBQで一緒になったけど、敵意なんか欠片も感じなかったし、演技してる様子も無かった。
隠していた魔力が何故か暴走したみたいだけど、ひたすらそれを見られないようにとトイレに走って行った。
隠そうとしていたんだ。多分、既に俺以外の帰還者に会って痛い目を見ていて魔力を隠して生活していたのかもしれない。
あの隠し方は見事だった。暴走するまでは俺も普通の女の子だと思ってたし。俺は完全ノーガードで油断してた。
攻撃してくるチャンスなんか幾らでもあったのに、何もしなかった。
魔力が暴走した時も殺意なんか欠片も出さなかった。
つまり、俺を襲う気は無い!
俺は気持ちを切り替えた。
事情がありそうだし、警戒させたらまずいからあの子が言って来るまでは異世界の事は黙っておこう
。横河さんと仲良くなっていく段階でさらっと聞いてみたら…良いリアクションが返ってくるかもしれない。
もし仲良くできたら…お互いの異世界トークもしたりして凄い楽しそう!
なんかわくわくしてきた。
とりあえず、今回は彼女に乗っておこう。
「横河さん?大丈夫?」
あぁ…横河さんの事を色々知りたいな……




