幸せな結末とこれから
手ノ塚司
SF界隈のテロは大規模ガス爆発ということで世間的には納まった。
舞希流や、他の関係筋の情報によると…異世界から戻ってきた8番目の勇者が町で大暴れしたってことで、とりあえず通っているらしい。
それでも勇者が現れる前の5カ所の爆発や、それを引き起こしたSF界隈5人の姿に関してはバレるかもしれないと内心ヒヤヒヤしていた。
勇者との戦いで倒壊したビルをガス爆発用に数件残して、他はCDRB職員の時空魔法で事件が起こる30分前まで巻き戻された。その場に居た怪我人や死亡者も勿論。怪我は治るし死者は蘇るし、記憶もリセット。
もし、爆発ギリギリの時間設定ならSF界隈の5人やそいつらが起こした爆発を見ていた人がいたかもしれない。
時空魔法を使えるCDRB職員。名前は大渕。適当で怠惰なヤツで、時空魔法が使えなかったら即解雇モノの勤務態度らしいが…良い仕事をしてくれた。
良い仕事といえば、CDRBのパラディンの大久保。こいつも8番目の勇者から屍竜王を引き剥がして浄化してくれた。苦労しただろうなぁ、お疲れ様でした。
SF界隈に関しては、安田さんの大説教の後に念の為ということで南米のジャングルに俺が飛ばした。後は知らん。何かあったら同行している安田さんから電話が来ることになってはいる。
これはまた後日の話。
今から今の話。
横河さん。横河美波さん。
連中を南米に飛ばした後、彼女のいる場所まで戻ると、彼女は貸してるマントをひらひらさせて数キロ先の8番目の勇者が大暴れしてる様子を眺めている所だった。
あぁ……なんて可愛い背中だろう。
「美波」
呼びかけると嬉しそうなとびきりの笑顔で振り向くと、俺の胸の中に飛び込んできた。
「終わったの?」
「終わったよ〜お互い大変だったね」
横河さんの髪の毛を優しくかき回す。ふんわり漂う甘酸っぱい汗の匂いとほのかに香るシャンプー、瓦礫のクズや砂埃で少しごわついた髪。
つかさ〜!と名前を連呼しながら俺の胸に額をぐりぐり押し付ける美波。
数キロ先で起きる爆発なんてもう意に介していないみたい。ひときわ大きい爆煙がビルから上がる。その衝撃がビリビリと足元まで伝わってきた。
「静かな所でお話しようか。俺の世界に行こう?」
「司の世界って……さっきの?」
「うん、あれとは別のチャンネル。良い別荘があるんだ。」
頷く美波をお姫様抱っこして唇にキスをすると門を開いて中に入った。
舞希流と過ごしている洋館がある所とは別のチャンネル。
こっちは海沿いの別荘をイメージした空間にしている。時間は初夏の昼頃。気持ちの良い快晴の空。
目の前に広がるのは水平線の見える海、歩くと音が鳴る白い砂浜。
振り返ると椰子の木や低木が生えている丘と海に流れる小川、そしてアメリカ映画によく出てきそうな四角形で構成された白い壁の家がある。
そよぐ風は春先のように涼やかで気持ちが良くて、吸い込むと爽やかな潮の香りがした。
「綺麗な所だね、さっきの場所とは全然違う」
美波が俺の手の中で大きく息を吸い込んだ。
「美味しい空気…あっちの世界みたい」
「いつでも来れるように入り方教えてあげるよ。とりあえず家に行って埃とか洗い流そう」
「えー…」
俺の提案に意地悪く笑う美波。俺の手から降りると海に向かって駆け出していった。
歓声を上げて走りながらマントを脱ぎ捨てると、勢いよく全裸で海に突撃していった。
「つめたーい!気持ち良い〜!!」
なになに、面白そうじゃん
俺も服を脱ぎながら後に続く。少し熱い砂浜、足を切るゴミなんてないから遠慮なく走ることができる。
「おらー!」
腰まで浸かっている美波の横に飛び込んだ。
しぶきがかかった美波の楽しそうな悲鳴が海の中にまで聞こえる。サウナの後に入る冷水まではいかないけど、少し冷たい海。
浮かぼうとしたら、その背中に覆いかぶさってくる美波。
うお、苦しいじゃん。口の中に海の水が流れ込んできて激しく塩っぱい。両足に力を込めて立ち上がった。背中に乗っていた美波が「わー」と言いながら海に落ちる。
頭まで水に浸かった彼女を助け起こす。2人して変なテンションなのか一緒に笑い転げた。
箸が転がっても楽しいかもしれない。胸の中に飛び込んできた美波を抱きしめて話しかける。
「海で遊ぶの初めてだね」
「ねー」
「色々な初めていっぱいしようね」
「うん…」
温かい。美波さんの肌は冷えた海に入っているのに俺よりも熱を持っていた。
俺の片手で収まる大きさの胸もぴったりとくっついていて、なかなかドキドキする。
2人の初めて、家に入ってシャワーを浴びて紳士に行こうと思ってたのに難しそうだ。
「お腹は冷たいのに…なんか熱いのあるよ?」
悪そうな顔で微笑む美波。
「ごめん、我慢できないわ…砂浜でも良い?」
「…海の中でも良いよ」
俺は美波にキスをした。
いままでした唇だけのキスじゃない。舌を入れると、美波は優しく受け入れて絡めてくれた。
海の味、潮の味。
頭が彼女のことしか考えられなくなる。
息が上がる、彼女も呼吸が荒くなって肌をくすぐってくる。
「2人の初めて、いっぱいしようね…」
なんて最高な誘い文句だろうか。
生憎時間はここにいる分には山程ある。
美波の事を聞いて、俺の事を話して…きっと楽しいだろうな。
彼女は俺のことを理解してくれる。
あぁ、俺はなんて幸せなんだろう。




