SFは立場が弱い
手ノ塚司
舞希流との大人の付き合いの時間が終わって、小休止。
夜の薄明かりの中、裸の状態で、だらんと手足を投げ出して目を瞑って呼吸を整えている舞希流の股間をティッシュで拭いてると
「あの方、好きになりましたか?」
嬌声の上げすぎでカサついた声の舞希流が口を開いた。
唐突に質問されて少しどきっとする。
「結構気になってる、なんで?」
美波さん。
本当可愛い良い子だ。
皆で呑んだあの日以来、ちょくちょくLINEで話をしている。
その日あった事とか、エプロンの話とか、エプロンの話とか。
「抱き方が普段より優しかったので」
舞希流が身を起こそうとしたので、俺は彼女の手を引いてそれを手伝うと、そのまま肩を組むように抱き寄せた。
「舞希流のことしか考えてなかったけどな」
「そういう事にしておきます」
俺の太股辺りを指の腹でとん、とん、とする舞希流。
手を繋ぐ、抱きつく、もたれかかる、腕枕やら何やら、彼女のポリシーで絶対に俺に甘えてこない。
こっちが何かしたらされるがままなのだが、唯一してくるのが、こうして俺の体のどこかをとんとんしてくること。
無意識なのかもしれないけど、そうやってくれるのが、俺は少し嬉しい。
彼女は汚泥の精霊。異世界の住人だ。
そんな彼女が俺達の世界に居続けるには、少し問題があった。
俺達の世界にも魔力はある。
帰還者がこっちに帰ってきても普通に魔法を使える位の濃さだ。
でも、中にはその異世界独特の魔力でしか魔法や能力を使えない帰還者もいて…舞希流もそんなタイプの精霊だった。
幸いな事に俺が魔力を与えれば普通通り行動できる…逆に与えないと消えるから…定期的にこうして肌を重ねて濃厚な魔力をあげる必要があった。
将来のパートナーには悪いけど、俺は舞希流も大事。だから俺が生きている限りは舞希流を抱き続ける。
なお、俺が死んだ場合は俺の心臓をあげる約束になっている。心臓を取り込むことで魔力が永遠に注ぎ込まれるんだとか。
すげぇな、俺の心臓。
舞希流がシャワーを浴びに部屋を出て行った。
俺は裸のままバルコニーに向かう。
開けたままの窓からは心地良い夜風が吹き込んできている。
空には星空。
そしてサバンナのような平野が続く。
パン、と手を叩くと瞬く間に星は消え、青空が広がった。いつの間にか現れた太陽の光が肌を暖めてくれる。
ここは、7番目の異世界の能力で作った俺の世界。
天候、時間、見える景色や存在する生き物は自由自在に変えられるし、ここでの1年は向こうで1秒。
だから仕事に疲れた時は、渓流釣りをしたり、ビーチで海水浴、月の沙漠で凧揚げしたりしてストレスを発散させている。
あと、舞希流との大人の時間も人目が無いここでしてたり…用途は幅広い。
「お先に頂きました」
「ほーい」
シャワーを浴びて白いスウェットに着替えた舞希流がドアを開けて部屋に戻ってきた。
なお、部屋…というか家も思った通りに創ることができるので、カタログで選んだ西洋風の屋敷の形にしている。
内装やインテリアもそれに準じてシックな物が並んでいて、息を吸いこむと古い木の香りもして…我ながら再現度の高さに関心する。
俺もシャワーを浴びて戻ってきたら、そんなシックなテーブルの上にジャンクなコンビニ弁当やおにぎりにお菓子、缶ビールが並べられていた。
雰囲気とかはどうでも良い、楽しければ良い。
「司」
「んー?」
ツナマヨの包装を解いてるとカルビ丼を片手に舞希流が話し掛けてきた。
「帰山電子の資源競合部から安田彰が退職しました」
「へぇ…」
舞希流は時々、どこからか帰還者の情報を仕入れてきて俺に流してくれる。
資源競合部…レアメタルや石油とか天然ガスを扱ってそうな部署だけど、実際は企業が帰還者を雇う時に入れられる部署だ。
これは別に家電メーカーの帰山電子だけの部署だけじゃなく、自動車や鉄鋼、不動産、医療、製菓やら畜産まで、帰還者を抱えている企業は皆その部署がある。それが業界の決まり。
異世界の能力や魔法、技術やマジックアイテムは資源。なんか会社っぽい考えというか…
まぁ、妥当だよな。異世界の能力や魔法、技術は未知の物が多い。今の技術に利用応用できるものだってあるだろうし、魔法やマジックアイテムは無限のエネルギー源にだってなり得る。俺だって企業側なら帰還者とは仲良くしたい。
でも、安田が解雇されたってのは、更にその奥の話になってくる。
資源競合の本質は別にある。
例えば企業Aは企業Bの帰還者(能力)が欲しい。
幾ら金を積んでも欲しいが、Aは手放したくない。
それなら、Bはどうやって奪うか?
企業所属の帰還者同士を戦わせる。
そして勝利者側の希望が通る単純な世界。
帰還者だけでなく、その他利権も…
誰が考えたかって、金で解決しないなら力。ごく簡単な理屈だ。
安田はそこでは割と名を馳せていたんだが…SFの世界に居たのが駄目だった。
「燃料問題だろ」
「まさに」
SFの世界って武器や道具が未来の技術ってことで注目される反面、弾薬や燃料•エネルギーが独特すぎてこっちの世界だと見つからないってのがよくある。
特にエネルギー問題がきつくて、己自身や武装に蓄えられているエネルギーが切れる=帰還者が用済みとなるケースがすごい多い。
俺もSFの場所で使った機械が色々あるけど、勿体なくて使えないもん。
ここ数年安田はトップランカーだったけど、エネルギーはよく保った方なのではないだろうか。
SFはハズレに近い。この業界ではそう言われている。
何度か彼と戦ったことはあるけど…耐熱耐寒耐刃…色々な耐性があって戦い辛くて難儀したなぁ。
体も大分改造してたし(勿論それを稼働させるのもエネルギーが必要だったり)、色々な意味で生きるのに精一杯なんじゃないだろうか。
運が無かったよな。
「一応一般職やトレーナーでの道も提案されたようですがプライドが許さなかったようです」
ちなみに俺も各社の資源競合部にスカウトされたりしたけど、全部断ってる。
今の皆でやってる仕事が好きってのもあるし、これまでの戦いは全部自分のため。何かを背負って戦うなんて堅苦しくてだるいってのもある。
「プライドねぇ…無くったって生きていけるのにな」
「同感です」
ツナマヨを頬張りながら、缶ビールのプルタブを開けて舞希流に渡す。
俺も結構呑むけど舞希流もガンガン呑む。
ビールに関しては500mlを箱で積んである。
魔力の供給、情報の交換、雑談…月に数回場を設けては2人で過ごしている。俺にとっては大事な時間。
舞希流はどう思ってるのかな。
「司、あの方についてですが」
「別に伏せなくて良いよ、横河さんね」
「落とせそうですか?」
「落とすって響きが悪いな。仲良くしたいと思ってるよ」
舞希流の話すトーンは平坦だけど、世話好きのおばちゃんみたいなテンションになってるのは、多分俺だから判る。
「どういう方なんですか?」
「皆で呑んでる時でも周りのことを気にして色々立ち回れる子だな。お酒勧めたり、肉をとってわけたりしてくれたし、明るい感じの聞き上手で…多分、帰還者。」
「…」
舞希流が静かに、4本目のビールを空にした。
「調べたりしなくて良いからな」
「何もしませんよ」
「いーや、身辺調査しようとか考えているだろ」
「そんな詮無きこと致しません。」
「あの子がライトとかカオスとか俺はどうでも良いんだ。あの子はあの子だから気に入ってる。あの子がどっち側でも、あの子なら俺と一緒に笑ってくれるような気がする。いつか一緒に異世界を救ったとか滅ぼしたとかそんなトークが出来ると思う」
「憎らしい」
5本目を空にして舞希流が小さく呟く。
「今、司は私が気になってることを全部先回りして喋りました」
ただ…と言葉が続く。
「全部司の主観です。司、貴方は12の世界を滅ぼしたカオスサイドの人間です。向こうがそれを受け入れるとでも?」
あー!言いたく無かった!思いたくなかった!聞きたくなかった!
最初、彼女の帰還者の片鱗を見たときは何とかなると思ったけど、色々考えるうちに不安に変わっていた。
俺は8本目のビールを一気に呷ると頭を抱えた。
「そうなんだよな!俺の事をどう思うか!12個の世界を滅ぼしました!相手のライトサイドは皆死んだか再起不能です!「良いと思う!」なんて俺の心の中の横河さんしか言わない!横河さんがカオスサイドならワンチャンあるかもだけど、「12回も…」ってドン引きするかもだし!もしライトサイドで正義の塊だったら絶対無理!」
頭の中がもやもやぐらぐらする。
自嘲気味におどけて見せるけど、正直心配がすごかった。
12の世界を俺は仕事感覚で滅ぼした。
これには罪悪感は無い。
俺も自分の世界に戻りたかったし、好きで自らやったわけでもない。
ごめんなさいとは思うけど、それに関する悪夢を見て寝られないなんてことは1度も無い。
むしろ、あの時の努力が今の俺を作っている!と感謝すらしている。
でも、それによって相手に引かれる。
これが俺が頭を抱える理由だ。
あんなことを沢山して平気、それが普通ではないと俺も判ってる。
そんな俺を受け入れてくれるのか?
12本目のビールを舞希流が手渡してくれた。
あれ、テーブルの対面にいたのにすぐ横にいる。
これまで横に座ってきた女性達の視点は肩から下が多かったけど、彼女の視線は俺とほとんど同じ。
「司がそこまで取り乱す…初めて私と寝た時以来かもしれません」
アルコールで頬を紅潮させて唇の端を吊り上げて笑った。
俺の好きな冷たい笑顔。
そしてキスをするように両手を俺の肩にかけると…額を舐められた。
「…あの時と同じ味がしますよ」
「…若かったんだよ、あの時は」
「私もですよ」
何本目かもう判らないが、舞希流が呑んでいたビールを俺に向けた。
俺も持っていたビールをそれにカツンと合わせた。
「司、なるようになります」
あぁ、その通りだ。
そうだと…良いな。




