表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/26

副業と別の帰還者

横河美波


私の子供の1人、クィスは手のひらサイズのミニウサギの姿をしている。可愛い耳をぴくぴくさせて広範囲の音や魔力を感じ取る事ができる探知系の能力を持たせている(本当のウサギは目が悪いけど、遠隔視力や透視能力もある)。


まずは彼の出番。


『ママ、見つけた。あの雑居ビルだ』


見掛けは可愛いのに口調はクール。


今、私はクィスとシルバにケルドの3人を抱っこして…どこかのビルの屋上にいる。


夜風が気持ち良い。


『ポリのコスをしてる男がスマホに向かって手帳見せてる』


「あたりじゃーん…偉いよクィス」


頬擦りしてやると、恥ずかしそうに顔をそらすクィス。


「キック、場所は判った?」


私の足元。影の中に声を掛けるとそこからアマガエルがぴょんと飛び出てきた。


『クィスと座標を合わせました。問題無しです。いつでもいけます』


インテリで真面目な口調のこの子はキック。転移の能力を持っていて仲間も運ぶことができる。


「最高だね、キック。じゃあケルドとシルバ、後は作戦の通りにね」


三人それぞれにキスをしてあげると


『はーい、ママ』


嬉しそうに影の中に消えていった。


上手く行けばこれで小金持ちだ、と考えるとうきうきしちゃう。


『…』


そこでクィスの溜息が聞こえた。


「どしたのクィス」


『…俺だけちゅー無いの?』


人間だったら凄い仏頂面してるだろう。


妬いてる!可愛い!!!


「あー!ごめんクィス!」


今は2人だけだ(本当はササラも頭にいるけど、寝てる)、目一杯キスをしてあげるとようやく…満足そうに鼻から大きく息を吐いた。


待っててね、手ノ塚さん。私、とりあえずお金から貴方に釣り合う女になるから!



数日経ったある日、事件が起きた。


いつも通りに仕事をしていたお昼前。


『ママ』


子供達の1人、ミドリガメで風使いのウルクからの心の声が届く。


この心の声、相手の心情も色として伝わってくるんだけど…黄色。警戒、緊張の色。


この子にはケルド達の護衛を任せてたんだけど…


『どうしたの?』


『変な女が話し掛けてきてる』


『可愛い~とかじゃなくて?』


『うん、どこの使い魔だ?とか言って覗き込んできてる』


黄色どころか赤信号だ。


子供達には魔力を最低限隠して動けとは伝えたけど、どうしても少しは漏れ出る。


白いキャンバスに薄墨を一滴落とした程度が。


勇者位の実力があれば違和感に気付く人がいてもおかしくない。


『すぐ行く。襲ってきそう?』


『うずうずして僕が襲っちゃいそう。ごめんね、ママ』


ウルクの緊張状態の糸ががはち切れそうになってるみたい。


「弥生、銀行寄るから早めにお昼休み行かせてもらうね」


「…え、あ…うん」


隣に座る弥生の返事も待たず、私は席を立った。


久し振りに胸の奥が燃える、昂ぶった怒りの感情。


私の可愛い子供に手を出してみろ…



トイレの個室に早足で駆け込む。歩きながらウルクの位置は把握していたから、すぐに転移の術を発動させる。


ウルクの視界からその女の位置も判ってる。しゃがみこんで彼を見下ろしているから…私はその後ろに転移した。


一瞬の暗闇、空気と光が室内から屋外に変わる。


キャップに袖を切ったレザーのジャケット、タンクトップにホットパンツ、靴下にワーカーブーツまで黒1色の格好をした女が背中を丸めてしゃがんでいた。


記録を読む。


屋敷花乃、22才。光を操る能力。20才の秋に黒塗り二時間!


確定じゃねえか。


その女が反応するより早く、私はカマキリのカマに形を変えた右手をその頬の傍に突きつけた。


「うちの子に何してくれてんの」


声色はガサガサ。それもそのはず。私の顔は以前吸収した虫の女王の顔に変化させている。


スズメバチに似た風貌。


身バレ防止の為だ。


「びっくりした…」


女が振り向こうとするのを、カマの腹側で頬を叩いて制する。


「何もしてない、珍しいのがいたから声をかけただけ」


彼女はゆっくり両手を上げた。


敵意は今の所無さそうだ。


『みんな、行って』


『ありがと、ママ!』


キックの開いた門にクィスとウルクが姿を消すのを確認して、私は女に向けていたカマを下ろした。


女がゆっくり振り向く。


切れ長の目をさらに細くさせて鋭い眼光で私を睨み付けながら立ち上がった。


私より身長は低い。


年は…高校生~大学生位か。


私の頭から足まで見て


「あんな可愛い子達があんたみたいなキショい虫に使い魔にさせられてるとか、可哀想」


腕を胸の前で組んだ。


安い挑発、私は乗らない。


「あなた、何?」


油断してはいけない。丸腰に見えてこういう手合い…きっと異世界から帰ってきたであろう連中は、何か仕掛けてくるかもしれない。


女が眉をひそめた。


「…何って…何?」


「…え、いや…私の眷族に何しようとしてたのかって…」


「さっきも言ったじゃん…町をブラブラしてたら魔力を感じて、探してみたら使い魔がいたなって話。」


大きく溜息。ただそれだけ。


悪い人じゃなさそうだ。


「殺そうとか?」


「そんなこと思うかよ。可愛いじゃん、動物」


「でしょ、あの子達可愛いよね…」


とりあえず、殺意が無いのは判ったから私は一歩退いた。


こほん。


「脅してしまったようですまない。私のこの顔は身バレを防ぐ為だ。虫ではない。」


「あー…そっか、こっちも虫如きとか言って悪かったな。カオスサイドの帰還者が悪巧みしてるのかと思ったからさ。」


カオスサイド、帰還者。


初めて聞く用語だけど、なんとなく伝わる。カオスなんて悪そうな響きは魔王側ってことだろう。


「一応聞いておくよ、あんたどっち?」


手ノ塚さんや私が異世界から帰ってきてるんだ。私達以外にも帰ってきた人…帰還者がいてもおかしい話じゃない。


でも?うん?魔王側はカオスなら、勇者側は?カオスの反対?え?


「カ、カオスの反対側だ」


魔王…じゃないカオスサイドが悪巧み~なんて言うんだ、彼女はきっと…勇者側…勇者サイド?に違いない。


無駄な争いは避けたい私は咄嗟に嘘をついた。


すると彼女は満面の笑みを浮かべて


「そっかー!私はカオスサイド!」


「!!」


やっちゃった!私は身構えた。左手にもカマを、足には鉤爪を生やして彼女に飛びかかろうと羽まで生やした。


それなのに


「ごめんごめん!嘘!同じ!ライト!ライトサイドだよ!」


両手をぱたぱたと振ってヘラヘラ笑う女。


殺して食って糞にしてやろうか。


「本当ごめん!言ってみたかっただけ!朝のニュース、あんたの仕業だろ?」


海外の特殊詐欺グループのリーダーが自首したニュース。


確かに、私と子供達がやったことだ。


私のお小遣いの為にやったことだが。


「何故そう思った?」


使い魔を見つけただけでそこに結びつけるのは難しいと思うのだが。


彼女の話を要約すると。


町をぶらついてたら、ビルの屋上から使い魔(私の眷属)の5人の魔力を探知。


そのうち3つが転移。転移先を見たら(方法は不明)特殊詐欺の一団の中で魔法を色々使ってた。


とりあえず屋上に留まったままの使い魔に声をかけてみた。


…とのこと。


なるほど、もっともらしい説明だった。


うーん…魔力隠してもモロバレじゃん…対策とらないと…。


「良い事してるヤツがカオスサイドな訳無いよね!あいつら本当非道だから…」


苦々しげに呟く女。よっぽど酷い目に遭わされたのか…まぁ、私がしたことも向こう側にとっては…


心の中で苦笑する。


「あれだよな、そんな格好してびっくりしたけど、仮面ライダーみたいに変身して虫の力を使うライトサイドがいてもおかしかないよな。」


「うん…まぁ…」


「大変だなー、女なのに虫とか。嫌だったろ?」


あ…


初めて異世界の事で共感された。


「すっごい大変だった」


なんか涙が出てきた。


虫の顔なのに涙が溢れてきた。


「え!!!おいおい!!まじかよ!ごめんって!傷えぐっちゃった!?ごめん!!まじごめん!!」


大人なのに、知らない人の前なのに、虫の顔なのに、立ったまま大泣きしてしまった。


そして、私の異世界の体験をライトとカオスの立場を変えて脚色して彼女に話をしてしまった。


彼女も立場を逆転させた話を疑うでもなく、うんうんと聞いてくれた。


「やばいじゃん、それ!」


そしてその総括がそれで拍子抜けしたけど、肩が凄い楽になっていた。


「あっ…会社…」


スマホを見たら昼休みが終わる時間が近づいていた。


「あぁ…そっか…じゃあさ、LINE交換しよう!また話そうよ!身バレしても誰にも言わないし!もう友達だから安心して!」


「う、うん…ありがとう」


こうして、私はライトサイドの1人とLINEを交換した。


名前は…屋敷花乃


光の勇者、とのことだ。


複雑な友達が出来てしまった。



その日の晩、早速屋敷さんからLINEが来た。


ちょっとした挨拶やお昼のお礼をやりとりしてたんだけど、屋敷さんは気になる話をしだした。



屋敷:美波はさ、どこに入ってるの?


私:入る?


屋敷:所属先


私:営業事務だけど



ここで軽快だったメッセージのやりとりが少し遅くなった。


営業事務が気に障ったのだろうか。家族でも殺されたのだろうか?


やがて…



屋敷:帰還者の能力って貴重だから契約して研究したいって会社がある


それ以外にも護衛として雇いたいっていう金持ちも多いんだ


これが民間


国も帰還者を確保したがってる


でもこっちはライトサイドだったら即公務員だけど、カオスサイドとか、ライトサイドでも抵抗したら拘束されるから物騒



背中がぞくっとした。確かにカオスサイドは世界を滅ぼして戻ってきたわけだけど…不可抗力っていうか…嫌々やったっていうか…


…でも…悪、か…悪だよなぁ…




屋敷:国の連中「領域間事象調整局」または英語で略して「CDRB」って名乗る人達に会ったら変なこと言ったり逃げたりしないで


何かあったら私の名前出して良いから


私も知り合いがいるし


私:ありがと、気を付ける。


屋敷:とりあえず美波がどうするかは任せる


でもお勧めは民間かな


今の仕事より給料はすごい高くなると思うし


美波は仮面ライダー的な能力と動物操る力も持ってるんでしょ?欲しがる企業とか多いんじゃないかな


私:そういうのってタイミーとか見れば良い?


屋敷:え?


私:求人サイト、正社員ならリクルートとか?



またそこでやりとりに間ができた


きっと色々考えてくれてるんだろう



屋敷:求人サイトには載ってない


表向きは外国人向けの就職斡旋のNPO法人があるんだけど、そこで田中一郎さんいますかって言えば、情報を色々教えてくれる



私:すごいね、映画みたい


屋敷:すごいのよ、映画みたいなのさ私達は


私:その時、履歴書もいるよね


屋敷:え?


私:異世界でやったことは職歴かな。能力って特技の欄に書くの?



屋敷:それはその時に教えるよ


気が向いたら言って 場所を教えるから


今日はお風呂入って寝るわ


おやすみー


私:本当にありがとうね、おやすみー。



本当に良い子だな、屋敷さん。


私はスマホのカバーを閉じてベッドに横になった。


話を聞いて判ったけど、私がカオスサイドというのは隠しておいた方が良さそうなのは間違いない。


言わないとばれないんだから、ボロを出さないようにしないとな。


それにしても…どっかの企業さんのお抱えか…つまり転職ってことか。


弥生とか、手ノ塚さん達とは離れたくないからパスかな。


手ノ塚さん、前に記録を読んだ時は領域なんとかCD…?に関しては単語が出てきた気はするけど、そっちの人では無い感じ。


職種でも副業してる項目は無かったから、どっかに所属してることもなさそう。


女性関係とか深掘りするより、こっち方面を掘っておけば良かったな…と、後悔。


今から見る事も出来なくもないけど…好きになった分、見辛くなったというか…気が引けるというか。


とりあえず、もうあの人の記録は読まないと決めていた。


まぁ、なるようになる。大丈夫なことにしよう。


どうしよう…今日はおやすみのLINEとかしちゃおうかな…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ