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転生悪役令嬢は全オスを攻略対象にする。そこの雄犬、お前もだっ!!  作者: 村井田ユージ
第二章

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6.答え合わせ(後編)


 聖堂を出たクロエは、乗ってきた馬車に向かう。外は皇后側の兵と、クラウス側の兵が集まっている。双方の兵士達が睨み合う中で、クロエは堂々とその前を歩く。誰しもが彼女の美しさに目を奪われた。

 レオナルドもその1人だ。聖堂で王子と何があったのか問い詰めたいが、遠目で見ても彼女の美しさには見惚れてしまう。

 クロエは馬車に乗り込むと、ジャック・フランドル公爵が話しかけた。


「クロエ、レオナルドと先に帰りなさい。私は用が済んだら帰る。後で話せるか?」


「ええ、お義父さま。いつでも本邸に呼びつけてください。」


 クロエは妖艶な笑みで答えた。ジャックは無表情で頷き、馬車の扉を閉めた。

 馬車は出発し、レオナルドも騎士団と共に王宮を出た。


 帰りの馬車は行きと違い、ゆっくりと進む。美奈子は兄の話を思い出し、頭の中で整理する。


「本当の主人公はクラウスで、私の知る物語りとは別モノ。…やっぱり、考えれば考えるほど納得がいかない。」


 兄は漫画やアニメは自分からは見ない。

 至って普通のつまらない男だが、裏の顔はB級ホラーオタク。

 特殊な趣向だなと思ったエピソードがある。兄は、男性器が何メートルも伸びて、女性器が複数あった男女の変な映画を私に勧めた。内容が全く理解出来なかったが、その映像の中には哲学がありジェンダー論がどうのと熱く語る。私には理解出来ない()()映画を観るのが大好きな人だ。

 尚更、考察が偏っている気もした。

 この世界を物語りと言ったが、殴られたら痛い。刺したら血が出る。髪や瞳の色は非現実的なものだが、私たちは紙切れではない。ちゃんと血の通った人間で、登場人物の1人1人が〝主人公〟だとしてもおかしくない。


 突然、馬が鳴き馬車が止まった。外から「ワン、ワン!」と犬のような鳴き声が聞こえる。王室の御者と馬達は怯えている。

 クロエはすぐに馬車の扉を開けた。外には嬉しそうに吠える狼、キャンディーが居た。


「あら、私を追いかけて来たの?いらっしゃい。」


 キャンディーは喜んで中に入り、クロエの顔を舐めた。


「く、クロエ様!大丈夫でしょうか?!」


 御者は狼に懐かれるクロエを見て驚いた。


「心配ない。その狼は私たちのペットです。進んで下さい。」

 

 レオナルドが近寄り、御者を安心させた。そして、馬車の中のクロエに話しかける。


「私も馬車の中に入りたいです…。」


「あなたは自分の馬があるでしょ?私を警護しながら進んでちょうだい、旦那さま。」


 少し意地悪に言うクロエが可愛かった。


「はぁ、私もリアムになりたいですよ。あなたの膝の上で甘やかされたいな。」

 

 柄にもない事を言うなと思ったが、これが彼の素なのかもしれない。少しずつレオナルドを知ってきている。


「レオ、帰ったら私の部屋でゆっくり過ごしましょう。」


 それを聞き嬉しそうに頷くと、レオナルドは馬車の前まで馬を走らせた。


 昨日からレオナルドは別邸で寝泊まりを始めた。

 クロエの部屋で専属の騎士と兄が一緒に寝ていると知り、卒倒しそうになった。

 絶対に目に届く所に居たいと言う理由から、クロエの部屋で過ごす事を提案する。

 だか、兄に反対された。レオナルドは余った部屋で寝ている。夫婦なのにとても納得がいかない様子だった。

 更に兄は気持ちを隠さずに、平然とクロエを愛していると言うのだ。王子の件にしても、レオナルドには日々心配ばかりが募る。

 クロエの方は、気がつけば自分がハーレム状態な溺愛に戸惑っている。


「クリスタのはずが、私が男達に囲まれてるのよ。あの女、今頃どんな気持ちでいるかしら。ざまぁでもしてみる?」


 悪役令嬢のような悪い顔をして、膝の上で寝転がるキャンディーを優しく撫でた。


「今夜、クリスタに会って答え合わせをするわ。私は全てを受け入れて赦すと決めたの。でも、内容次第では、…。」


 〝殺す〟

 それは常にクリスタを想うと同時に、常に付きまとう言葉。

 兄の話だと、クリスタとクロエは姉妹だ。そしてクリスタは王族の子供でもある。

 彼女はその事実を知らないのだろう。だからクラウス王子を溺愛させる設定にしていた。

 クロエの悪い笑みが止まらない。


「そうよ、お前がクロエを悪役にさせたなら、思う存分に悪役を楽しむわね。私は絶対に死ぬ事の無い悪役なのよ。」





 クロエを乗せた馬車は夕方には到着した。


「お嬢様、お帰りなさい。」


 ダンテは馬車から降りるのを手伝った。専属の騎士の手を借り、クロエをエスコートする光景を見て、慌ててレオナルドは馬から降りて駆け寄った。


「離れろ!気安く妻に触るな。私がエスコートするから下がっていろ。」


 強引にダンテを引き離し、クロエを抱き抱えた。


「ちょっと、私の騎士に手荒な事はしないで!夫であろうが許さない。おろしてよ!自分で歩けるから。」


 レオナルドはクロエの言葉を無視して、お姫様抱っこのまま部屋まで運ぶ。


「ドレス、脱ぐのを手伝いますよ。」


「はぁ、…じゃあ、お願い。」


 不貞腐れた顔をするが、彼の手つきは優しかった。


「湯の準備はしましょうか?」


「いいえ。夕食の時間まで、少しベットで横になりたいの。」


 クロエは夫の前で落ち着ける服に着替える。そして言った通りにベットに横たわる。

 レオナルドも当たり前のように隣にいる。彼の瞳の奥にある欲情を感じとり、美奈子は忠告する。


「疲れているから、寝かせてね。」


 釘を刺され、触れたい欲求を我慢する。

 寝ている邪魔にならないように、長く美しい赤い髪の毛束少し取って、香りをかぎながらキスをした。

 クロエの隣にいられるだけでも、レオナルドには十分に幸せな時間だった。



 今日の夕食は全員で食べるようにと、ジャック・フランドル公爵は命じた。

 久しぶりにクロエは本邸へと足を運ぶ。既に、豪華な食事が並び、クリスタは誰よりも早く公爵の隣に座っていた。

 クロエはジョンとレオナルドに挟まれて座る。互いに無言ではあるが、ライバル視をしている感情が伝わってくる。食事前の祈りを終えたが、非常に食べ難い。


「…ねえ、2人とも手を離してよ。ご飯食べられないんだけど?」


 クロエは2人に指を絡めるように握られ、両手が使えない。


「レオナルド、クロエは右利きだ。お前が手を離せ。」


「嫌です。兄さん、僕の妻に勝手に触れないで下さい。」


 ジョンとレオナルドの溺愛に、クリスタは無表情で食事をしている。

 父親に睨みつけられ2人はやっと食事を始めた。解放されたクロエは嬉しそうに、目の前のご馳走にありつけた。

 幸せそうに口に入れると、「ガギッ」と嫌な音がなる。すぐに吐き出すと小石が入っていた。

 これは、よくある嫌がらせだと、何故か美奈子は嬉しくなった。

 

「どうしたの、クロエ?食事が合わないかしら。」


 クリスタはその様子を見て、優しく声を掛ける。

 クロエは石の入った皿を手に取り、勢い良く後ろにフリスビーのように投げ捨てた。

 ガシャン!と壁にぶつかり皿は粉々だ。使用人達は恐れ慄いている。


「どうしたんだ?!クロエ!」


 公爵は驚いた顔をした。

 隣に座るジョンとレオナルドも、クロエの行動に驚く。


「食えるか、こんな物。 食事に石が入っていましたの。気分が悪いので帰ります。」


 クロエは立ち上がり、吐き出した石を見せつけるかのように、手を高く上げてテーブルに落とす。静寂した部屋に、転がる石の音が聞こえた。


「まあ、なんてはしたないの?!」

「「クロエ、大丈夫か?!」」


 クリスタの声をジョンとレオナルドが掻き消した。2人も立ち上がり、クロエの心配をしている。


「口の中を見せろ。レオナルド、クロエを抑えろ」


 ジョンは人目を気にせず、クロエの口の中を確かめるために指をいれた。


「ちょっと、…ここで、そんなっ。やっ…」


 レオナルドに両手を掴まれて動けない。ジョンは無理矢理に口を開けさ、舌に指を這わせて触る。そのまま顎を上げさせられた。2人はその顔を見下ろすように覗き込む。

 頬を赤くし艶めかし表情をするクロエに、2人は完全に見惚れている。

 3人で色事が始まりそうな雰囲気に、クリスタは青ざめる。慌てて公爵を確認すると、彼もまたクロエを心配そうに様子を見守っている。


「3人とも座りなさい。大事な話がある。」


 公爵は使用人達を咎め、事の収拾をはかる。

 クロエは大人しく席についた。悪役令嬢らしく悪になりきった振る舞いをしようと思ったのに、両サイドのイケメンに邪魔をされた。解せない顔で公爵の話を聞く。


「クロエ、来月の結婚式だが、皇后さまから国を挙げて豪華に執り行うようにと命じられた。」


 その言葉に、クリスタは悔しそうな顔。ジョンは怒りに満ちた顔。レオナルドは嬉しそうな顔とそれぞれの感情を表した。公爵は頭が痛そうな顔で話を続ける。


「…だが、クロエの結婚相手は白紙にした。」


「え?」


 クロエ、ジョン、レオナルドは目を丸くして驚いた。


「どう言う事だ?!父さんっ!!!」


 レオナルドは激怒し、テーブルを両手で叩き立ち上がる。今まで見た事のない、次男の態度に公爵は驚いた。だが、すぐに無表情に戻り話を続ける。


「クロエ、相手は私の息子達から選んで欲しい。だがもし、他に相手がいるのなら君の意思を尊重する。」


 公爵はクロエを真っ直ぐに見つめている。


「クロエ、俺と結婚しろ!あの約束は果たしてやる。」


 ジョンは当たり前のように、誇った顔で言う。


「駄目だ!駄目だ!そんなの許さない!!クロエはもう僕のものだっ!!」


 レオナルドは、取られたおもちゃを返して欲しいと泣き叫ぶ子供のように騒いでいる。

 雑音遮断し、クロエは凛とした姿勢で公爵を見つめ返す。


「お前達、話の途中だ静かにしろ。…クロエ、舞踏会には参加しなさい。その日までに相手を決め、伝統の花を渡しなさい。そして、皇后様の元に連れて行き報告しろとの命令を受けた。」


「お、お父様、どうしてそんな事になったの?」


 クリスタはもう黙ってはいられない。震えながら質問をする。


「皇后様は、クロエを気に入ったそうだ。舞踏会が終わったら、皇后様の茶会には必ず参加するようにとも言われてしまった…。」


 ジャックは頭を抱え、ため息をついた。

 混沌とした状況にクロエは席を立ち、やっと発言する。


「承知致しました。舞踏会で私の結婚相手を決めますわ。でも、フランドル家の男は2人だけでは無いでしょう?」


「!…クロエっ、また君は、…。」


 公爵は三男のヨナスの事を言い出したと、眉間に皺を寄せる。

 クロエはニタリと悪女な表情を浮かべる。


「私の結婚相手の候補には、ジャック・フランドル公爵様も含まれている事をお忘れなく。」


 一瞬で部屋は静まり返る。部屋にいる誰もがクロエの発言に身動きが取れなくなる。


「ど、どう言う事だ?」


 沈黙を破り、公爵は顔を赤くして困惑した。初めて見れた顔に、満面の笑みを浮かべた。



「言葉通りでございますわ、公爵さま。」

 

 クロエはもうジャックを「お義父様」と呼ぶのをやめた。長男と次男はギャアギャアと喚いている。

 クロエは無視して、哀れなクリスタに話しかける。


「お姉さまも、舞踏会で結婚相手を見つけないと。これ以上婚期を逃しては、フランドル家の恥ですわ」


「なっ!」


 クリスタは母譲りの綺麗な顔を歪ませた。それがクロエは無性に腹が立つ。


「わたくし、着て行くドレスが無いので、お姉様のお下がりを貸して下さらない?善は急げですので、お姉さま部屋に行きましょう。」


 クロエはクリスタを強引に引っ張り、耳元で囁いた。


「お前、悔しいだろ?悔しいよな? この物語りが一向に終わらないのは何故だ?それは、私が終わらせないんだよ。このまま、年老いて死にたくなければ言う事を聞け。」


 クリスタは無言で立ち上がる。クロエはうきうきした様子で言った。


「殿方は残りの食事を楽しんで。私はお姉さまをお借りしますわ。」


 クロエとクリスタは部屋を出た。

 残されたフランドルの男たちは、ただならぬ重い空気だ。


「父さん達が勝手決めた事を、また勝手に変えた!僕の意思は尊重しないのか?」


 レオナルドは父を睨みつける。


「尊重するよ。だからお前も自分の意思で妻を選べ。クロエを愛しているなら自分でプロポーズしろ。」


 もうこの話はしたく無いような、面倒くさい態度で答えた。

 兄のジョンは嬉しそうに言う。


「だったら!俺は自分の意思で、クロエにプロポーズするぜ。舞踏会は俺も参加する。」


「兄さん!何故急に、クロエを好きだなんて言い出だすんだよ!最初から嫌いだったじゃないか?」


「お前に言われたく無いな。クソ弟君(おとうとぎみ)。」

 

 父のジャックはため息を吐く。


「お前達、そんな様子じゃクロエに選ばれないぞ。」


「はっ!笑わせるぜ、お父さま。あんたもクロエの候補だろ。いつクロエを口説いていたんだよ?」


 父はもうジョンの挑発を無視し食事を続けた。しかし、レオナルドが思い出したかのように言い出した。


「たしか、クロエが初めて来た日、父さんを見て『なんか、すっごいイケおじ来た〜』って言っていたんだ。兄さん、クロエは父さんを選ぶ可能性はあるよ。」


 ブッと、父は飲んでいたワインを吹いて咽せた。その動揺を見てジョンは危機感を感じる。


「まずいぞ、レオナルド。本当に俺たちの父親が恋敵になるのか?糞反吐が出るな。この男は子供を4人も作ってる。結婚した日の初夜で俺ができたんだぞ。オヤジと結婚なんかしてみろ、一発でクロエを孕ませるぞ。」


「兄さん!下品な事を言わなでくれよ。父に寝取られるなんて想像もしたくないよ。」


 流石に父のジャックは黙っていられない。


「お前達!それ以上は喋るなっ!!」


 珍しく声を張り上げて、部屋を出て行ってしまう。

 「ち、腰抜けめ」と小さくジョンは悪態を吐く。もっと父で遊んでやりたかった。

 そして、つまらなさそうな顔で、部屋にいる使用人たちを見まわした。


「おい、お前達、誰もこの部屋を出るな。クロエの食事に石を入れた馬鹿は誰だ?」


 部屋は静まり返り、使用人達は固まった。


「今、白状したら許してやる。シラをきるなら、俺の眼で犯人を暴いてその場で処刑する。」


 ジョンの言葉に、震えの止まらないメイドが1人いた。その女はクリスタに仕える者だった。


「も、申し訳ございません!わたくしがやりました。クリスタ様から、た、頼まれて、…大変申し訳ございません!」


 その場で跪き、床に頭を付け泣いて謝る。

 ジョンには嘘を見抜ける特殊能力など無い。ただのかまを掛けてやったのだ。


「正直に言えたな。許すが、お前はもう二度とフランドルの敷地を踏み入れるな。クビだ。」


 食事を終わらせ、ジョンは席を立つ。


「レオナルド、聞いただろ。天使のようなクリスタ様には、とんだ二面性があるようだ。侍女を含め、あの女に仕える者を改めて指導しておけ。」


 そう言い捨てて兄は部屋を出た。

 残されたレオナルドは、まだ泣いているメイドを見て命令する。


「あの女を地下牢に連れて行け。後で僕が処分する。」


 急に冷たい態度のレオナルドに、メイドは驚いた。


「さ、先程はジョン様は許してくれるとおっしゃいました!そんな、酷い!お許しください!レオナルド様!!」


 泣き叫びながらメイドは、警護の者が来て運ばれる。

 ぎゃあ、ぎゃあとうるさくて、食欲が無くなった。食事をやめてレオナルドは警護の男に命令する。


「もう、いい。うるさいから、その女の舌を切って屋敷から放り出せ。」


 フランドル家の使用人達は、ジョンやクリスタの二面性よりも、次男のレオナルドの豹変ぶりに恐怖した。







 クリスタの部屋に入り2人きりになる。すると、クリスタは今までの大人しい性格が一変する。


「何でお前死なねーの? 早く死ねよアバズレ!」


 美奈子は自分と同じくらい口が悪くて、仲間意識を持ってしまいそうだった。


「前も言ったでしょ? 私は死を恐れない。だから死なないの。」


「クリスタ!早く、この女を!目の前で殺せ!!」


 クリスタは指をさしながら、おかしな事を言う。クリスタは自分なのに…?

 はっ、と美奈子は気がついた。


「あなたも転生者なの?」


「はぁ〜?何いまさら知らないふりしてんだよ。クソキモイ。」


 クリスタの話し振りは少し幼さがある。呪いの本体ではないと美奈子は悟る。


「クリスタの知らない事を教えてあげるから、あんたも話してよ。」


 クリスタは自分の知らない事があるのが許せなくて了承し、互いの事を打ち明けた。


「私はクリスタが死んだ後、呼び込まれてこの世界にいるの。」


「どうしてクリスタが死んだのを知っているの?」


「一度、頭の狂った殺人鬼がクロエになって男達を皆殺しにしたのよ。クリスタは自分の命を捧げて、その女を殺したわ。そこで私は呼ばれたのよ。」


 美奈子にはそのクロエの記憶が無かった。不思議そうに話を聞いていると、クリスタは誇らしげに話を続けた。


「私は彼女の代わりにこのストーリーを楽しんでいるの。お前は私に殺されて恨んでいるでしょうが、私は何もやっていないわ。全部、クリスタがやってくれるのよ。だから私を憎まないでね。」


 ストーリーの可変は目の前のクリスタでは無い。兄の言うように、クリスタは実態の無い、〝呪い〟なんだと理解した。だとしたら、どう対処したら良いのか…。美奈子は悩んだ。


「私、黒髪の男がタイプなの。」


 その言葉にクロエは凍りつく。


「だから、ジョンを黒髪にしたのに、なんで元に戻るの?今は愛想も悪いし最悪ね。私は今回、レオナルドにするから。あんたは弁えてよね!」


「…ジョンの髪の色が黒になったのは、あなたが望んだから?」


「だーかーらー、私が望めば何でもクリスタがやってくれるの。私は絶対に何もしていないの!その馬鹿な頭で早く理解してよ。」


 ストーリーの可変で、ジョンは幼少に心の傷を負った。更に、母と妹の死は?隠された三男も全部クリスタの仕業なのか?どこまでが呪いなのだろうか。

 ああ、駄目だ。この女は殺そう。心の中で想いは強くなる。

 クロエは表情を崩さないまま、話しを続けた。


「理解が遅くてごめんなさいね。じゃあ、私からもだけど、あなた王族の子供だって知ってる?」


「え?」


 クリスタ目を丸くして、輝いた表情をした。


「あら〜知らなくて残念ね。クリスタは教えてくれなかったの?あなたの母親は私と同じ。父親は亡き王なのよ?本当はお姫様だったのを、何故隠していたのかしら。可哀想にもっと、楽しいストーリーが待っていたのに。」


「ちょっと!それ本当なの?!」


「ええ。勿論本当よ。だから、クラウス王子は腹違いの兄だから攻略対象外にしないとね。」


「やだ!私、お姫様やりたい!!色んな男たちにもっと求愛されたい。こんな所じゃなくて、もっといっぱい贅沢したいわ!」


 子供のように目を輝かせて、クリスタは無邪気にはしゃいだ。クロエは腹の底のドス黒い闇を隠して、優しく微笑む。


「でもね、皇后さまは娘を女王にしようと、王の血をひく子供達を殺しているのよ。あなたの力なら皇后を何とかして、この国の女王になれないかしら?」


「え?女王??」


「そうよ、公爵令嬢なんてちっぽけね、もっとでっかいスケールで女王よ。各国の王があなたの美貌に惹かれて求愛するストーリーなんて素敵じゃない。」


「それ、最高ね!…今回のクロエは、何だか気が合うわね。」


 クリスタは子供のように笑い、クロエと話す。


「今日の話はここまでよ。舞踏会は私、ドレスなんて着ないからあなたが華になって。クラウス王子か皇后様に紹介してあげるわ。その後はクリスタの力でも借りてやってみなさいよ。」


「ふん、あんたって案外良い奴じゃない。私が飽きるまで生かしてあげるわ。」


 クロエはクリスタの部屋を出た。今すぐにこの本邸から逃げ出したい。邪悪な者から遠ざかりたかった。


(兄ちゃん、ごめんね! 私じゃあ、クリスタは手に負えない。最悪は皇后さまの力で殺して欲しいけど、…呪いの力では、駄目かもしれない。)


 兄は皇后を愛していると言った。その皇后にクリスタを押しつけたら、彼女は殺されるかもしれない。

 クリスタとの会話だと、呪いは簡単に命を奪う事が出来そうだ。それなら尚更、先ほどの行動が間違えていた気もする。だんだんと美奈子は不安になった。

 だいたいの答え合わせは出来ている。すぐに、この事を兄に伝えよう。

 別邸に戻り、ジョンとレオナルドを無視して手紙を書いた。クラウス王子に渡すように、その日にダンテを王都に向かわせる。

 翌朝、彼は戻ると兄からの返事を手にしていた。クロエはその返事を読んで、すぐに燃やした。



 そして、いよいよ舞踏会が今宵開かれる。

 朝から鳴り響く王都のお祭り騒ぎが、北部にも届きそうだ。

 ダンテはクロエの部屋をノックした。


「お嬢、準備は出来たか?もう馬車に乗らないと間に合わないぞ。」


 静かに、扉が開かれた。支度の出来たクロエが登場する。その姿を見て、ダンテは絶句した。


「さあ、行くわよ!舞踏会に乗り込んで、雄犬ども全員蹴散らしてやるわ!」


 クロエの高笑いが、誰もいない屋敷に響き渡る。




前日譚の準備で、次回更新は年明けになります。

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